第24話 クラスメイトにキビしい杜若さん
放課後、高校の閑静な図書室。
テーブルを挟んで座り、僕はいつものように彼女と向かい合っていた。
「Tier 1を証明する時がきたみたいね」
開いた文庫本に目を落としつつ、彼女は淡々とした口調で語りかけてくる。
「うわっ……わたしのクラス、強すぎ……?」
「年収低すぎ? みたいに言われても。今回はどういう話?」
「クラスメイトの名簿をカード化してみたわ。このデッキを見てもらえる?」
「プロフィールカードの束……えっ、唐突な切り口で理解がまだ追いついてないんだけど、もしかしてクラスメイトのことデッキ呼ばわりしてる?」
「山札の方が日本っぽいかしら」
「言い方じゃない! せめてRPG風に味方パーティでしょ。友だちを勝手にTCG化するのはモラル的にアウトだよ」
「トモ……ダチ……?」
「概念を初めて知る知的生命体の反応!」
フンと小さな鼻息をついて、文庫本を端に置くと彼女はデッキから数枚をドローした。
「パーティでくくるには多すぎるもの。全員は紹介できないから、クラス異世界転移だと半数は捨て札扱いされるじゃない」
「捨て駒だよ! ……いや、どっちも違うよ! ……とも言い切れない転移ジャンル」
「裏切り者もコアメンバーに紛れているはず。枚数的にもデッキくらいの距離感がいいわ」
「どう足掻いてもこの流れは止められないんだね」
「担任教師はバレー部の顧問だから、ノーマルカードね」
「問答無用でコモンになっちゃうんだ……」
担任は雑用を押し付ける固有効果でラブコメトラップを誘発できるわ、と誰に向けたでもなく彼女はそっけない。
放課後のプール掃除や資料を運ばせて強制的にイベントを発生させるなんて、と環境への強い影響から僕はレアリティーの見直しを求めるのだけど。
相変わらず、お約束にキビしい杜若さん。
艶やかな黒髪を表現する特殊エフェクト。白磁の肌の再現。圧倒的な書き込み量。
有名な神絵師がデザインして生み出された至極のオリジナル。
美麗なイラスト効果で市場価値の高騰が予想される彼女は、
「この手札で複数コンボが狙えそうよ」
「ワンターンキルは盛り下がるからやめてね」
「ランダムで引いたのに揃ったわ。元ヤン委員長の白井さんと、見た目だけ不良の黒木くん」
「なっ、一見すると真逆の組み合わせなのに——」
「こちらのコンボも強烈よ。アニメ好きの太田くんと、派手なギャルの細見さん」
「見えない引力がカップリングをつくりあげてる!」
身近なクラスメイト属性が絡まり、お約束なラブコメ世界観を構築している。
しかもダブルときた。さすが環境上位デッキを自負するだけあるってわけだ。
「じゃあコンボ効果で四枚追加でドローするわ」
「爆アドじゃん」
「オタクに優しいギャルは現環境で強いのよ——あっ……手札事故だわ」
「誰を引いたの?」
「スポーツ万能の町谷くんと、陽気なムードメーカーの村山さん」
「え? どちらも主力級だし、それこそ強力なシナジーがありそうだけど」
「クラス公認のカップルだから本来ならそうなのだけど。でも最近は距離感が微妙らしいの」
「デバフかかっちゃうんだ……ていうか、そろそろTCGの話題からズレてきてない?」
「環境がすぐ移り変わるのよ」
結局、カードを用いてクラス全員を丁寧に紹介してもらう流れに。
クラスメイトをデッキ扱いしつつも、全員の名前やキャラクターをしっかりと認知している彼女だから成り立つわけで。
「椿原さん、桔梗島さん、桜川さんとはいつもお昼を一緒しているわ」
「選んだみたいに露骨な花縛りの友ポジネーミングだね。ていうか友だちいるじゃん。カタコトだったのに」
「わたしをなんだと思っているの? 友人くらいいるわよ。少数精鋭なだけ」
僕の知りたかった、普段クラスで過ごす杜若さんを知れるこの上ない機会となった。
「僕のクラスもなかなか強そう。突然の転校生や、怪しい薬を開発する白衣の子がいるよ」
「お互いにメタデッキね」
「だけどやっぱり、杜若さんがエースのデッキには敵わないね」
「ふぇっ!? ……いきなり本体を直接攻撃なんてズルいわ」
僕たちの放課後はメタなトークのターン制で続く。




