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お約束にキビしい杜若さん  作者: でい


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第22話 ネーミングにキビしい杜若さん

 放課後、高校の閑静な図書室。

 テーブルを挟んで座り、僕はいつものように彼女と向かい合っていた。


菖蒲ショウブ文目アヤメの出番はいつかしら」


 開いた文庫本に目を落としつつ、彼女は淡々とした口調で語りかけてくる。


「たしか梅雨ごろに咲く花だから、時期的にはそろそろじゃない?」

「違うわ。新キャラの話よ」

「新キャラ? この前のストーカーでこりごりなんだけど。それとも個性的な口調の」

「うっ頭が」


 ぐぅぅと大袈裟に頭を抑えて、彼女は話題をうやむやにした。


「そうそう、新キャラの話なのよ」

「今さらっと会話の流れを改竄かいざんしなかった?」

「なんの話? じゃあ、わかりやすく例を出すわね。東城とうじょう西野にしの北大路きたおおじとくれば」

「次はたぶん南のついた名前がきそう」

「それよ。名前の関連性は主要キャラクターを把握する重要なヒントなの」


 逆に関連性のない奇抜な名前を羅列されても覚えきれないのよ。と誰に向けたでもなく彼女はそっけない。

 冒頭の"菖蒲と文目"は彼女の名字から連想されたわけね、と僕も合点がいくのだけれど。


 今のところ、お約束にやさしい杜若かきつばたさん。


 艶やかな長い黒髪。凛とした切れ長の目。スッと伸びた背筋は上品そのもの。

 杜若の花言葉どおり、高貴な雰囲気に包まれている。


 名はたいを表す具体例たる彼女は、


「イチカ、ニノ、ミク、ヨツバ、イツキ」

「あ、数字だ。名前にそれぞれ入ってるんでしょ!」

「数字がつくとだいたい姉妹よ。じゃあハルカ、カナ、チアキ、トウマ」

「音読みと訓読みの混在で悩んだけど、春夏秋冬だね」

「正解よ。春夏秋冬は四人というくくりがちょうどいい上に、名字でも名前でも使えて汎用性が高いの」

「へぇ、なるほど」


 言われてみれば、もはやお約束と言っていい関連ワード縛り。

 かといって、今日の杜若さんは未だそこにツッコまない。

 毒が控えめで、まるでレクチャーしてくれている感じ。


「次の問題よ。赤木、青山……」

「わかった! 次は黄色か緑色だ!」

「違うわ。問いは焦らず最後まで聞くことね。答えは、赤木は熱血で、青山はクール」

「まさかのひっかけ問題……」

「黄色は名付けにくいから当て字で、属性はショタね。ちなみに白や黒は主役級で、色縛り以外でも頻出するの」


 難易度を上げていくわ、と杜若さん。

 何をさせられているのだろう。と僕の内心。


「スペード、ハート、クローバー、ダイヤ。このくくりは?」

「……あっ、チーム分けだ!」

「正解。続いていくわね。エース、ジャック、クイーン、キングのポジション」

「各チームのリーダー格だね。それにジョーカーと呼ばれるトリックスターが出てくる!」

「ふふっ。あなたもなかなかわかってきたじゃない」


 杜若さんがご機嫌に笑う。なかなかお目にかかれない貴重なショットだ。

 眼福とは、まさにこのことを言うのだろう。

 ルールはよくわからないけど、楽しくなってきた!


「杜若さん、さぁ次の問題を!」

「シリアス設定のくせに関連性の高い名前ばかり集まると、あまりの運命力シンクロニシティに笑ってしまうわね」

「えっここにきていきなり文句!?」

「脇役で妙に関連ネームをたまわっていると最後まで油断できないのよ」

「隠れた力を秘めてたり裏切ったりしないなら無用の長物だよね」

「ちなみに、もし菖蒲さんや文目さんが現れてしまうとライバル確定だから、校内にいないことは事前にリサーチ済みよ」

「じゃあハナから出番はなかったわけだ。お約束に対する隙がなさすぎる」

「あと、干支に関連する名字の多い三組には近寄らないことね」

「絶対異能バトルあるじゃん……」


 相変わらず、お約束にキビしい杜若さん……。


 僕たちの放課後は、他愛ない会話でゆるやかに続く。

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