表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お約束にキビしい杜若さん  作者: でい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/25

第13話 告白にキビしい杜若さん

 放課後、高校の閑散とした図書室。

 テーブルを挟んで座り、僕はいつものように彼女と向かい合っていた。


「……わたしたちの関係ってなんなのかしら」


 手にした文庫本を閉じて、彼女はこちらをジッと見つめて語りかけてくる。


「おっ。それ、関係性が進展しないときのお約束セリフだね」

「違うの。今日はそういうのじゃなくて」

「ん? じゃあ、どういう?」

「それは……っ」


 スゥと息を吸い込んで、彼女は真剣な口調で切り出した。


「わたしとあなたの関係よ」

「僕との?」

「そう。考えてもみて? ふたりの男女が、部活でも委員会でも、クラスメイトでもないのに毎日放課後におしゃべりって、もはや普通の関係とは言いがたいじゃない」

「滔々《とうとう》とした日常モノでよくあるシチュエーションじゃん」

「それらは時空が不自然にループしている、ある意味ホラーな特殊環境よ。ヘタに進展したらループの時間軸から外れて戻れなくなるわ」


 イベント事だけ急に季節感を出してくるのよ、と誰に向けたでもなく彼女はそっけない。

 時間の概念を忘れて日常のひとコマに癒されたい日もある。と僕は思うのだけれど。


 相変わらず、お約束にキビしい杜若かきつばたさん。


 日頃のケアが見てとれる、ハネひとつない艶やかな黒髪。

 神さまが太鼓判を押して現世に送り出したであろう端麗な容姿。

 惹きつけられる男子たちの告白を、日課のごとくはね返し続けている。


 そんな校内屈指の美少女は、上目遣いで僕を見つめて、


「わたしたちは、ただの友人関係なの?」

「うーん。肩書きで言えば、友人ですらないかもね」

「そんな……っ」

「だって僕、一度フラれてるしね」

「……え?」

「前に杜若さんに告白したじゃん。即お断りされたけど」

「…………へ?」


 僕の言葉に、彼女はポカンと口を開ける。

 今なら何を投げても入りそう。だけどそんな非道、杜若さんに出来るわけがない。


「まさかわたし、鈍感系主人公だった……?」

「ラブコメの定番設定だね」

「ちょ、ちょっと待って。だってそんな覚え、まったく……。まさかわたし、記憶喪失系ヒロインだった……?」

「あっ、お約束に雁字搦がんじがらめになって、杜若さんのアイデンティティが崩壊しそうになってる」


 杜若さんは頭を抱えてテーブルに突っ伏す。

 サラサラとした長髪が広がり、ふわりと清潔感のある香りが鼻腔びこうをくすぐった。


 その匂いで思い出す。

 そういえば、彼女を好きになるきっかけは。


「去年の、入学してしばらく経ったあとかな」

「……」

「たまたま廊下ですれ違っただけなんだけど、電撃がはしったみたいだった」

「……よく聞く一目惚れの表現ね」

「まさにそのセリフ。一目惚れで告白なんてお約束すぎるわ。ってフラれたんだよ」


 僕の回顧かいこに、そこで杜若さんはバッと頭を上げると、


「ちなみに、場所は?」

「体育館裏」

「……告白のセリフは?」

「一目見たときから好きでした」

「もうバカっ! わたしが何十回、屋上と体育館裏に呼び出されたと思ってるの! ワープ能力があったら間違いなく地点登録してるわよ! それに、そんなありきたりなセリフ! NPCの村人より工夫がないわっ!」

「僕はフラれモブだったんだね……」

「その通りよっ! モテ描写強調のためにいちいち現れないで! そんなの頻出すぎて、スキップできたら飛ばしたいくらい! 強制イベントだからできないけどっ! こっちも、相手の誠意と向き合う覚悟が必要なのっ! 断るのも勇気がいるのよ!」


 こちらのショックも吹き飛ぶ勢いで、逆ギレ気味の杜若さん。

 本気の想いに本気で応える。彼女の真摯な姿勢の裏には、人知れない葛藤があった。


 そして、その目に浮かぶものは。


「杜若さん……。ごめんね、軽々しく告白して。辛かったよね」

「違うわよっ! ……悔しいの。あなたの告白を思い出せないことが……っ」


 その頬を涙が伝う。

 杜若さんがお約束にキビしい理由——

 手抜きでありきたりな告白の数々に、彼女の心身は疲弊していた。

 ……その責任は、僕にもあったんだ。


「ねえ、杜若さん。チャンスをくれないかな」

「……なんのチャンスよ」

「もう一度、伝えさせてほしい。次は、君が死ぬまで忘れられない告白をするから」

「っ……!」


 杜若さんはハッと目を見開くと。

 束の間の無言ののち、ささやくように。


「……ええ、わかったわ。絶対よ?」

「うん、約束する」

「他の人がマネしたくなるくらい、素敵な告白じゃないとオッケーしないからね」

「後世でお約束入りするほど、最高のシチュエーションとセリフで伝えるよ」

「ふふ、バカじゃないの」


 僕たちの放課後は、


「よしっ、そうとなれば応用の前に基礎を固めないと。しばらくはお約束の勉強だね!」

「……それって、いつ頃までかかりそう?」


 まだまだ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ