3.来栖ミリカとの対話。
「来栖……いや、ミリカは狛犬さんのこと推して、長いの?」
「そうだなぁ、初配信は見られなかったけど二年半くらいかな」
「それなら、十分に古参といって良いと思うよ」
たしか狛犬さんがデビューしたのは、おおよそ三年ほど前だったはず。
そのことを考えれば、むしろミリカは最古参の部類と呼んでも差し支えないだろう。比較することではないかもしれないが、彼女にしたら俺はまだまだひよっこだ。それでも作詞をするという依頼には、最大限の誠意をもって答えたい。
そんなことを考えていると、先輩がこのように訊いてきた。
「それで、ソースケくんはシロ様のどこに惹かれたの?」
「え……あ、俺?」
まるで、こちらの覚悟を試すように。
それに対して俺は、しばし真剣に考えてから答えた。
「困難にぶつかっても、前を向いていける強さかな。それと――」
自身に向けられた『あの言葉』を思い返しながら。
「彼女はきっと、それを伝えることのできる人だと思うんだ」
あの楽曲を投稿した時点で、俺の心は折れかけていた。
そんな自分がいま、作詞家として生きているのは彼女のお陰でしかない。仮に勇気を貰ったと思っても、そのことを伝えるという行動に移せる人はそういない。
素直に、俺はそんな狛犬さんを尊敬していた。
「……ソースケ、くん」
その答えにミリカは、しばらく驚いたようにして。
だがしかし、途端に眩しい笑顔を浮かべて頷くのだった。
「キミ、分かってるね!! そうだよ、そうなんだよ!!」
「お、おうおうおうおうおう」
こちらの手をがっしりと掴んで、何度も上下に強く振る。
この細腕から、どうしてこんな力が出るのか。そう思わされるほどに、俺の身体はガクガクと揺さぶられてしまった。解放されたこちらが思わず酔いを感じていると、ミリカは気にした様子もなく、今度は腕を組んで何度も頷く。
そして、
「アタシも同じ考えだよ。だってアタシ、シロ様のその言葉に救われたんだから!」
「……救われた、って?」
どこか気になる言葉を口にした。
俺が思わず訊き返すと、彼女は「あ……」と少し気恥ずかしそうに頬を掻いて笑う。そうやって数秒の間を置いてから、気持ちを切り替えたようにひときわ大きく頷いた。
「うん、同志だからね! 少しくらいなら、話してもいいかな」
ミリカはそう自身に言い聞かせるようにしてから、懐かしそうに語り始めるのだ。
◆
「な! 帰りにどこか寄って行こうぜー!!」
「賛成! あっちのコンビニとか、どう?」
「近場だと、先生に見つかるだろー?」
――いまから二年半ほど前。
当時まだ中学生だったミリカは、クラスに馴染めないでいた。
彼女曰く、言葉もよく分からないまま両親の仕事の都合で日本にやってきたからだ、ということらしい。最初の頃こそ容姿の端麗さもあって、周囲からはもてはやされた。
しかし肝心のコミュニケーションが取れなければ、次第に会話のネタも底を尽きる。
不登校でこそなかったが、浮いた存在になるのに時間はかからなかった。
『……どうして? アタシ、なにも悪くないのに』
学校からの帰り道も一人きり。
誰とも喋らず、誰とも目も合わせず、逃げるように帰宅する。
そんな毎日を繰り返していくうち、両親のことを恨み始めていたという。自分に責任はない。悪いのは全部、周りなんだ。自分は振り回されている被害者なんだ、と。
そんなことを考えながら、鬱屈な気持ちになっていた。
その時――。
『ん……アプリの、広告?』
ふと何の気なしに、スマートフォンを操作していると。
とある配信アプリの広告が目に入った。
『でも、これも日本語――』
しかし当時、そのアプリの対応言語は日本語のみ。
ミリカは興味こそ抱いたが、諦めようとした。だが――。
『あ、でも……この子、かわいい』
彼女はそこで、運命の出会いを果たしたのだ。
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