2.某チェーン店での出会い。
「えっと、あの雑誌の棚は……あっちか?」
俺は自分の住んでいるアパートから、程なくの場所にある古本屋へ向かった。
いわゆるチェーン店のアレだが、この店舗の規模なら可能性はある。そんなわけで古雑誌のコーナーを探し、しばらくうろうろ。ようやく目的の場所を発見すると、そこには――。
「――ふん、ぬぅぅぅ!?」
どう考えても届かない上段に向かって、必死に手を伸ばす小柄な少女がいた。
背丈だけ見ると、中学生女子なのだろうか。明るい金髪に蒼の瞳をしている少女は、隣にある脚立に目もくれず、色白な顔を真っ赤にしながら奮闘していた。
その様子に思わず苦笑しながら、俺は自分の目的の品を探すと――。
「ふんがああああああああああああああああああああああああ!!」
「………………」
なんとも幸運なことに、見つけることができた。
ただし問題がある。それというのも鬼の形相で手を伸ばす少女の先に、その雑誌があるということだった。どうやら彼女もまた、同じものを狙っているらしい。
俺はそれを察して、しばし考えてから一つ頷く。
そして、少女の後ろから手を伸ばして雑誌を手にした。
「あ……」
すると彼女は、あからさまに悲しげな表情を浮かべる。
円らな瞳いっぱいに涙を浮かべて、悔しそうに下唇を噛んでいた。そんな少女に、
「……はい、これが欲しかったんだよね?」
「え……!?」
俺はその古雑誌を差し出す。
表紙を飾っているのは、デビュー間もない頃の狛犬シロさん。おそらくだが、この女の子は彼女の熱心なファンなのだろう。そうでなければ、ここまで必死になるまい。
脚立を使えばいいのに、という野暮は置いておくとして。
「い、良いんですか!? これもう、絶版になってる貴重品ですよ!?」
「そうなの? あー……だったら、少しだけ困るか」
そう思っていると、少女から新たな情報が提示された。
なるほど、電子化もされていなかったのは、そういうことか。しかしそうなると、貴重な資料を逃すのはもったいない。そう考えて、しばらくどうするべきか唸っていると――。
「あ、あの! ご提案があるんですけど!!」
少女の方から、まさかの提案があった。
◆
「うー……! やっぱり、ここのクレープは美味しい!!」
「良かったのかな。クレープを奢る代わりに、貸してくれるなんて……」
「大丈夫です! 全然オッケー! 同じくシロ様を崇める同志として、恩には報いないと!」
古本チェーン店の一件から、十数分後。
俺と少女は、少し離れた場所にあるクレープ専門店に足を運んでいた。その発端というのも雑誌を貸し出してくれる代わり、一緒にクレープを食べて話したい、という彼女の提案にある。どうやらこの少女に自分は、狛犬シロ信者の男性、と思われているらしい。
そして当然ながら、この女の子もまた狛犬さんの大ファンである。
「本当は他の子と来たかったんですが、都合がつかなくて。それなら志を同じくする方と、語らいながらクレープを食べるのもアリなのです!!」
「は、ははぁ……そういう、もの?」
「そういうものです!!」
俺が苦笑すると、女の子は腕を組んで大きく頷いた。
そして、こう訊いてくるのだ。
「あ、そうだ! お兄さんの名前は?」
その問いかけに、思わずペンネームを答えそうになる。
だが、それをグッと呑み込んで本名を口にした。
「俺は、笹本壮介だよ」
どこにでもいそうな、特に目立たない名前。
だが、それにまた少女は頷いて、次に自身の名を口にするのだった。
「アタシの名前は、来栖ミリカです!」
満面の、とかく可愛らしい笑みを浮かべながら。
「これからよろしくお願いしますね、ソースケくん!」――と。
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