1.シロの過去を辿って。
ここから第1章です。
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『シロさん! いま、少しいいですか!?』
『どうしました? まつりちゃん』
――数日前、某チャットでのやり取り。
コラボ配信を終えた黒猫まつりは翌々日、意を決して尊敬する狛犬シロに連絡を取っていた。事務所こそ異なるが、ライバー間の交流が禁じられているわけではない。
そのため、まつりはこれを機にシロとお近づきになろうと考えていたのだ。
『この前、美味しいクレープのお店を見つけたんです! 明後日、一緒に行きませんか!?』
しかし、当然ながらリスクもある。
彼女もそのことは重々承知の上であるため、この誘いを送るのに日を置いてしまった。だが、このチャンスを逃せば仲良くなる機会はない。
まつりにとって、これは一大決心によるものに違いなかった。
しかし、
『あ……ごめんなさい。その日は、先約があるの』
『……先約、ですか?』
返ってきたのは、期待に反する内容。
予定があるのであれば、仕方がないとは思えた。なにせ狛犬シロというライバーは、アプリ内に限らず様々なメディアに進出しようとしている。そんな彼女のスケジュールを一日押さえる、というのは至難の業であると考えられた。
それでも、まつりは少しだけ歯向かうように訊ねる。
『お仕事、ですか?』
これで仕事なら諦めがつく。
そう思っていたのだが、返ってきたのは――。
『ううん。強いて言えば、これは私の……初恋、かな?』
そんな想定外の言葉だったのだ。
◆
「うーん……ここから先、どうするか」
狛犬シロさんとの打ち合わせから、数日が経過。
俺は一生懸命に作詞に打ち込んではいたが、少ししたところで行き詰ってしまっていた。それというのも俺自身が、狛犬さんの活動や先日聞いた過去以外、彼女について明るくないからだろう。ファンなら知っていて当然の情報というのも、俺には枯渇していた。
そうなってくると、必要な情報はどこから得るべきか……。
「一通り、彼女の過去に出した曲は聴いたけど……」
それはあくまで、事務所によって彩られた狛犬シロ、という人格の曲だった。
もちろん、それが悪いわけではない。むしろその中で活き活きと自己表現をしている彼女には、どこか嬉しさのようなものを感じずにはいられなかった。
俺の書いた歌詞に感動した女の子が、こうやって花開いているのだから。
それはきっと、作詞家にとって至上の喜びに違いなかった。
「でも、そうなると次は……インタビューが載ってる雑誌、か」
俺は次に、もう一つの可能性を考えてみる。
ライバーとしてデビューした彼女は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い、というやつだったらしい。当然ながら多くの雑誌で特集されていただろうし、過去の体験や、思い出も書かれているはず。しかしいま、それらを手に入れようと考えたら――。
「くそ、バックナンバー……電子化されてない、か」
いくつかはデータとして購入できたが、初期のものが欠けてしまった。
可能なら、その時期の話が一番知りたいというのに。
「こうなったら、街の古本屋で探すしかない、か……?」
まさに藁にも縋る、という感じで。
俺は一つ気合いを入れてから、外出の準備を始めたのだった。
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