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4.それぞれの出発点。







「それからです。私は勇気を出して学校に通うことができて、自分に自信を持つことができたのは。いまではこうやって、ライバーとして自分を表現できています」

「………………」




 狛犬さんの言葉に、俺は正直なところ驚きを隠せなかった。

 まさか俺が高校時代に上げた初めての楽曲を彼女が聞いていて、さらにはそれから勇気を貰うことができた、なんて。当時の俺はただ感情のままに書きなぐって、ドヤ顔で動画サイトに投稿していただけだった。

 それこそ自分には才能があると思い込んで、いいや、思い上がって。

 ちょっとばかりギターの練習をしただけの学生が、その気になっていただけなのに。



「狛犬さん……一つだけ、確認させてください」

「え、はい。なんでしょうか……?」



 俺はその時のことを思い出しながら、小さく息を吸い込んだ。

 そして、小首を傾げる狛犬さんにこう訊ねる。



「その時に、狛犬さんは――」




 一つの確証が欲しくて。

 それがあれば、俺はきっとこれからも前に進めると思ったから。







『突然のご依頼を受けて下さり、本当にありがとうございます。近衛先生の歌詞に合わせて作曲いたしますので、何卒よろしくお願いいたします』



 帰宅後、狛犬さんからのメッセージが届いていたことに気付く。

 今度は慌てずに返信して、俺はパソコン前の椅子に腰を落ち着かせた。そしてようやく、深く呼吸を繰り返す。緊張から解き放たれた感覚が、じんわりと全身に広がっていった。

 だけど、いつまでもゆっくりしていられない。



「今回の依頼は、普通じゃないんだ」



 そう、これはいつもの仕事とはわけが違う。

 狛犬シロという有名人からの依頼、ということもあるが、それ以上に大きな意味があった。ただしそれは、決して作詞家として飛躍のチャンスだから、ということではない。

 むしろ、そんなことなんて二の次だった。



「よし、やるか……!」



 俺はパソコンを起動し、作業を開始する。

 思い浮かべるのは狛犬シロ、という少女の軌跡。そして――。







「あー、くそが!? なんだよ、なんだってんだよ!! みんな揃って下手だの、才能なしだの!! こっちは初めての作曲なんだから、当たり前だろうが!?」



 ――五年前。

 動画サイトにドヤ顔で処女作を投稿した俺は、涙目になりながらクッションに八つ当たりしていた。自惚れていた自覚はあったが、何もそこまで叩かなくてもいいだろう。

 そんなことを動画のコメント欄に感じながら、苛立ちの行き場を探し続けていた。



「くそ、なんだよ……なんだって! こんなの――」



 でも、ぶつけようがない。

 だったらもういっそ、辞めてしまえばいい。

 元々、ちょっとだけ齧ってみて、おだてられたから投稿したにすぎない。いってしまえば若気の至りというやつで、いずれきっと黒歴史とか呼ばれるようになるものだ。

 そう考えて、もう二度と音楽にはかかわらない、そう決意しようとした時。



「ん……?」




 俺はコメント欄の中に、それを見つけたのだ。




『涙が止まりません、歌詞がすごく良かったです。自分もこれから理不尽なことに、立ち向かっていこうと勇気を貰えました。本当にありがとうございます』




 それは、たった一つの感謝の言葉。

 否定だらけのコメント欄の中で、きらりと光るような肯定。



 それは最後に、こう締め括られていた。





『次回作も、待っています』――と。





 救われたと、その少女は語っていた。

 俺の書いた拙い歌詞で、勇気を貰って前に進めたのだと。

 だけどそれはきっと違っていて、本当に勇気を貰えたのは俺の方。それからの自分が『作詞家という夢』を叶えた原点、出発点は、そこにあったのだろうから。



 


ここまでがオープニング。

一旦区切りで、次回から第1章に入って行きます。



ここまでお読みいただき、少しでも!


面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




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