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5.まさかの招集で。








「ほな、頑張って色々なことに興味を持つんやでー?」

「あ、ありがとうございます! 十六夜さん!!」




 一通りの相談に乗ってくれたコトカさんは、手をひらひらと振りながら去っていく。飄々としたその後ろ姿に向かって、俺はしっかりと頭を下げて礼を言った。

 これで迷いは振り切れたといって良い。

 狛犬さんとの関係はまだ、この先どうなるか分からない。

 それでも作詞家、近衛カナデとしては、次のステージに進める気がした。



「そうと決まれば、早く戻って作詞を――ん?」



 そう思った矢先だ。

 スマホで時刻を確認しようとすると、メッセージが入っていることに気付く。差出人はまさか狛犬さん、と思ったが、どうやらミリカのようだった。

 俺は妙な安堵を覚えつつ、しかし推しからの連絡に一つ深呼吸。そして、



「えっと…………はい?」



 確認すると、表示されているのは一つのマップ。

 ピンが立っているのは、ここから程なくの場所にある住宅街だった。







「えー、この度はご機嫌麗しく……?」

「………………」




 ――どういうことなの。

 俺はいま、とある女の子の部屋に招かれていた。

 それが誰かというのも、先刻の状況から説明する必要もないだろう。その少女の名は来栖ミリカで、すなわち俺の推し『黒猫まつり』その人だった。そしていま俺は呼び出しに応じ、とある住宅街に足を運んでいるわけだ。

 つまりは、推しの自宅。

 推しの私室に、であった。



「ねぇ、ソースケくん。アタシになにか言うことない?」

「言うこと、ですか……?」



 どこか厳しい声色の彼女に、俺は状況も相まってしどろもどろになる。

 周囲にチラチラと視線を泳がせるが、助けになる情報はなかった。というか、いまの状態でマトモに物事を確認などできない。ただでさえ推しの家に招かれた、というのに。そこに加えて一対一で、詰問を受けているのだから。

 並の精神しか持っていない自分には、とても耐えきれるものでなかった。

 だがとりあえず、何か答えないといけない。

 そう思って――。



「えっと、もしかしてデビューシングルの歌詞に――」

「ちーがーいーまーすー!」

「……おおう」



 どうにか絞り出すと、すべて言い切る前に遮られてしまった。

 俺は自然と頬が引きつって苦笑してしまい、それを見たミリカは肩を竦める。そしてベッドに腰かけて、床に正座をする自分を見下ろしながら、そっとこちらの顎に指を這わせた。あまりの出来事に、俺の脳みそは沸騰寸前。

 耳まで熱くなっているのがハッキリ分かり、思わず息を呑んだ。

 すると、ミリカは年齢不相応に大人びた表情で言う。




「シロ様に、告白されたんだって? ソースケくん」

「……は、はい」




 試すような言葉に、俺はただ従順に頷いた。

 そんなこちらに対して、薄い笑みを浮かべる少女はこう続ける。




「それで、ソースケくんは受けるの? 断るの?」――と。




 俺はその問いに対して、いまだ答えを持っていなかった。

 だから、当然ながら沈黙する他ない。すると、




「へぇ~……大人なのに、何も言い返せないんだ。なさけなーい」

「………………」




 ミリカはくすくす笑いながら、俺に向かって囁くように言った。

 くすぐったい声に、思わず身震いする。少女はそれをおかしそうに笑って、さらにこう責めてきた。




「おかしいな。ソースケくんの推しは、アタシだよね? それなのに、他の女の子に告白されたら気持ちが揺らいじゃうんだね。もしかして、浮気性なのかな?」

「そ、そんなことは――」

「えー? 本当にそうかなぁ? だって、さっきからずっと顔も赤いし、目も潤んでるし、いまにも泣き出しそうな……ふふっ、駄目な大人だね」

「…………」




 必死に言い返す言葉を探すが、駄目だ。

 俺は吞まれている。この来栖ミリカ、という少女の雰囲気に。

 こちらを弄ぶようにしていた彼女はそっと、指を離してからこのように言った。



「まぁ、シロ様は素敵な方だよ。だから仕方ないのも、分かるの。でもアタシだってソースケくんの推してほしいし、だから考えたんだよね」

「な、なにをですか……?」




 俺はもう、ただ少女に同意する玩具と化している。

 そしてミリカは、そんなこちらに告げたのだ。




「須藤社長とも、話してたの。セカンドシングルは『夏の恋の歌』にしよう、って――ソースケくんは、絶対に断らないよね? アタシのお願い、聞いてくれるよね?」




 もう、駄目だった。

 俺はそんな推しの言葉に、ただ頷くことしかできない。




 こうして、近衛カナデの次の仕事は決まったのだった……。



 


え、なんなの羨ましい……()


※すみません、爆睡してた。2日ほど。

明日(2025/08/13)から、再開できるよう頑張ります。




面白かった

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― 新着の感想 ―
ミリカも参戦。ソースケくん作詞どころじゃないんじゃ? うん、ただひたすら羨ましいなっ
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