3.十六夜コトカによる人生講義。
https://ncode.syosetu.com/n6120gr/
既存作ですが、こちらのラブコメも応援お願いします。
「お姉ちゃん、ありがとー!」
「おー、元気でなー! もし次、会えたら歌聞かしてなー!」
親御さんが何度も頭を下げて礼をしながら、子供たちの手を引いていく。
幼いというのは凄いもので、助けられた直後にはすっかり泣き止んでコトカさんに懐いていた。そうやってしばらく、親御さんがくるまで面倒をみていたのだけど……。
「コトカさんって、子供好きなんですね」
「なんや、その顔は。面に『うわぁ、意外だ……』って書いてんで」
「いや、まぁ……正直に言うと、意外でした」
「それならそうと、最初から言いや。二度手間やんか」
思わずそう話しかけると、彼女は不服そうにしながらもそう答えた。
どうやら『意外』と思われることに抵抗はないらしく、むしろ直接的に言わなかったことが不快だったらしい。さっきの一件といい、改めて十六夜コトカという人物に興味がわいてきた。奇才と名高い作詞家である彼女は、どのような人間なのだろう。
そう思っていると、コトカさんは去っていく子供の背中を見ながら言った。
「子供はな、可能性の塊や。夢や希望の象徴と言ってもええ。もしかしたら、あの子らが将来的に世界的な歌手になるかもしれんで? ならんかもしれんけど――」
そして、楽しげに笑って。
彼女は快活に言った。
「それも含めて、先が分からない、ってのは楽しいやん!」――と。
その考え方に、俺は驚きを隠せなかった。
だって『先が分からない』というのは、裏を返せば『先が見えない』ということ。世間的にそれはよく、不安の表現として語られているものだった。
俺もその感覚に同意で、高校のあの一件があった頃は本当に一寸先が闇のように思えたことを憶えている。だからこそあの歌に励まされたりもしたんだけども、それを楽しみだと言い切るコトカさんは、やはり並じゃないように感じた。
そんな気持ちをどうにか、表現しようとした結果――。
「コトカさんって、変態なんですね!」
「しばくぞ、ガキ」
「うがががががががが!?」
完全なる悪口になってしまった。
先ほどまで朗らかに笑っていた彼女の眼差しが鋭く、怒りに満ちたものに変わる。そしてノータイムでアームロックをかけられてしまった。
これはさすがに、俺が悪い。
「す、すすすすすす、すみません! お願い、ギブ……!」
「……ったく。少しはマシになったかと思えば、語彙選択にセンスは全然磨けてへんやんけ。しかも言うに事欠いて『変態』とは、マジで腕折ったろうか思たわ」
「ごめんなさい……」
そのため、即座に謝罪をして土下座をすることに。
周囲の目が突き刺さったのだが、もはや致し方なしだった。――さて、そんなこんなで。どうにか許してもらえた俺は、改めて彼女に訊ねる。
「でも、凄いですね。逆転の発想、というか……?」
「だいたいの事柄なんてな、そんなもんなんや。問題はそのことに気付けるかどうか――いいや。もっと言えば、それに興味を持てるか、やな」
「……興味を、持てるか?」
「おん」
するとコトカさんから返ってきたのは、そんな言葉だった。
俺が首を傾げると、彼女は続ける。
「例えばさっき、アンタは色恋の歌詞を恥ずかしがってたやろ? それかて、知らんから恥ずかしいんや。経験ないから、どう扱ってええんか分からんのやろ?」
「……それは、たしかに」
「『先が分からん』っていうのも同じことでな。だからこそ怖かったり、恥ずかしかったり、目を背けたくなるんやけど……人間として成長できるかは、そこで興味を持って向き合えるか、や」
「それって、つまり――」
俺はその話について、思ったことを口にしてみる。
「俺が作ったこの歌詞も、新しい可能性、ってことですか?」
「ほー? なかなか勘がええやん」
それに対して、コトカさんは口角を歪めて笑う。
どうやらこちらの質問は、彼女のお気に召したようだった。
「そういうことや。創作者はよく、経験したことしか書かれへん、いうけどな。アレ嘘や。ぶっちゃけた話、想像だけでテキトー書いても、それっぽくなるときはなる」
そこでコトカさんは立ち上がり、肩を竦める。
「ただ、より深く誰かの脳天刺したいなら、色々なことに興味を持たんとアカン。人間として成長して深みが生まれれば、その分だけ物事への理解が深まる。理解が深まれば、色々な人間の気持ちを想像しやすくなる。すなわち『創作者としての引き出しが増える』ってわけや」
その言葉はまさに、俺の脳天を突き刺した。
興味を持つことで知らないことも、考えて作り出す引き出しを生み出す。彼女の言葉には納得しかできず、同時に黙って頷くことしかできなかった。
そんなこちらを見て、コトカさんは満足げに頷いてみせる。
「せやから、何事も経験や! ただ、言うとくで?」
その上で、彼女は俺に釘を刺すのだった。
「乙女心は慎重に、大切に扱ったらんとアカン。ワレモノやからな?」――と。
https://ncode.syosetu.com/n6120gr/
こちらのラブコメ、下記のリンクから飛べます。
応援よろしくお願いいたします。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!




