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1.真夏、青年は悶える。

ここから第4章。

応援よろしくお願いいたします。







「…………はぁ……」




 俺は近所の公園のベンチに腰掛け、雲一つない空を仰いでいた。

 だが対照的に、こちらの頭の中にはモヤがかかっている。その理由というのもいまから数日前、狛犬さんとのデート、その終わりにあった。







「え、あの……?」



 流れるように言われたので、一度は聞き逃しそうになった。

 俺の高校時代について語った終わりに、ちょっとした冗談を口にした直後だ。狛犬さんは真剣な表情で俺のことを『尊敬する大切な人』と表現し、最後には――。



『好きになってました』



 ――ハッキリと、そう言った。

 さすがに俺も本気と冗談を間違えるほど、間抜けではない。ましてや彼女は、そういった手合いの冗談を口にできる人ではないと思う。

 つまり嘘が言える性格ではない、ということ。

 まだまだ短い付き合いではあるけれど、その人柄はしっかり理解できていた。


 だからこそ、俺は困惑してしまう。

 そして狛犬さんも自分がなにを口走ったのか、ようやく分かったらしい。



「え、あ……えっと、あの……!!」



 言い訳や誤魔化しを試みているようだが、どうにも上手く声になっていなかった。もごもごと口ごもって、途切れ途切れの言葉を発してはまた、顔を真っ赤にしてうつむく。

 こちらも何か、気を利かせられれば良かったのだろう。

 だが、あまりに突飛な出来事に頭が回らなかった。

 そうしていると、狛犬さんは――。




「きょ、きょきょきょ、今日はここで解散にしましょう! そうしましょう!?」

「え!? あの、狛犬さん……!!」




 一方的にそう宣言して、一つ礼をすると風のように走り去ってしまった。

 さすがに急げば追いつけたのだけれど、いまに限ってはこちらも冷静になる時間が欲しい。俺はしばし呆然とその場に立ち尽くして、一連の流れを改めて思い出した。

 そして、




「ええええええええええええええええええええええ!?」




 数秒の間を置いてから、絶叫したのである。







「狛犬さんが、俺のことを……?」



 その日から、仕事がまるで手につかないまま。

 悶々と考え続けてしまうので、俺はひとまず気晴らしに外へ出たのだった。うだるような暑さの中に身を置けば、考えずに済むと思ったのだ。

 ――が、状況は悪化するばかり。



「駄目だ。……なんだこれ、マジで」



 相手はトップクラスの人気を誇るVtuberであって。

 俺はせいぜい、ちょっと結果が出たくらいのどこにでもいる作詞家。そんな男に向かって彼女は『好きになっていた』と言った。

 しかも口振りからして、以前からそうだったとも取れる。

 そんなことばかり妙に思考が働いて、俺は日差しとは違う熱で頭を抱えた。


 どうしたらいいのか。

 ひとまず、気晴らしをしたい。そう考えて、



「そうだ。俺には作詞があるじゃないか、いましか書けない何かもあるはず!」



 俺はスマホを取り出し、いまの感情を詞にしたためてみた。





『ふわふわする気持ち その正体を教えてよ

 夏の日差しに照らされたキミの頬 赤いのは本当に暑さのせい?


 どきどきする胸の鼓動 これはキミがくれたんだ

 ボクはその愛らしい笑顔に くらくらしちゃう ハートはバーニング』




 ――――ゴンッ!!


 俺は自分の書き出した文章に赤面し、画面に向かって思い切り頭突きした。

 なんだこれは。恋する乙女もビックリするくらい、恥ずかしい恋の歌詞じゃないか。俺がいつも書いてるのはもっとこう、メッセージ性を意識したようなものであって……。




「うおおおおおお!? なんだよコレはああああああああ!!」

「じゃかぁしいわ、このボケェ!?」

「げふっ!!」




 思わず立ち上がって、叫びだした瞬間である。

 どこか聞き覚えのある女性の声がして、どてっぱらに綺麗な膝を入れられた。俺が悶絶してうめいていると、その人はイライラした声色でこう言う。



「なんや頭おかしいガキがおる思ったら、お前かい!?」

「え、う……?」



 そこでようやく、こちらが面を上げると。

 ドン引きした目で俺を見下ろしていたのは――。




「あ、れ……十六夜コトカ……さん?」

「おう。久しぶりやな」




 日本トップクラスの作詞家こと、十六夜コトカ。

 彼女は眉間に深い皺を寄せながらも、ひとまずそう返したのだった。




 


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意外と、浮かれてますなあw ここらで一つ、活入れてもらわんとw
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