1.真夏、青年は悶える。
ここから第4章。
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「…………はぁ……」
俺は近所の公園のベンチに腰掛け、雲一つない空を仰いでいた。
だが対照的に、こちらの頭の中にはモヤがかかっている。その理由というのもいまから数日前、狛犬さんとのデート、その終わりにあった。
◆
「え、あの……?」
流れるように言われたので、一度は聞き逃しそうになった。
俺の高校時代について語った終わりに、ちょっとした冗談を口にした直後だ。狛犬さんは真剣な表情で俺のことを『尊敬する大切な人』と表現し、最後には――。
『好きになってました』
――ハッキリと、そう言った。
さすがに俺も本気と冗談を間違えるほど、間抜けではない。ましてや彼女は、そういった手合いの冗談を口にできる人ではないと思う。
つまり嘘が言える性格ではない、ということ。
まだまだ短い付き合いではあるけれど、その人柄はしっかり理解できていた。
だからこそ、俺は困惑してしまう。
そして狛犬さんも自分がなにを口走ったのか、ようやく分かったらしい。
「え、あ……えっと、あの……!!」
言い訳や誤魔化しを試みているようだが、どうにも上手く声になっていなかった。もごもごと口ごもって、途切れ途切れの言葉を発してはまた、顔を真っ赤にしてうつむく。
こちらも何か、気を利かせられれば良かったのだろう。
だが、あまりに突飛な出来事に頭が回らなかった。
そうしていると、狛犬さんは――。
「きょ、きょきょきょ、今日はここで解散にしましょう! そうしましょう!?」
「え!? あの、狛犬さん……!!」
一方的にそう宣言して、一つ礼をすると風のように走り去ってしまった。
さすがに急げば追いつけたのだけれど、いまに限ってはこちらも冷静になる時間が欲しい。俺はしばし呆然とその場に立ち尽くして、一連の流れを改めて思い出した。
そして、
「ええええええええええええええええええええええ!?」
数秒の間を置いてから、絶叫したのである。
◆
「狛犬さんが、俺のことを……?」
その日から、仕事がまるで手につかないまま。
悶々と考え続けてしまうので、俺はひとまず気晴らしに外へ出たのだった。うだるような暑さの中に身を置けば、考えずに済むと思ったのだ。
――が、状況は悪化するばかり。
「駄目だ。……なんだこれ、マジで」
相手はトップクラスの人気を誇るVtuberであって。
俺はせいぜい、ちょっと結果が出たくらいのどこにでもいる作詞家。そんな男に向かって彼女は『好きになっていた』と言った。
しかも口振りからして、以前からそうだったとも取れる。
そんなことばかり妙に思考が働いて、俺は日差しとは違う熱で頭を抱えた。
どうしたらいいのか。
ひとまず、気晴らしをしたい。そう考えて、
「そうだ。俺には作詞があるじゃないか、いましか書けない何かもあるはず!」
俺はスマホを取り出し、いまの感情を詞にしたためてみた。
『ふわふわする気持ち その正体を教えてよ
夏の日差しに照らされたキミの頬 赤いのは本当に暑さのせい?
どきどきする胸の鼓動 これはキミがくれたんだ
ボクはその愛らしい笑顔に くらくらしちゃう ハートはバーニング』
――――ゴンッ!!
俺は自分の書き出した文章に赤面し、画面に向かって思い切り頭突きした。
なんだこれは。恋する乙女もビックリするくらい、恥ずかしい恋の歌詞じゃないか。俺がいつも書いてるのはもっとこう、メッセージ性を意識したようなものであって……。
「うおおおおおお!? なんだよコレはああああああああ!!」
「じゃかぁしいわ、このボケェ!?」
「げふっ!!」
思わず立ち上がって、叫びだした瞬間である。
どこか聞き覚えのある女性の声がして、どてっぱらに綺麗な膝を入れられた。俺が悶絶してうめいていると、その人はイライラした声色でこう言う。
「なんや頭おかしいガキがおる思ったら、お前かい!?」
「え、う……?」
そこでようやく、こちらが面を上げると。
ドン引きした目で俺を見下ろしていたのは――。
「あ、れ……十六夜コトカ……さん?」
「おう。久しぶりやな」
日本トップクラスの作詞家こと、十六夜コトカ。
彼女は眉間に深い皺を寄せながらも、ひとまずそう返したのだった。
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