6.私にとってのヒーロー。
「その歌を聴いてから、自分はこんなとこで負けないぞ、って思えたんだ。それで触発されて中古のギターを買って、みんなの前で弾いてみて、サイトに動画を投稿して――」
「そうだったんですね……!」
俺の話を聞いているうちに、狛犬さんも元気が出てきたらしい。
先ほどまでの思いつめるような様子はなくなり、表情も明るくなっていた。こちらもそれを見ていると、自然と笑みを浮かべてしまう。
そうやって現在に至るまでを話し終えると、ふと彼女はこう訊いてきた。
「そういえば、それはなんて曲だったんですか?」
スマホ片手に、小首を傾げながら。
きっと調べてみようと考えているのだろう。だが、
「あー……実は、まったく分からないんだよ。検索しても、でてこない」
「でてこない……って、テレビで放送されたんですよね?」
「そう。だから不思議なんだよね」
そんな不思議が本当にあったのだ。
いくらネットで検索しても、歌詞はおろかアーティスト名もヒットしない。あれほどまでに印象的な歌であれば、どこかで話題になっていそうなものだけど。
しかし、それが事実だから仕方なかった。いや、あるいは――。
「もしかしたら、俺の夢だったのかな?」
「……夢、ですか?」
俺は頭を掻きながら、こんな『もしも』を語った。
「ヒーローになり損ねた俺が血迷って、何かを勘違いしたんじゃないかな、って。それこそ豚もおだてりゃ木に登る、じゃないけどさ。自分に都合の良い夢を見たんじゃないか、って」
その結果がいまに繋がっているのだとしたら、なかなかに面白く思える。
そう考えて口にした冗談だったのだけど、狛犬さんは真面目な口調で答えた。こちらを真っすぐに見つめ、嘘偽りないと信じることができる力強い声で。
「いいえ。先生は豚さんなんかじゃないですよ」
「え……?」
思ってもみない返しに、つい呆けていると。
彼女は慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、このように語ったのだ。
「先生は間違いなく『私にとってのヒーロー』です。貴方がいなければ、いまの私はここにいない。ずっと憧れの存在で、尊敬する大切な人。最初は、実際に会ったら幻滅するかも、って思っていたのですけど――」
風になびく黒の髪を押さえて。
少しだけ、気恥ずかしそうにしながら。
「貴方を知るほどに。幻滅するどころか、もっと好きになってました」――と。
少し短いですが、これにて第3章は終了!!
え、うそ……告白!?←お前が書いたんやw
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