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3.過去と現在。








「へぇ~! 麗華さんって、あのMIKIスポーツの御令嬢さんなのか!」

「えぇ。でも野球には明るくなくて、今日は先生に教えていただく感じです」



 ――待ってくれ。

 さっきから初対面の荒木が、狛犬さんの新情報を次々引き出すんだが。

 ちなみに『MIKIスポーツ』というのは、様々な競技の道具を製造している大手企業。野球はもちろんのこと、マイナー競技まで幅広く取り揃えていた。

 そこの御令嬢ということは、えっと……。



「どうしたんだよ、笹本。お前さっきから、目を回してるぞ?」

「いや。自分はとんでもない相手と接してたんだ、と思っただけ」

「は……? どういうことだよ」

「そのままの意味だよ」



 荒木が俺の様子に首を傾げるが、この気持ちは自分しか分かるまい。

 さて、そんな話をしていると――。



「ところで、笹本?」

「……ん、なんだ?」

「さっき麗華さんが『先生』って呼んだけど、お前いま何してんの」

「おおう……」



 思わぬところから、地味に逃げていた話題が振られてしまった。

 決して作詞家と名乗るのが嫌、というわけではない。ただ十年来の友人に知られるのは、妙に気恥しいというか、なんというか。

 なんて感じにこちらがモゴモゴしていると、狛犬さんがシレっと……。



「笹本さんはいま、プロの作詞家をされているんですよ」

「ほえぇ! あの笹本がいま、作詞家!?」

「ぐは……!」



 当たり前ながら、恥ずかしげもなく言ってしまった。

 荒木は当然に目を丸くしており、こちらを好奇の目で見つめてくる。――やめてくれ。そういうのが、一番きついんだから。昔の自分を知られてると、色々としんどいんだよ。

 そんなわけで俺が思わず頭を抱えていると、荒木がぽつりと言った。



「……そっか、新しいこと見つけられたんだな」――と。



 背筋が、凍ったような気がした。

 俺はその言葉に、心臓を掴まれたような錯覚に陥る。夏の日差しさえも遠くに思うほど、何も感じなくなっていった。

 不味いな、ちょっと……。



「あの、それって――」

「こま……いや、三木さん喉乾かないかな。荒木も、何か飲む?」



 不自然と思われても、いまは構わない。

 だから俺は、会話を無理矢理に断ち切ってそう口にしたのだった。







「あっちゃー……地雷、だったか」

「地雷、ですか……?」



 壮介が飲み物を買いに行ったのを見送ってから。

 荒木はしまったという表情で頭を掻き、麗華は少し困惑した表情で訊き返した。すると彼は意外そうに目を丸くしてから、バツが悪そうな表情を浮かべて言う。



「ここまで聞いたなら、三木さんは知っておくべきかもな」



 そして、大きく息をついてから話し始めた。



「笹本はさ、そりゃあスゲー選手だったんだよ。走攻守すべてがトップレベルで、中学時代は日本代表にも選ばれてたんだ」

「え、そんなに……?」



 そのことに麗華は驚いて、思わずこのように訊ねる。



「だったら、先生はどうして辞めてしまったんですか? その……野球、を」

「……これについては、自分も他人から聞いたことなので。あまり詳しいことまでは、知らないんですけど――」




 すると荒木はそこで一度、言葉を切ってから。

 苦虫を噛み潰したような表情になりながら、このように語り始めた。




「アイツ、怪我したんですよ。それで右目はほとんど、見えないんです」――と。




 


壮介の過去をひとつまみ。




面白かった

続きが気になる

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― 新着の感想 ―
発端の詞も、挫折の結果の産物だったのかな……
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