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2.旧友との再会。







「先生って、休みの日は何をされてるんですか?」

「休みの日かぁ、フリーランスやってると、その感覚がないな」



 街を歩きながら、俺と狛犬さんはそんな雑談をする。

 急遽のデートなので、互いにプランなどは立てられていなかった。それでも俺がリードするべきなのだろうが、あいにく休みの過ごし方といったら……。



「んー、休憩時間はスポーツ見てるかな。野球とか」

「お好きなんですか? 野球」

「一応は、元高校球児だからね」

「えぇ!? そうだったんですね!?」



 元々やっていた野球の中継を見たり、と思ったのだが。

 狛犬さんは想像以上に驚き、興味を持ってくれた。そして、



「もしかして、小さい頃の夢はプロ野球選手、とかです?」



 楽しげに笑いながら、そう訊いてくる。

 俺はそんな彼女に苦笑しながら、顔の前で手を振って答えるのだった。



「そんなたいそうなものじゃないよ。普通の球児止まりだよ」

「でも、凄いですね! ――あ、そういえば!」



 すると、狛犬さんはなにかを思い出したように立ち止まる。

 スマホで何かを検索し始めて、すぐに笑みを浮かべた。



「せっかくなので、見に行きましょうよ! 甲子園大会の予選!!」

「え、ホントに……?」



 たしかに、時期的にはやっていると思うが。

 俺は想定外な予定の変化に、思わず呆けてしまうのだった。







「これが高校野球なんですね! 私、ちゃんと見るの初めてです!!」



 ちょうど近くに予選大会を行っている球場があったので、俺と狛犬さんは電車で移動。到着し、観戦料を支払って球場内に入ると、彼女は初めて見るノックの光景に興奮していた。

 俺はそんな彼女が慌ててケガをしないよう注意しながら、ひとまずバックネット裏後方の席へ。座席に腰かけて、ひとまず狛犬さんの知識量を探ることにした。



「狛犬さん、ルールはどのくらい分かるの?」

「えっと、三つアウトで攻守交替で、ゴロは塁に投げないと駄目……くらいです」

「なるほどね。それくらい分かっていれば、その時々の説明で大丈夫かな」

「はい! よろしくお願いしますね!」



 ひとまず、まったくの無知ではないらしい。

 俺はそう考え安堵していると、不意に喉の渇きを感じた。だから、



「狛犬さん、喉乾かない? もしよければ、俺が買って――」

「え……もしかして、そこにいるのは笹本か?」

「……その声、って」



 彼女に訊ねてから一度、近くで飲み物を買ってこよう。

 そう思った矢先、背後から聞き覚えのある声がしたのだった。

 振り返るとそこにいたのは、同い年くらいのユニフォーム姿の男性。背丈や体格などの雰囲気は変わっているが、顔立ちや表情に面影があったからすぐに分かった。



「やっぱり、荒木じゃないか!」

「そうだよ! 懐かしいな、おい! 中学以来だな!!」



 彼の名前は荒木元伸。

 俺の中学時代の同級生であり、共に野球部で汗を流した仲だった。



「そっちこそ! ……でも、どうしてユニフォーム?」

「こっちはいま、高校で監督やってるんだよ。弱小だけどな」

「へぇー! トンネルばっかのお前が、高校野球の監督かよ!!」



 そして自然と、昔のような絡みに発展する。

 茶化すと荒木はこちらを小突いてくるが、すぐに狛犬さんの姿に気付いたらしい。



「おいおい。もしかして、そこにいるのはカノジョさんか?」

「う……いや、なんて説明すれば良いんだろうな……」

「なんだよ、歯切れが悪いな。だったら――」



 ニヤニヤしながら、彼はそう訊いてきた。

 でも俺が難しい表情を浮かべると、ささっと彼女の方へと行ってしまう。そして、



「初めまして。もしかして、笹本のカノジョさんですか?」

「お、おいこら!?」



 まったくの無遠慮に、そう狛犬さんに訊ねたのだ。

 俺が止めに入るも間に合わない。どうしたものかと考えていると、



「あ、いえ。私は『まだ』違いますよ。でも、仲良くさせていただいてます」



 意外にも冷静だったのは、狛犬さんの方だった。

 彼女はゆっくりと立ち上がってから、礼儀正しくお辞儀をすると名乗るのだ。



「自己紹介が遅くなりました。私は笹本さんの友人で、三木麗華です」




 俺はその堂々とした姿に、思わず呆気に取られる。

 そして、そこで初めて彼女の本名を知ることになったのだった。


 

 


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― 新着の感想 ―
いや、そんな気軽に予選見に行ったらあきまへん。暑さで死にますw 予選は入場無料の場合が多いみたい。東京は決勝トーナメントから有料だとか。
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