1.思わぬ申し出。
――みなさん、事件です。
「ホントに、どうしてこうなったんだ……?」
俺はいま炎天下の中、とある駅前で一人の女の子を待っていた。
その子というのも狛犬シロさんなのだが、前回の待ち合わせと大きく異なっているのが目的だろう。以前はカフェで打ち合わせだったが、今回の名目はなんと――『デート』だ。
何故にそうなったのか。
それというのも、事はミリカのデビューシングル祝賀会に戻るのだった。
◆
「え、いや……あの、この前に一回だけ二人でカラオケに……?」
「それって、つまるところ『デート』ですよねぇ!?」
「デ、デデデデ、デートォ!?」
狛犬さんは何やら凄い剣幕で、俺を壁際へと追い込んでくる。
たしかに、ミリカとは二人でカラオケにきたことがあった。しかしそれは作曲のためというか、止むを得ずという部分もあったので、心の中で勝手にノーカンにしている。というか、そう考えないと推しと二人でカラオケに行った、という記憶で死んでしまうに違いなかった。
そんなこんなで忘れよう、としていたのだけど――。
「ソースケくんね、アタシの頭を撫でてくれたよね。優しかった!」
「頭を撫でた、ですってえええええええええええ!?」
ちょっと待って、ミリカさん。
どうしてキミはこの状況下において、笑顔で火に油を注げるのかな。
そのことについて一度、真剣に叱ってあげたい気持ちが湧き上がってきた。だけどそれ以前に、まずは目の前で狂犬のようになっている狛犬さんをなだめないと……。
「先生、説明してください!!」
「いやですね、狛犬さん。これには仕方ない事情もあった、というか――」
「問答無用!!」
「説明してくれ、って言ったのそっちですよね!?」
俺の言葉を遮って、彼女はそう叫ぶ。
いったい何が、ここまで狛犬さんを駆り立てるのだろうか。――アレか。大切な後輩ライバーに手を出されたと思って、怒っているのか。あるいは、百合の間に挟まる男は処刑的なサムシングですか。もしそうなら俺も同意見なので、この場で腹を切りたい所存だが。
しかし、何やら微妙に違うのも分かった。
そのため絶妙な間合いを測りつつ、俺と狛犬さんは睨み合いになっている。カラオケという場に不釣り合いな重い静寂に包まれていたが、それを破ったのは少女の方だった。
「これは先生に、ちゃんとバランスを取ってもらわないと……!」
「……バ、バランス?」
狛犬さんの言葉をオウム返しすると、彼女は腕を組む。
そして、子供っぽく頬を膨らして言うのだった。
「近衛先生は次の休日に、私ともデートしてください!!」――と。
◆
――で、いまに至る。
俺は普段より整えた服装で、いま狛犬さんを待っていた。
先日は狂犬の相貌になっていたが、果たして今日はどうだろうか。
「せ、先生! おはようございます!!」
「あぁ、おはようござ――」
そう思っていると、背後から彼女の声。
いつもの感覚で振り返って、その瞬間に言葉を失った。何故なら、
「あの、いかがでしょう……?」
清楚な雰囲気の少女が、白のワンピースに愛らしい帽子を被っている。
手に持った小さなバッグもまた、良いアクセントになっていた。正直なところ、初対面時から思っていたが、そこに輪をかけて美少女感が増している。
俺は思わず意識が遠のくのを堪え、どうにか感想を絞り出した。
「か……かわいいです。とても」
「そう、ですか? やった」
なんだその『やった』の可愛らしい言い方。
ヤバいぞ。このままだと、完全に意識を呑み込まれる。そう思って、
「い、行きましょうか……!」
「……あ、はい!」
わざとらしいくらいに、そう話をぶった切った。
そうして、思わぬ形のデートが幕を開けたのである。
ここから第3章です!
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