1.いや、マジで説明してください。
「昨日のアレ、いったい何だったんだろ。……狛犬さん、妙な感じだったけど」
――コラボ配信翌日。
俺は受けていた作詞の依頼をこなしつつ、その時のことを思い出していた。たしかに自分は、彼女が言った通り『作詞家』という職に就いている。とはいえ、受ける依頼はインディーズのものや、小さな事務所の新人歌手のものだったり。
とにかく駆け出しであって、世間様に名前を憶えてもらっているような存在ではない。それこそ配信アプリ内において確固たる地位を築いている『狛犬シロ』のような人物に、認識されていると考えること自体がおこがましいというものだった。
「だけど、狛犬さんはたしかに『作詞家の近衛カナデ』って、言ったよな」
そんなわけなので、俺は若干の混乱を感じている。
雲の上のような存在からの認知は、一般庶民の自分にとってはあまりに大きすぎた。しかし、ここで浮かれてはいけないという冷静な俺もまたいる。
例えば、似たような作詞家や作曲家、その他の音楽関係者がいるかもしれない。
つまるところ、他人情報の空似、ということだ。
「……でも、まぁ。推しの推しから知られてる、ってのは悪い気分じゃないな」
ただ勘違いとしても、ちょっとした自己肯定感の上昇。
仮に本当に俺の活動を知っていたとしても、だから仕事が舞い込むわけではない。さらには何かが起こるだとか、そういうわけでもない。
日々これ平穏なり。
俺は俺の受けた依頼の歌詞を黙々と、真剣に考えるだけだった。
そう、思っていたのだが――。
「ん……? 誰かから、フォローされたか」
ほとんど身内の集まりのようなSNSに、ふとフォロー通知がきていたことに気付く。俺は何の気なしにそれを確認するために、アプリを起動した。すると、そこには……。
「…………マ、マジか」
まさかの『狛犬シロ』から、フォローの表示。
俺は大慌てでフォローバック。すると、今度はダイレクトメッセージに通知があって――。
『初めまして、近衛カナデさん。狛犬シロ、といいます』
まさかの自己紹介。
あまりの事態に、俺は目を回しながら返信をした。
『こちらこそ、初めまして! フォローありがとうございます!!』
無難な言葉を選び、相手の出方をうかがう。
そうして数分の沈黙の後に、再びメッセージがあって……。
『実は、作詞を依頼したいと考えておりまして――』
俺はついに、横転した。
◆
そして、数日後。
都内のとあるカフェの前で、俺はスマホを片手に立ち尽くしていた。それもこれも打ち合わせのためなのだが、いつになく落ち着かない。
何故なら、その相手というのは――。
『お暇な時で構いませんので、直接お会いできませんか?』
『ひぇ……?』
あのフォロワー数百万人を突破しようかという人気ライバー、狛犬シロ、なのだから。何かの間違いだと思ってアカウントを確認したが、どうやら本物らしい。
その次に、乗っ取りを警戒したが、どうやら違う。
だったらつまり、推しの推しからのコンタクト、ということで――。
「あの……もしかして近衛さん、ですか?」
「は、はいぃ!?」
なんて考えていたら、耳に覚えのある声が背後から聞こえた!
俺がおっかなびっくりに振り返ると、そこには――。
「改めて、初めましてですね。……シロ、です」
まるで二次元からそのまま出てきたような、黒髪清楚な美少女。
すなわち、狛犬シロ本人が、立っていたのだった。
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