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4.最推しとの再会。








「ええええええええ!? どうしてシロちゃんまで!?」

「あ、あはははは……連絡貰った時、一緒にいたから……」



 クレープ店の前で合流した俺たち三人。

 当然ながらミリカは最推しの登場に、驚愕の声を上げて歓喜した。そんな彼女に苦笑しながら、俺はそう説明をするのだが……。



「え? ついてきてほしい、って言ったのは先生ですよね?」

「あれ、そうなの? ソースケくん」

「………………」



 あっさりと、俺のヒヨりをバラされてしまった。

 二人の美少女の視線がこちらへと注がれ、完全に硬直してしまう。今日はそこまでの暑さはないのに、妙な汗が噴き出してきた。

 すると、そんな俺の様子をおかしく思ったらしい。

 ミリカは――。



「ねぇ、なんで? どうしてなの?」

「ひゃん!!」



 こちらに接近し、上目遣いにそう訊いてくるのだ。

 俺は思わず珍妙な悲鳴を上げて、あからさまに少女から距離を取ってしまう。そんな姿に何かを察したのか、くすくすと笑うのは狛犬さん。

 彼女はミリカに、俺の心情を説明してくれた。



「きっと先生は、まつりちゃん最推しなんです。そんな最推しが目の前にいるって考えているから、身体がおかしな反応をしてるのかな、と」

「あー……そういえば、ソースケくんはアタシのリスナーか」

「………………はいぃ」



 ――まったくをもって、その通りである。

 俺は『黒猫まつり』というライバーの最古参リスナーであり、本来ならば陰ながらに彼女のことを推していきたい所存。しかしながら、このように出会ってしまったがために、この二ヶ月間はまともに返信すらしていなかった。


 そんな推しから会いたいと言われて、おかしくならない奴おる!?

 いねぇよ、ぜってぇ!! ヲタならよぉ!!



「それで頼ったのが、一緒にいたシロちゃん、ってことか」

「左様でございます……」



 俺はもう棒立ちになって直立不動。

 全身に汗をかきながら、引きつった笑みを浮かべていた。動かぬ不審者と成り果てたそんな俺を見て、ミリカはしばらく困ったように考える。

 すると、そんな間を取り持ったのは狛犬さんだった。



「とりあえず、クレープを食べながら話しませんか?」



 彼女の提案に、俺たちはひとまず店内に足を踏み入れることにしたのである。







「でも、先生。彼女がまつりちゃん、ってなんで気付かなかったんですか?」



 店内のボックス席に腰を落ち着け、美少女二人を正面に置きながら。

 俺にそう訊ねてきたのは狛犬さんだった。たしかに俺は、推しを前にすると限界化してしまうタイプのヲタクでもある。ならば何故、いままでその推しが傍にいたのに気付かなかったのか。

 その理由というのも、一応はあって――。



「えっと、その……声が違う、から」



 そうなのだった。

 最古参リスナーである俺が、推しの声を聞き間違えるわけがない。仮に『いるわけがない』という先入観があったとして、最初に耳にした時点で疑問を持つはずだ。

 ならば何故、気付かなかったか。

 その理由というのも、ミリカの声は『黒猫まつり』のそれより低かったからだ。配信での彼女は俗にいう『萌え声』というもので、いまのミリカはいくらかハスキーで……。



「あー……だったら、つまり――」



 と、そこまで考えた瞬間だった。

 ミリカが何を思ったか、咳払いを一つしてから――。




『ソースケくん! いつも応援してくれて、ありがと! 大好き!!』

「ぐおっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」




 まさに配信中、聞こえてくるそれを発したのは。

 俺はしょぼしょぼと口に運んでいたクレープを自身の顔面にぶつけ、奇声を発しながら後方へ吹き飛んでしまった。――いま! いま、推しの声で名前呼ばれた!?



「せ、先生!? 大丈夫ですか!?」

「だい、じょうぶ……致命傷で、済んだ……」

「駄目じゃないですか!?」



 遠退く意識の中、狛犬さんが慌てて俺の介抱をしてくれる。

 それもあって一命を取り留めたので、ひとまず汚れた机を拭きつつ確認した。



「ミリカ、いまのは……?」

「アタシって意外と器用でね、配信中と素の時とで声変えてるんだ」



 すると、そんな衝撃の事実。

 彼女はシレっと言ったが、その変貌具合は声優とか、そのレベルの域だった。



「なんだったら、あと五種類くらいは出せるかな」

「マジか……」

「……凄い!」



 またもさらっと言う彼女に、俺と狛犬さんは顔を見合わせる。


 そして同時に、納得した。

 この変わりようを考えれば、俺が推しの正体に気付かないのも道理。さらにいまの衝撃によって、頭がミリカと『黒猫まつり』を別人、と認識してくれたらしい。

 もちろんゼロではないが、先ほどよりもマシに会話ができそうだった。

 少し冷静になると、本題も思い出す。



「あ、そうだ。ところで、用事ってなんだったんだ?」

「そうだね。そろそろ、その話をしようか」



 俺が一つ息をついてから訊ねると、ミリカも頷いた。

 そして、今度は彼女が覚悟を決めるように、大きく深呼吸。




「今回はソースケくん――いや、近衛先生にお願いがあるの」




 ミリカは真っすぐに俺を見て、こう言ったのだった。




「アタシのデビュー曲に、歌詞を書いてくれないかな」――と。




 


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― 新着の感想 ―
声変えてたんですね。歌歌うときはどの声に成るのかな。 再度チャンスが巡ってきましたが。今度はどういう方針で作詞をするのかなあ。 見直してもらうような詞が書けるでしょうか。
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