4.最推しとの再会。
「ええええええええ!? どうしてシロちゃんまで!?」
「あ、あはははは……連絡貰った時、一緒にいたから……」
クレープ店の前で合流した俺たち三人。
当然ながらミリカは最推しの登場に、驚愕の声を上げて歓喜した。そんな彼女に苦笑しながら、俺はそう説明をするのだが……。
「え? ついてきてほしい、って言ったのは先生ですよね?」
「あれ、そうなの? ソースケくん」
「………………」
あっさりと、俺のヒヨりをバラされてしまった。
二人の美少女の視線がこちらへと注がれ、完全に硬直してしまう。今日はそこまでの暑さはないのに、妙な汗が噴き出してきた。
すると、そんな俺の様子をおかしく思ったらしい。
ミリカは――。
「ねぇ、なんで? どうしてなの?」
「ひゃん!!」
こちらに接近し、上目遣いにそう訊いてくるのだ。
俺は思わず珍妙な悲鳴を上げて、あからさまに少女から距離を取ってしまう。そんな姿に何かを察したのか、くすくすと笑うのは狛犬さん。
彼女はミリカに、俺の心情を説明してくれた。
「きっと先生は、まつりちゃん最推しなんです。そんな最推しが目の前にいるって考えているから、身体がおかしな反応をしてるのかな、と」
「あー……そういえば、ソースケくんはアタシのリスナーか」
「………………はいぃ」
――まったくをもって、その通りである。
俺は『黒猫まつり』というライバーの最古参リスナーであり、本来ならば陰ながらに彼女のことを推していきたい所存。しかしながら、このように出会ってしまったがために、この二ヶ月間はまともに返信すらしていなかった。
そんな推しから会いたいと言われて、おかしくならない奴おる!?
いねぇよ、ぜってぇ!! ヲタならよぉ!!
「それで頼ったのが、一緒にいたシロちゃん、ってことか」
「左様でございます……」
俺はもう棒立ちになって直立不動。
全身に汗をかきながら、引きつった笑みを浮かべていた。動かぬ不審者と成り果てたそんな俺を見て、ミリカはしばらく困ったように考える。
すると、そんな間を取り持ったのは狛犬さんだった。
「とりあえず、クレープを食べながら話しませんか?」
彼女の提案に、俺たちはひとまず店内に足を踏み入れることにしたのである。
◆
「でも、先生。彼女がまつりちゃん、ってなんで気付かなかったんですか?」
店内のボックス席に腰を落ち着け、美少女二人を正面に置きながら。
俺にそう訊ねてきたのは狛犬さんだった。たしかに俺は、推しを前にすると限界化してしまうタイプのヲタクでもある。ならば何故、いままでその推しが傍にいたのに気付かなかったのか。
その理由というのも、一応はあって――。
「えっと、その……声が違う、から」
そうなのだった。
最古参リスナーである俺が、推しの声を聞き間違えるわけがない。仮に『いるわけがない』という先入観があったとして、最初に耳にした時点で疑問を持つはずだ。
ならば何故、気付かなかったか。
その理由というのも、ミリカの声は『黒猫まつり』のそれより低かったからだ。配信での彼女は俗にいう『萌え声』というもので、いまのミリカはいくらかハスキーで……。
「あー……だったら、つまり――」
と、そこまで考えた瞬間だった。
ミリカが何を思ったか、咳払いを一つしてから――。
『ソースケくん! いつも応援してくれて、ありがと! 大好き!!』
「ぐおっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
まさに配信中、聞こえてくるそれを発したのは。
俺はしょぼしょぼと口に運んでいたクレープを自身の顔面にぶつけ、奇声を発しながら後方へ吹き飛んでしまった。――いま! いま、推しの声で名前呼ばれた!?
「せ、先生!? 大丈夫ですか!?」
「だい、じょうぶ……致命傷で、済んだ……」
「駄目じゃないですか!?」
遠退く意識の中、狛犬さんが慌てて俺の介抱をしてくれる。
それもあって一命を取り留めたので、ひとまず汚れた机を拭きつつ確認した。
「ミリカ、いまのは……?」
「アタシって意外と器用でね、配信中と素の時とで声変えてるんだ」
すると、そんな衝撃の事実。
彼女はシレっと言ったが、その変貌具合は声優とか、そのレベルの域だった。
「なんだったら、あと五種類くらいは出せるかな」
「マジか……」
「……凄い!」
またもさらっと言う彼女に、俺と狛犬さんは顔を見合わせる。
そして同時に、納得した。
この変わりようを考えれば、俺が推しの正体に気付かないのも道理。さらにいまの衝撃によって、頭がミリカと『黒猫まつり』を別人、と認識してくれたらしい。
もちろんゼロではないが、先ほどよりもマシに会話ができそうだった。
少し冷静になると、本題も思い出す。
「あ、そうだ。ところで、用事ってなんだったんだ?」
「そうだね。そろそろ、その話をしようか」
俺が一つ息をついてから訊ねると、ミリカも頷いた。
そして、今度は彼女が覚悟を決めるように、大きく深呼吸。
「今回はソースケくん――いや、近衛先生にお願いがあるの」
ミリカは真っすぐに俺を見て、こう言ったのだった。
「アタシのデビュー曲に、歌詞を書いてくれないかな」――と。
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