7.ライブ終わりに。
新曲を歌い上げた狛犬シロの姿を見て、多くの人が思わず呆気に取られていた。
その大半はきっと、予想外の新曲発表によるものだろう。だが彼女の歩んできた道を知っている者には、さらに深く刺さったらしい。歓声や拍手をする際に周囲を見渡すと、いくらかのファンは涙ぐんでいるようにも見えた。
俺にとってはその感情の揺れ動きが愛おしく、そして誇らしい。
だってこれは、五年前の続きに違いなかったから。
あの日、気紛れに楽曲投稿した高校生と。
その日、偶然にそれを視聴した中学生の。
本当に偶々、互いの顔も名前も知らない者同士で励まし合った。
そんな奇跡のような軌跡の先にあった、不思議な縁によって生まれた楽曲。俺はもしかしたら、いまようやく彼女と交わした約束を果たしたのかもしれない。
『新作、待っています』
そのコメントのお陰で、俺には現在がある。
もちろんそれはキッカケだが、キッカケなくして続きはあり得ない。もしこれが、狛犬シロという少女への返礼にできるのであれば、俺としても最高の思い出に違いなかった。
そして、その夢のような時間には、終わりがあるもので……。
『みんな、ありがとう!!』
弾けるような主役の笑顔と、それを送り出す拍手によって幕は閉じられた。
◆
「まったく、ミリカのやつ……どこ行ったんだ?」
夜も更けて、良い時間帯になっている。
女子高校生を放置して、自分だけ帰るわけにはいかなかった。そう思ってメッセージを送っているのだが、なかなか既読が付かない。彼女の席の周辺を探してみたが、見当たらない。持ってきた雑誌も返さなければいけないのに、いったいどうすれば……。
「ん、狛犬さんから……?」
そう考えていると、先に狛犬さんからの連絡が入っていたのに気付いた。
どうやら今回の作詞をしたことにあたって、関係者に俺を紹介したいとのこと。俺は頭の中で、ミリカと狛犬さんを天秤にかけ、思わず立ち尽くしてしまった。
必ずしも、ミリカの面倒を見る義務があるわけではない。
しかし一応のところ大人の義務として、無視しておくことはできない。しかしながら、今回の件で狛犬さんに挨拶なしというのも変な話だった。
「う、んー……?」
そう考えた結果、俺はひとまずミリカにメッセージを送る。
『お前いま、どこにいるんだよ?』
すると、ようやく気付いたらしい。
彼女は即座に既読をつけると、マップに印をつけて送ってきたが――。
「……あれ、ここって?」
俺は首を傾げながら、ひとまずミリカのいる方向へと足を運ぶのだった。
◆
「……ミリカ、なんでお前が関係者室に?」
「え? あー……いや、なんていうか? ノリかな?」
「ノリで関係者室に入れてたまるか!?」
「あ、あははー」
俺が足を運ぶと、とある一室に通された。
そこというのもライブの運営など、関係者さん方が使う休憩室のような場所。まさかと思っていたが、何故かミリカの姿はそこにあって、俺たちは何故か互いにぎこちなくなっていた。
こちらの問いかけにも、彼女は曖昧な返答をする。だが、
「――というか、ソースケくんも! どうして関係者室に!?」
「え!? いや、俺は……えっと……」
今度は攻守逆転。
ミリカも目の色を変えて、俺に問いかけを投げてきた。
俺はそれに対して、素直に答えるべきか逡巡する。そして、
「まぁ、良いか。俺は――」
仕方なしに、素性を明かそうとした。
その時だ。
「あー! シロちゃん!」
後方のドアが開くと同時に、ミリカがすっ飛んで行ったのは。
どうやら、狛犬さんが到着したようだが――――――ん、シロちゃん?
「あ、やっぱり来てくれてたんだ!」
「えへへ、当たり前だよ!!」
俺が違和感を覚えながら振り返ると、そこにはじゃれ合う美少女二人。
微笑ましい光景ではあるが、こちらには疑問符しか浮かばない。
だが、答えは狛犬さんの口からもたらされた。
「でも、本当に嬉しいよ。ありがとう!」
あまりにも、あっさり。
「まつりちゃん!」――と。
…………はい?
「それに、今回は本当にありがとうございました。……近衛先生」
…………んん?
「え、ちょっと待って、シロちゃん……?」
「狛犬さん、えっと……つまり、これは?」
困惑し、狛犬さんとミリカを交互に見やる。
ミリカも同じく、あからさまな動揺を示していたが――。
「あ、紹介しますね。この子は黒猫まつりちゃん! そして、こちらは作詞家の近衛カナデ先生です!」
――それが、決定打。
俺とミリカはしばし硬直し、次第に状況を把握していく。
そして、まったく同じタイミングで……。
「ええええええええええええええええええええええ!?」
「ええええええええええええええええええええええ!?」
完全なる異口同音に、そんな叫び声を上げるのだった。
これにて、第1章完結!
明日からはすぐに、第2章が始まります!!
ここまでお読みいただいて、少しでも!
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