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7.ライブ終わりに。






 新曲を歌い上げた狛犬シロの姿を見て、多くの人が思わず呆気に取られていた。

 その大半はきっと、予想外の新曲発表によるものだろう。だが彼女の歩んできた道を知っている者には、さらに深く刺さったらしい。歓声や拍手をする際に周囲を見渡すと、いくらかのファンは涙ぐんでいるようにも見えた。

 俺にとってはその感情の揺れ動きが愛おしく、そして誇らしい。

 だってこれは、五年前の続きに違いなかったから。


 あの日、気紛れに楽曲投稿した高校生と。

 その日、偶然にそれを視聴した中学生の。


 本当に偶々、互いの顔も名前も知らない者同士で励まし合った。

 そんな奇跡のような軌跡の先にあった、不思議な縁によって生まれた楽曲。俺はもしかしたら、いまようやく彼女と交わした約束を果たしたのかもしれない。



『新作、待っています』



 そのコメントのお陰で、俺には現在がある。

 もちろんそれはキッカケだが、キッカケなくして続きはあり得ない。もしこれが、狛犬シロという少女への返礼にできるのであれば、俺としても最高の思い出に違いなかった。

 そして、その夢のような時間には、終わりがあるもので……。



『みんな、ありがとう!!』



 弾けるような主役の笑顔と、それを送り出す拍手によって幕は閉じられた。







「まったく、ミリカのやつ……どこ行ったんだ?」



 夜も更けて、良い時間帯になっている。

 女子高校生を放置して、自分だけ帰るわけにはいかなかった。そう思ってメッセージを送っているのだが、なかなか既読が付かない。彼女の席の周辺を探してみたが、見当たらない。持ってきた雑誌も返さなければいけないのに、いったいどうすれば……。



「ん、狛犬さんから……?」



 そう考えていると、先に狛犬さんからの連絡が入っていたのに気付いた。

 どうやら今回の作詞をしたことにあたって、関係者に俺を紹介したいとのこと。俺は頭の中で、ミリカと狛犬さんを天秤にかけ、思わず立ち尽くしてしまった。

 必ずしも、ミリカの面倒を見る義務があるわけではない。

 しかし一応のところ大人の義務として、無視しておくことはできない。しかしながら、今回の件で狛犬さんに挨拶なしというのも変な話だった。



「う、んー……?」



 そう考えた結果、俺はひとまずミリカにメッセージを送る。



『お前いま、どこにいるんだよ?』



 すると、ようやく気付いたらしい。

 彼女は即座に既読をつけると、マップに印をつけて送ってきたが――。



「……あれ、ここって?」




 俺は首を傾げながら、ひとまずミリカのいる方向へと足を運ぶのだった。









「……ミリカ、なんでお前が関係者室に?」

「え? あー……いや、なんていうか? ノリかな?」

「ノリで関係者室に入れてたまるか!?」

「あ、あははー」



 俺が足を運ぶと、とある一室に通された。

 そこというのもライブの運営など、関係者さん方が使う休憩室のような場所。まさかと思っていたが、何故かミリカの姿はそこにあって、俺たちは何故か互いにぎこちなくなっていた。

 こちらの問いかけにも、彼女は曖昧な返答をする。だが、



「――というか、ソースケくんも! どうして関係者室に!?」

「え!? いや、俺は……えっと……」



 今度は攻守逆転。

 ミリカも目の色を変えて、俺に問いかけを投げてきた。

 俺はそれに対して、素直に答えるべきか逡巡する。そして、



「まぁ、良いか。俺は――」



 仕方なしに、素性を明かそうとした。

 その時だ。



「あー! シロちゃん!」



 後方のドアが開くと同時に、ミリカがすっ飛んで行ったのは。

 どうやら、狛犬さんが到着したようだが――――――ん、シロちゃん?



「あ、やっぱり来てくれてたんだ!」

「えへへ、当たり前だよ!!」



 俺が違和感を覚えながら振り返ると、そこにはじゃれ合う美少女二人。

 微笑ましい光景ではあるが、こちらには疑問符しか浮かばない。

 だが、答えは狛犬さんの口からもたらされた。




「でも、本当に嬉しいよ。ありがとう!」




 あまりにも、あっさり。




「まつりちゃん!」――と。




 …………はい?




「それに、今回は本当にありがとうございました。……近衛先生」




 …………んん?




「え、ちょっと待って、シロちゃん……?」

「狛犬さん、えっと……つまり、これは?」




 困惑し、狛犬さんとミリカを交互に見やる。

 ミリカも同じく、あからさまな動揺を示していたが――。




「あ、紹介しますね。この子は黒猫まつりちゃん! そして、こちらは作詞家の近衛カナデ先生です!」





 ――それが、決定打。

 俺とミリカはしばし硬直し、次第に状況を把握していく。

 そして、まったく同じタイミングで……。





「ええええええええええええええええええええええ!?」

「ええええええええええええええええええええええ!?」





 完全なる異口同音に、そんな叫び声を上げるのだった。



 


これにて、第1章完結!

明日からはすぐに、第2章が始まります!!



ここまでお読みいただいて、少しでも!


面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




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― 新着の感想 ―
すごく面白いです。更新楽しみです。完結までよろしくお願いしますよ。
一章完結お疲れさまです。 あっさりとリアルバレしてしまいました。これで黒もいろいろ思うところが出てくるのでしょうか。 受けた恩を次の人に返していく、という連鎖がうまく機能するなら、世の中はもっと優しい…
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