5.ライブへの招待。
『近衛先生、ありがとうございました! 今回の歌詞、本当に気に入っていて、早く歌いたくて仕方ないです!! 作曲家の先生とのスケジュール感次第ですが、おそらく時間は思ったよりかからないかな、という感じだそうです!!』
俺の作った歌詞データを送ると、狛犬さんはそれはもう喜んでくれた。
社交辞令とも考えたのだが、具体的にどんなところが良いとか、この部分はどのような感情を込めれば良いかとか。かなり突っ込んだ相談をしてくれたので、本心からだろうと思えた。
そんな反応が嬉しくて、ついついメッセージのやり取りも頻繁になっていく。
それからしばらく経って、俺は――。
◆
「よくよく考えれば、Vのライブって……くるの初めてだな」
主催者の招待枠で、倍率が恐ろしく厳しい狛犬シロのライブに足を運んでいた。
もちろんVIP席のようなものではなく、一般席だが。それでも用意してもらえるだけ、ありがたいというものだった。
俺は会場の出入口で紙袋を片手に、狛犬シロ等身大パネルなどをボンヤリと眺めている。それというのも、今回は偶然にも同行者がいるのであった。
その人物とは、
「あー!! ソースケくん、いたぁー!!」
狛犬シロの大ファン……もとい、敬虔なる信者の来栖ミリカ嬢である。
彼女は人混みの中からこちらを見つけると、まるでスキップするかのような足取りで近付いてきた。そして十年来の友人にするかのように、ハイタッチを求めてくる。
俺がそれに苦笑しながら応えると、ミリカはまたマシンガンのように話し始めた。
「それにしても、倍率凄かったのによくお互いに当選できたね! ソースケくんは、どこでチケット手に入れたの? レーチケ、ヨロバシ、あとはゼブンとか?」
「いや、違うけど……」
「ええええええ!? だったら、まさか転売!?」
「それも絶対に違う!! 頼むから、その単語は大声で言うな!!」
ミリカの声に、数名のファンが俺たちを睨んでくる。
誓って転売ではないのだが、特殊な入場をするわけなので後ろめたさがあった。そんなこんなで、ひとまず連れの少女を落ち着かせてから、俺たちはひとまず物販コーナーへ。
そこもまた人が入り乱れていたが、どうにか掻き分けて進んでいく。
しかし、ミリカは上手く動けないらしい。
「ふぎゅ……待って、ソースケくん……!」
いまにも人の波に攫われそうになっていたので、これは仕方ない。
友人として、俺は彼女の伸ばした手を掴んだ。
そして自身のもとへと引き寄せて、
「大丈夫か? 俺から離れないようにしろよ」
「……ふえ!?」
呆れつつそう告げると、何やらミリカは顔を赤らめていた。
たしかにいまの言い方はキザだったかもしれないが、俺にその気はない。女子高生に手を出そうものなら、社会的に抹殺されてしまう。
そんなことになれば当然、近衛カナデとしての仕事はできなくなる。
いままでかかわった方々もそうだが、狛犬シロ――推しの推しにもまた、多大な迷惑をかけることになってしまうに違いなかった。
「あ、ありがと……ソースケくん」
だから、このように。
仮に親しい美少女が照れていたとしても、俺はその気になってはいけない。あくまで大人として、来栖ミリカとは接していくのだと決めていた。
◆
――さて、何やかんやあって。
特別なペンライトなども購入した俺たちは、各々の席へと向かうため別れた。当然ながら同じライブに居合わせただけなので、並びの席なんてわけがない。
そう思っていたのだが、思ったより近い場所に座席を確保していたようで、
「ミリカのやつ……そんなとこから、手を振るなって」
俺の座席から見て右斜め上方に、彼女の姿はあった。
互いに認識できるため、時折にミリカがこちらへ視線を送っているのが分かる。そのことに本日何度目か分からない苦笑をしつつ、そろそろ開演時間のため前を向いた。
すると、一気に会場が暗転。
「いよいよ、か……!」
俺は自然と胸が高鳴るのを感じながらも、緊張から拳を握るのだった。
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