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05南の都“セラニア”

南の都“セラニア”

自宅に戻るなり、嫌な予感が的中した…

オレの帰還を聞きつけ、とある人物が待ち構えていた…

アンナ: 「さて、説明してもらおうか?ロリコンさん?それとも小児性愛者閣下?」

怒りを爆発させているこの金髪の少女は、幼なじみのアンナ。セラニアの大貴族の娘だ。

胸は大きいが、性格は最悪。

ついでに言うと、重度の暴力癖持ちの暴力女。

俺: 「違う!そうじゃない!…からかうなよ!」

アンナ: 「本当に驚いたわ…」

アンナ: 「あなたがまともに冒険者やってるなんて、マジで信じてたのよ?まさか堕ちるとこまで堕ちて、人身売買に手を出してるなんて!」

ユリア: 「もぐもぐ…このフィレパイ美味しいわ…流石人間の美食ね…」

俺: 「あの…この子は実は…戦…」

アンナ: 「どれかな?戦友の娘?道端で助けた不幸な少女?それとも遺跡で拾った古代人?面白い作り話、楽しみにしてるわね、詐欺師様。」

俺: (くそ!用意してた言い訳全部見抜かれた!お前も読心術か?!)

俺: (これが幼なじみか…やっぱりオレの言うことなんて信用しないんだな!)

俺: (だが!)

俺: (今のオレは昔と違う!お前みたいなガキの頃から知ってる暴力女でも、すんなり丸め込んでやる!)

俺: 「ああ…わかった!どうせ信じないなら本当のことを言うぜ!こいつはオレととある女貴族との間の隠し子だ!」

アンナ: 「は?予想外の回答ね。」

アンナ: 「他の言い訳なら、もしかしたら信じるフリもできたかもしれない。」

アンナ: 「でもこの言い訳だけは…本当に…とてつもなく腹が立つわよ…」

俺: (はあ?!なんで?!)

アンナの目が氷のように冷たくなる。指の関節がバキバキ鳴る。

アンナ: 「舐めてるのね、よろしい。耐えなさい。」

その直後!強烈無比の鉄拳がオレの腹へ!咄嗟に腹に力を入れるが…

俺: 「!!!ぶっはっ……」

小さい頃からこうだ。

懐かしい…小さい頃からこの味だ。

胃がひっくり返り、喉の奥に鉄の味…こんな攻撃を何度も耐えられるのが人間かよ?!

俺: 「ダメだ…意識が…」

一撃で意識が遠のきかける。

だが今こそ…せめて…せめて…合わせた口上だけは言わねば。

俺: 「ああ…実はこいつ…」

俺: 「オレのクソ親父が残した隠し子…つまり…妹だ。」

俺: 「貴族の屋敷でメイドとしてこき使われて…精神的におかしくなっちまった…」

俺: 「自分が貴族の子だと思い込んでる…」

俺: 「その貴族、最近破産して…親父から手紙が来て…街で野垂れ死にしないよう引き取った…」

倒れ込む寸前、必死で懐から手紙を取り出す。

もちろん──事前に偽造しておいたものだ。

アンナは手際よく受け取り、真剣な面持ちでしばらく読む。

アンナ: 「この手紙…確かに叔父さんの字ね。そう…でも…この小動物、あなたにちょっと似てるわね。」

アンナは倒れたオレを疑い深い目で見る。

俺: 「(息も絶え絶え)…母親が違うからな…それに年も…」

アンナ: 「そういえば!年齢的に、あなたの娘ってのは無理よね。」

アンナ: 「最初にそう言えば、年齢の問題で信じたかもしれないのに。そうすればもう少し手加減したのに。」

俺: (結局本音でも鉄拳制裁かよ?!)

俺: 「ああ…もう…ダメだ…」

俺: 「ぐぉ…」

……

目が覚めたのは翌朝だった。

アンナ: 「ごめんね、手加減を間違えたわ。」

珍しくオレのベッドの脇に座り、優しく申し訳なさそうな顔をしている。


(内心)

疑い深い相手には、最初に絶対信じられない大嘘を吐く。そうすれば、後から出すまともな説明が、前の嘘と比べて妙に真実味を帯び、相手の警戒心を解けるんだ。

なぜアンナがオレとユリアが似てると思ったか?それはオレが長年の冒険者として培った偽装スキルの賜物だ。事前にオレとユリアの顔を調整──髪型、顔の輪郭、瞳の色を似た感じに整え、一見して何か関係がありそうに見えるように細工した。

それにアンナは小さい頃から自分の鉄拳に謎の自信を持ち、「この拳の前では誰も嘘はつけない」と信じ込んでいる。

もちろん、その「誰も」とは大抵オレのことだ。


ユリア: 「もぐもぐ、起きたか庶民。」

相変わらず食い続けるガキ。今度は別のものを食べている。

アンナ: 「貴族の令嬢がこんな庶民の食べ物を喜ぶなんて…本当に少しおかしいわね…」

俺: 「とにかくこの小動物、今日からオレの家に居候だ。だから食費も自分で稼いでもらわないと。」

俺: 「働かざる者食うべからず!損な商売はしないぜ!」

アンナ: 「あんた…この鬼畜!そんな小さい子に…」

アンナ: 「どんなイヤらしい仕事をさせる気?!(※脳内補完フル稼働)」

俺: 「はあ?」

俺: 「毎日の掃除がそんなにイヤらしいか?」

アンナ: 「そ、それは…別に…」

俺: 「どこまで妄想飛ばしてるんだ…まさか…」

俺: 「ププッ…アンナも色々知っちゃったんだな…」

アンナ: 「黙れ!クズ!死ね!」

ユリア: 「…ここ汚いわね。庶民よ、バカなの?お城に住みましょ。」

俺: 「バカはお前だ!金があれば総督府だって王宮だって住めるぜ!」

アンナ: 「いったいどこのお嬢様気分なのかしら?世間知らずにも程があるわ。」

アンナ: 「手紙の内容も読んだし、ユリアからも少し聞いたわ。」

アンナ: 「この子、どれだけ辛い思いをしたのかしら…あんな安っぽい食べ物でも嬉しそうに食べてるし、頭も心も少しおかしいみたい。辛すぎて、お姫様の童話の世界に逃げ込んじゃったのね。」

アンナ: 「まあ…とにかく…彼女があなたの妹なら…私の妹でもあるわね…」

ワッツワース: (はあ?勝手に決めるな。気に入ったら連れて帰れよ、経費削減できるしメェハハ…まあ…好きにしろ。)

アンナ: 「ユリアちゃん!お姉さんって呼んでみて?」

ユリア: 「アンナお姉さま…きれいなお姉さま!」

アンナ: 「おおおおおおおお!!!!!!! これはこれは!!!!」

アンナ: 「よし!今日からアンナお姉さんが、あなたの本当のお姉さんよ!」

ワッツワース: 「はあ?調子乗ってんのか。まあ楽しそうだしな。」



翌日:南の都“セラニア”

俺: 「メェハハ!そういえばよ…魔王様から貰ったペンダント、どんだけの価値があるんだ?やっぱ質屋で見てもらおうぜ。」

俺: 「は?これから冒険者続けるか?ハハ、ありえねーよ!このペンダントで大金が入ったら、今日から足を洗って、冒険者ギルドのオーナーに転身だあ!」

俺: 「苦尽甘来、故郷に戻り、人生と未来はバラ色だ!若造に任せとけよ、命知らずの冒険者ごっこはな。オレ様は今日をもって冒険者人生にピリオドを打つぜ!」


(ゴソゴソ…)

俺: 「あれれ?ペンダントがない?さっきまであったのに…」

ユリア: 「ネックレス、なくなっちゃったの?お・に・い・ちゃ~ん♪」

俺: 「うわっ!ユリア!なんでここに?!それにペンダントなんでお前が持ってるんだよ!」

ユリア: 「ちなみに、これを売ったお金は私の生活費だからね?」

俺: 「アハハ、大丈夫大丈夫、ガキが食う分なんてたかが知れてるさ。どう転んでも儲けは出るだろ~?」

店主: 「警官さん!あの娘です!昨日から通り中の店を食べ歩いて、一銭も払ってません!」

警官: 「てめぇが保護者かよ!ガキがわからねぇなら大人が金払えって教えろよ!」

警官: 「おっと、ワッツかよ。てめぇは他人みたいに騙されねぇからな。」

店主: 「わが店の営業妨害、悪質な食い逃げの共犯だと強く疑います!」

警官: 「この娘、見たことねぇ顔だぜ。まさかあんないい事してねぇだろうな?」

俺: 「はあ…」

俺: 「なんでみんな悪意の方向にしか考えねぇんだよ!」

警官: 「だっててめぇ、前科者だろ?」

俺: (なるほど!昨日家に着いた時、あの豚の角煮パイを掴んでたのはそういうことか!自腹かと思ったぜ!)

俺: 「誤解だ誤解、全部誤解だジーク警官!オレは守法の良き市民だ!それにこいつは…」

俺: ((ガツン!落ち着け!魔族だなんて言えるか!売国奴扱いだ!))

俺: 「あはは…こいつは…オレのむ、むすめ?」

俺: (おっと、口滑った…)

店主: 「なんで疑問形だよ!ていうかてめぇの年でそんなデカい娘がいるわけねぇだろ!」

警官: 「おい小娘、正直に言え。何歳だ?てめぇとこいつの関係は?」

ユリア: 「……」

警官: 「事件の匂いがプンプンするぜ…」

俺: 「ちょっ!ユリア!ボーっとしてんじゃねぇ!設定覚えてるだろ!」

ユリア: 「ユリア、13歳。お兄ちゃんの…なんだっけ?」

俺: 「妹だよ!妹!」

ユリア: 「ああ、妹だったわね。」

警官: 「ますます怪しいんだが…」

アンナ: 「今回はあいつ、嘘じゃないと思うわ。」

アンナが近くから現れた。

俺: 「久しぶりに帰ってきたのに、オレの信用と評判、どんだけ地の底なんだよ!」

警官: 「だっててめぇ、前科者だもんな…」

俺: 「二度目だぞ!聞こえてるぞ!」

俺: 「一体オレが何をしたっていうんだ!」

警官: 「てめぇ…覚えてるよな?数年前、魔族と戦争中に、熱く語って志願したじゃねぇか。」

警官: 「町中の連中が感動して、寄付の山を積んだんだぜ…」

警官: 「なのに結局、前線での話は一切なし。調べたら、敵討ち数0、軍務遂行数0、行軍距離0…」

俺: 「まあ…いろいろ事情があって…」

警官: 「どこ行ってたんだよ…?しかもなぜか冒険者?」

警官: 「名誉貴族の末裔が、給料ドロボーとか…体裁くらい考えろよ。」

警官: 「しかも最近は中央都で大暴れして、ギルドから干されたらしいな…」

俺: 「誤解だって!超大な誤解だ!」

警官: 「愛国市民の感情と財布を弄んだ…」

アンナ: 「言わざるを得ないわね…」

警官: 「てめぇは…」

店主: 「クズ中のクズだ…」

俺: 「……はあ…もういい。」

俺: (戦時中の機密なんて言えねぇよ…)

俺: (でも詰んだな…魔界のペンダントを売ろうものなら、もっと面倒になる。闇市を探るしかねぇ…)

俺: 「と、とにかく!グルメ街の飯代は払う!行くぞユリア!」

オレはユリアの腕を掴み、強引に住処へ引きずっていく。

ユリア: 「お?帰るのクズお兄ちゃん?」

俺: 「……クズじゃねぇ!」

……


夜:

俺: 「ふぅ…災難続きの一日だったぜ…」

住処のベッドに疲れ果てて倒れ込む。冒険者になって以来の久々の安息だ。

ドアの陰に小柄な影。…ああ、あのガキか。

もはや彼女も気づいているはずだ。

この偽物の勇者の正体に。


都会に来れば隠しようもない…オレが甘かった。

だが何はともあれ、オレは生き延びた。あの魔王と盟約を結んだ。オレみたいな凡人で魔王という戦力を封じ込められたのだ。人類側として大儲けだ。


ユリア: 「勇者よ。」

俺: 「ああ、なんだ?」

ユリア: 「信じられないわ。人間の都で、正体を隠すためにここまでやるなんて。」

俺: 「はあ?」

こいつ、正体を暴きに来たんじゃないのか?

ユリア: 「この数日、町であなたの噂を聞いたわ。酷評の嵐よ。」

俺: 「アハハ…若気の至りさ…」

俺: 「ところで魔王様の真の目的は何なんだ?」

俺: (あの魔王様が本当にあのデタラメな提案を…)

ユリア: 「おお!やっぱり気づいてたのね!流石は勇者よ。」

ワッツワース: (はあ?何に気づけってんだ?)

ユリア: 「そうよ!余こそが魔王じゃ!」

俺: 「(えっ…)」

俺: ((えええええ?!?!))

ユリア: 「もうバレてたのね!もっと長くごまかせると思ったのに~」

俺: ((ぜんっぜん気づいてねぇよ!!!))

俺: ((冷静冷静!顔に出るな!))

ユリア: 「ああ…魔界の魔王業、つまらなすぎるのよ。だからこの機会に堂々と人間の都を見物しに来たの!」

俺: 「待て!魔王様、選ばれたばかりだろ!」

俺: 「それで大丈夫なのか?!魔王が失踪したら魔族の統治ルールは?! 」

ユリア: 「人間の街、面白すぎるわ!余が満足するまで構ってらんない!余が魔王なんだから!」

俺: 「おいおい…」

ユリア: 「余が魔王!余こそがルーラー(統治者)よ!」

俺: (ああ…これ以上面倒事が起きませんように…)

……


こうして…俺たちの物語は、始まったのであった…



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