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04謎の少女

超加速ダッシュだああああ!

(30分後)


シーン:魔界の森

俺: 「はぁ…はぁ…(激しい息切れ)マジで心臓飛び出そうだったぜ…」

俺: 「この人生の運…全部使い切った気がする…」

俺: 「…はぁ…はぁ…(喘ぎ)…たぶん…オレ史上最速の逃走だった…ここまで走れるとは…」

俺: 「だって後ろには魔王がいるんだぜ?もしオレのペテンがバレて怒り狂ったら…」

(まあ、怒った女の怖さは最近身に染みてるし…)

(そういやアンナの恐ろしい女もいたな。あの怪力で顔をペシャンコにされそうになったこと何度か…)

俺: 「はあ…(苦笑)…大した収穫はなかったけど…せめて…命だけは…守れた…何度目の生還かも覚えてねぇや、ハハッ。魔王の土産がちょっと惜しいけどな」

俺: 「メェハハハ!命あっての物種よ!」


謎の少女: 「何がそんなにおかしいのかしら?」

俺: 「ハハハ!そりゃあ魔王から生きて帰れたからさ!」

俺: 「はあ…?」

俺: (今誰が喋った?!)


謎の少女: 「余じゃよ」

俺: (うわああ魔王じゃん?!マジで見つかった?!終わった?!)

俺: (…あれ?なんか小柄になった?コスプレ?)


謎の少女: 「庶民よ、お前が勇者ワッツワースというのか?」

俺: 「ああ…どうやら…」

俺: (別人?)

俺: (ヤバイ…ペテン見破りに来たのか?!でもここは…厚かましくも勇者を演りきるしか!)

俺: 「そ、そうだよ!お兄さんが勇者さ!君は?」


謎の少女: 「ああよかった!やっと見つけたわ!魔王様からの贈り物を届けに来たの!」

俺: 「……………」

俺: (え?!?!?!追跡じゃない?!)

俺: (贈り物?まさか即死魔法『首刈り円舞斬』とか?!小娘を送り込むなんて…油断させて背中刺すつもりか?!)

俺: 「あの…小さい子が嘘つくのは良くないよ?」

謎の少女: 「失礼ね!庶民め!余がお前ごときに嘘をつく必要なんてないわ!ほら、魔王様からの贈り物よ!」

(キラリ★と輝く宝石のペンダントを取り出す)

俺: 「…では遠慮なく頂戴するよ」

俺: (マジでプレゼント?!魔王超いい奴じゃん!命からがらで空手で帰るかと思ったぜ!)

俺: (感動だわ…このままでは魔族に魂売りそうだぜ、メェハハ!)

俺: (いやいや、勇者の看板が効いたんだ。ついでに他の城も…魔界って案外民風淳朴なのかも?)

謎の少女: 「ちんっ☆」

俺: (バカ言ってる場合か!さっさと撤収だ!)

俺: 「あの…名もなき小さなお嬢様よ…」


謎の少女: 「ユリアよ!このユリア様の名を、虫けら同然の塵芥勇者デブリスゆうしゃよ、しっかり刻むがいい!」

俺: (こいつ…毒舌すぎるだろ…クソガキめ…)

俺: 「ぶっへっ!」

(腹部に鉄砲玉のような衝撃!ゴリラのパンチを喰らった気分だ)

謎の少女: 「なぜか猛烈に殴りたくなっちゃったわ」

俺: (見くびった…コイツ危険だ…)

俺: 「ゴホッ…ユリアとやらよ。魔王様によろしく伝えてくれ。そろそろ本気で失礼するぜ、じゃあな!」

ユリア: 「うん!了解!じゃあ行こっか!」

俺: (は?!『行こっか』?!聞き間違いだよな…小娘の言葉なんて気にするな…)


(1時間後)

(2時間後)

(3時間後)

(辺りが暗くなり始める)

俺: (…………)

俺: (マジで…なんなんだ?!)

俺: (なぜ…ずっと付いてくる?!さっき小走りしたのに振り切れない?!)

俺: (ありえねー!スピード特化の冒険者であるオレ様の足を?!)

俺: (魔界のガキはみんな怪物か?!)

俺: (さっき別れたのに…話しかけづらい…)

俺: (…仕方ねぇ、聞くか)

俺: 「なあ…ユリアよ」

ユリア: 「ん?なんだ庶民」

俺: 「暗くなってきたな…」

ユリア: 「おお!そうね勇者!なかなか気が利くじゃない!晩餐会の準備か?ちょうどお腹空いてたの!」

俺: (は?!晩餐会?!ふざけてるのか?!)

俺: 「その…親御さんが心配してるんじゃないか?」

ユリア: 「ああ、全然大丈夫よ」

俺: 「…は?」

俺: 「えっと…そろそろお家に帰った方が…」

ユリア: 「そうね!いつ家に着くのかしら?」

俺: (また『家』?!こいつの家どこだよ?!)

俺: 「あの…オレは人界の方向に行くんだけど…」

ユリア: 「知ってるわよ?南の都セラニアでしょ?美味しいものがいっぱいらしいわね!」

俺: 「ああ、フルーツサラダに豚の角煮パイは絶品だぜ…」

俺: 「って違う!話それてる!」

ユリア: 「ぐるる…」(ヨダレをゴクリ)

俺: 「おいおい魔族のガキ!はっきり言うぞ!」

俺: 「オレはロリコンじゃねぇ!」

俺: 「幼女好きの変態おじさんでもねぇ!」

俺: 「だからさっさと帰れ!ついてくるな!」

俺: (マジで人生終わる…アンナに見られたらセラ川で洗っても汚名返上不可だ…)

ユリア: 「でも魔王様が『あの庶民について行け』って。なんか計画か実験か…めんどくさくてちゃんと聞いてなかったわ」

俺: (はあ?!)


(回想)

ワッツワース: 「人間と魔族…共存は不可能なのか?」

ワッツワース: 「我等は…平和を望む。両種が長く共存できる平和を。勇者として、人間代表の名において、魔王と和平交渉する!」

魔王: 「では勇者よ、お前の交渉案は?」

ワッツワース: 「…魔王よ。魔族と人間の共存実験をしようではないか!」

ワッツワース: 「魔族から代表一名を人間の国へ派遣し、相互理解を促進せよ!その代表の安全は…」

ワッツワース: 「…この私が保障する!」

(回想ループ)

俺: (うわっ!マジで実行された?!)

俺: (ヤバすぎる…南の都で正体バレたら…勇者ごっこも実験も全部ペテンが…)

俺: (完全に…)

俺: (終わったああああああ!!!!)


(しかし!)

生死の境を彷徨う冒険者が培った究極の判断力が、0.1秒で結論を出した。

俺: (クソが…)

俺: (騙し通せ!全員を丸め込んでみせる!)

俺: (魔王の使者だろうがアンナだろうがセラニアの住民だろうが…)

俺: (このワッツワース様がドデカい嘘で塗り固めてやる!)

俺: (やらなきゃ…確実に死ぬ!!)


ユリア: 「庶民よ、さっきから黙ってるわね」

ユリア: 「そろそろ行く?さっきはちょっと速すぎて、ついて行くのが大変だったわよ?」

俺: 「…ああ、いいぜ」

俺: (チッ…オレ様の『瞬歩』が『ちょっと速い』レベル?!“レンジャー”の異名を持つオレをナメるな!)

俺: 「なあユリア、これから人界に行くけど…向こうの人間はオレみたいに優しくないぞ?」

ユリア: 「ふ~ん?だから?」

俺: 「約束してほしいことがあるんだ…」

ユリア: 「は?アホ(ピーッ!)なの?なぜこのユリア様が一介の庶民の言うこと聞かなきゃいけないのよ?!」

俺: (クソガキのクソが!)

ユリア: 「ついでに言うわね、なぜかまた貴様をぶん殴りたくなってきたわ、勇者よ」

俺: 「ひいっ!!ごめんなさーい!!」

俺: 「魔族ってバレたら、美味しいもの売ってくれなくなるぞ?ユリアも美味しいもの好きだろ?」

ユリア: 「ううっ!そ、そんなことないわよバカ!」

ユリア: 「…まあ、そこまで哀願するなら慈悲をかけてやるわ」

俺: 「サンキュー!」

俺: 「あと、できれば『ワッツワースさん』って呼んで。『勇者』って呼ばれると同族に誤解されるから」

ユリア: 「いいわよ。じゃあ『庶民』で。それとも『虫けら』?『人間君』?」

俺: 「…庶民で」

ユリア: 「そういえば庶民よ。魔王様の魔性のペンダント、ちゃんとつけなさい。これがあれば魔族はお前を同族と見なすわ。これから通りかわる町や村で補給できるし、野宿したいわけじゃないでしょ?」

俺: 「おお、わかった…」

俺: (すげえ!超便利アイテムじゃん!)

俺: (これで魔界でアルバイトも…)

ユリア: 「あ、そういえば人間の遠征隊が魔界に潜入してるらしいわね。治安を乱すようなら、貴族である余は見過ごせないわ」

ユリア: 「勇者たる貴様、理解できるわよね?」

俺: 「はいはい!もちろん!匪賊退治は市民の義務です!」

俺: (…まさか心読める?!)


……………………

魔王様から貰ったペンダントのおかげで、魔族たちはすっかりオレを仲間扱い。珍しく魔族の宿に泊まり、魔族の飯も食えた。人間界に比べれば宿も飯も質はかなり落ちるが、以前の飢え死に寸前よりはマシだ。

魔族の耕地が少ないせいか、平民の食べ物は丸い植物の根を粉にしたペースト状のものばかり。宿の建物も粗末で、貴族の城や魔王城だけが戦争捕虜の人間職人に建てさせたものらしい。

でもそれ以外の魔族は、人間と大して変わらなかった。みんな日々の糧に追われてる。ただ、土地を持つ魔族は地位が高く、痩せた魔界で作物が育つ土地を持つことは、経済力の証だった。

はあ…根っこは同じなのに、なんであんなに憎しみ合って殺し合わなきゃいけないんだ?

俺: 「まあ、オレが善人だとは思ってねぇけどな。」

俺: 「落とした金を見つけたら黙ってポケットに入れる、チマチマしたケチ野郎だ。」

俺: 「美味しい話には即飛びつくクソ野郎だ。」

俺: 「でもな、平民に平然と手を出すような大悪党はごめんだぜ。」


そんな訳のわからん考えを振り切って旅を続け、ついに人間の領域へ。もちろん国境警備隊の目を盗む抜け道を使ったけどな。

幸い、ユリアという魔族のクソガキは人間の都を楽しみにしているらしく、オレの指示に従い、あまり手を焼かせなかった。

南の都セラニアが近づき、門が見えてきた。長旅の末、ようやく人界帰還だ。魔族のガキもオレの要求通り魔力を完全に隠し、普通の人間の女の子と見分けがつかない。


ワッツワース: (ふぅ…これでどうにかごまかせそうだぜ…)

ユリア: 「おお!ついに着いたのね庶民!」

ワッツワース: 「ああ!それと道中で言った設定、しっかり覚えとけよ!」

ユリア: 「おお!問題ないわ庶民、了解したわ庶民!」

ワッツワース: 「お兄ちゃんだ!」

ユリア: 「わかったわよ、お・に・い・ちゃ~ん♪」

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