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01魔界遠征隊に入った件について

記念すべき初投稿です! 読者の皆様、どうぞお楽しみくださいませ~!


ズバリ言うと、自称・守銭奴なのにドジばかり踏む冒険者を描く、ハチャメチャ・コメディストーリー!


彼の失敗の数々が、きっと笑いのタネに変わること間違いなし!


この物語でほんの少しでも笑っていただけたら、作者としてこれ以上の幸せはありません!

これは一ヶ月前の話だ。

俺は失業中で、中央市の通りをぶらぶらしていた。

まあ、原因を言えば、元いたギルドの会長、孤高のゴルチャーク嬢と喧嘩別れしたってところか。

実際、俺は自分ではかなり我慢強い方だと思ってる。だが、どんな奴だって、譲れない一線と原則ってものはある。

どれだけ我慢強い奴でも、ギルドの三つの掲示板に、一週間も続けてビラを貼り付けられて、いい気分になるわけがないだろ?

ま、でもどうでもいい。今日からはもう、あのギルドとも俺は関係ない。


ちょうどギルドを辞める手続きをしに行った時のことだ。

ギルドの前は人だかりで、何かが起きているようだった。

普段なら、こういうことは全く気にしない。だって、俺は騒ぎ好きじゃないからな。

こういうのって、隣国から来た安物の干物が安売りされてるとか、どっかの遺跡から掘り出したような粗悪な財宝を、手を加えて新製品みたいに見せかけて売り出してるだけだ。そんなもの、田舎貴族の世間知らずか、安物好きの奥様くらいしか騙せないだろ。

……

「―――これは千載一遇のチャンスですぞ、皆さんっ!!」

魔界遠征の旅が、大貴族リチャード・ケルフ氏のエンジェル投資によって出発準備完了! 勇敢な冒険者を若干名募集! 名誉と富を掴むのは君か! …おや? 小僧さん、参加するならその干物と貴重品、一旦家に持ち帰らないかね?

(やべぇ…! つい手が出そうになった。)

近づいてみると、恰幅のいい男が紙で作ったメガホンを巻き、声を張り上げて何かを宣伝していた。

一体何事か、好奇心に駆られて、近づいてみた―――

どうやら、とある小隊のリーダーが、魔界に詳しい筋から情報を買ったらしい。数年前に先代魔王ユリシーズ一世が亡くなって以来、魔界は混乱に陥り、有力な候補たちが王城に集結して新魔王の座を争っているとか、魔界議会の選挙で票を売り、利権を漁ろうとしているとか。

こんな時こそ、混乱に乗じて魔界に潜入し、水を濁せば、大儲けできるかもしれないってわけだ。

あはは、つまるとこ、こいつらまだまだ青いな。

マジで言うけど、俺の長年の冒険者経験からすると、こんなもん、若い冒険者を騙すためのネタに過ぎないぜ。

世の中、そんなに甘くない。俺はもう見飽きるほど見てきたんだ。魔界の貴族が全員首都の王城に選挙に行くなんてありえないし、しかも今回の有力候補って、成金出身の金髪の巻き毛魔族と、ベテランの大ベテラン前前前魔王夫人らしいぜ。どう考えても魔王夫人の勝ちだろ。

もちろん、もしどっちでもなく、若造の小娘が勝つなんてことになったら、魔界の賭博場も大番狂わせで大騒ぎだろうな。

それに選挙なんて数日もあれば終わる。今頃はとっくに決着ついてるかもしれない。こんな時に、本当に金に困り果てた奴以外、信じて飛び込むバカがいるか? 危険を冒して富を得るってのは、命あってのものだぜ。

こんな稚拙な詐欺、真に受けるのは金に目がくらんだ、とことんまで追い詰められた大バカだけだ。

はっはっはっはっはっ。

はっはっは。

はっは。

はっ…


一ヶ月後

魔界・魔境の森


長い冒険者人生を経て、俺はついに一つの事実を発見した。

――俺はバカだ。天下一品の大バカだ。


冒険者マキシム:「おお! ワッツじゃねえか、久しぶりだな! 覚えてるか? 中央市ギルドのマキシムだぜ。おいおい、お前もこの遠征に参加したのか? やっぱり…会長と揉めたからか?」


俺:「…おう、マキシムか、…ひ、久しぶりだな。」

(ああ…そうだ…俺はたぶん…本当に金に困り果てたんだ…)

俺は…本当に大バカ野郎だあああああああああああああ!!!

冒険者マキシム:「いやあ、お前もこの隊にいるとはな、全然気づかなかったぜ。会長と揉めたって聞いたけど、あの日たまたま俺はいなかったんだよな。で、結局どうなったんだ?」

俺:「ああ…あれはな…辞めるその日、もう二度と中央市の冒険者ギルドには来ない、あの嫌な女とも会わなくて済むって思ったら、長年溜め込んだ鬱憤が一気に爆発しちまったんだよ。」

俺:「手続きを終えて、片足をギルドの入口から外に出そうとした時だ。出る直前に、深く息を吸い込んで、何か言おうと近づいてきたあの女に向かって、子供には聞かせられないようなありとあらゆる罵詈雑言を浴びせちまったんだ。」

冒険者マキシム:「ある意味、お前ってやつ、勇者だな。」

俺:「ああ…あの孤高の鉄の女が泣くのを、生まれて初めて見たぜ。」

冒険者マキシム:「えっ…冗談だろ…あの冷血女が?」

俺:「でもな、あれは人生で一番スカッとした日だったぜ。スッキリしすぎて飯を三杯おかわりしちまったほどな。」

俺:「スッキリはしたが、すぐに厄介なことに気づいたんだ…」

冒険者マキシム:「いやいや、厄介なんてもんじゃねえよ。あの女に逆らってよくぞ今日まで生きてられたな、それだけで奇跡だ。」

俺:「まあ…そうかもな。でもその後、中央市の他のギルドも、近隣の街のギルドも、誰も俺を雇おうとしなかった。」

俺:「再就職は完全に御破算だ。ゴルチャークのあの女、ありったけのコネを動員して、俺を徹底的に貶め、人事記録を完全にシャットアウトしたんだろう。」

冒険者マキシム:「ゴルチャーク会長、そこまでやるとはな…」

俺:「それだけじゃない。職業的に潰すだけでなく、肉体的にも抹殺しようとしてやがるんだ。」

俺:「食事に毒を盛られ、住まいに放火され、時には一晩で何度も暗殺を受けやがった。」

俺:「鬼だ…本気だ…昔はあんな女だとは思わなかったぜ…」

冒険者マキシム:「……」(冷や汗)

俺:「すぐに…冒険で貯めたわずかな貯金も底をついた。面倒を恐れた宿屋はもう部屋を貸してくれない。それでもまともなギルドから仕事はもらえない。安全上の理由で、以前やってた裏の仕事も手が出せない。仕方なく、結局この魔界遠征という賊船に乗っちまったんだ。」

俺:「でも正直言ってな、一方であの悪辣な女からの追っ手を逃れるためでもあったんだ。」

俺:「魔界のギルドまではあの女の手が届くとは思えねえ。少なくともしばらくは安心して暮らせ…」

冒険者マキシム:「まあ…そうだといいがな。」


魔界遠征5日目

……


魔界の地に足を踏み入れた。空はどこもかしこも鉛色で、時折不気味な紫の霧がぼわっと立ち込める。土地は極度に痩せていて、食料が育つ気配すら感じられない。魔族がどうやってこんな場所で生きてるのか、全く理解できない。

でもこれが魔界特有の天候なんだろう…俺たちはもう魔界の領内を五日間も進んでいる。持ってきた物資の大半は底をつき、水も食料もなく、補給のあてもない。どう見ても希望なんて見えやしない。

一番怖いのは、元中央市ギルドの知り合い、マキシムにバレちまったことだ。

これじゃあ、情報がゴルチャークのあの女に漏れるかもしれねえじゃねえか! 頼むぜ、口を固くしてくれよ…

まったく頭が痛いぜ…


クックッ…だが正直なところ、俺もただのバカじゃねえさ。

元々は報酬だけもらって、途中で戦死したフリか、さっさと逃げ出すつもりだった。だがこの道中は本当に不可思議だった。俺たちの小隊はできるだけ軽装で、細い獣道みたいな道ばかりを選んで進んだのに、なんとまともな魔族に一匹も出くわさなかったんだ。せいぜいが魔界のイノシシみたいなモンスターで、すぐに食い物にできたが、こんな状況じゃ、戦死したフリもサボタージュもできっこない。

登録は偽名でやってるが、バレちまった以上…冒険者ワッツワイズがイノシシにやられたなんて話になったら、全国の冒険者の笑い者だぜ…


あああ、このままじゃ、自分が彼らと同じ大バカだってことがバレちまうじゃねえか。

まったくもって絶望的な状況だ。


だが、隣にいるバカ仲間のマキシムは、相変わらず元気ハツラツな様子だ。自分の置かれた状況が全くわかっておらず、本当に魔界で手柄を立てるつもりなんだろうな。

(愚か!まったく愚かだ!)

(この隊の大半の連中にとって、最初から目的は遠征なんかじゃない)

(魔王が代わるって状況で、大魔族どもが王城に行ってる今こそが絶好のチャンスだ。手を出せる魔界貴族の城に忍び込めば、必ず大金をせしめられるってわけさ。)

もちろん、人間界で盗みを働けば重罪だが、魔界でやれば英雄的行為として称えられるんだ。だって、命を持ち帰れる奴なんてそうそういねえからな。

俺:「…ああ。」

俺:「だがこのままじゃ、英雄になる前に俺が終わっちまいそうだぜ。」


俺:「そういやな。この隊のリーダーってやつ、初めて会った時から不吉なオーラが漂ってたぜ。」

道中ずっと『この遠征から帰ったら、故郷で結婚するんだ』『心配するな、今回の勝利は確実だ。もしそうじゃなかったら、お前が死ぬ前に俺をぶった斬っていいぞハハッ』とか、そんなバカなことばかり言ってる…

アハハハ…

(口にすんじゃねえ言葉ってのがあるんだよ、分かってんのかクソが!)


今となっては、長年の冒険者経験を駆使して、どうにか耐え抜くしかねえ。

……


魔界遠征7日目…

……


今日も…相変わらず何も得られなかったな。

(ああああ!このクソどもめ!経験がなさすぎるだろ!ここまで来て食料を探すって発想がねえのかよ?!)

(隊の食料と水は完全に枯渇したんだぞ!)

(ダメだ、俺も早めに手を打たねえと、本当にこの小隊と心中しちまう…)

(あ…最近の目眩は空腹のせいか?あそこに何かある…城…みたいなものか?)

もし本物の城なら、俺の腕前で潜り込んで、飲み食いくらいは朝飯前だ。ついでに魔界の財宝を掠め取れるかもしれねえ。

そういや、俺は昔ながらのこそ泥じゃねえんだ。でも今の風潮ってやつで、魔界と人間は戦ったり仲良くしたりだが、人間の負けが多くて、民衆はみんな不満タラタラだ。だから今は、誰だって、どんな職業だって、魔界に一泡吹かせることができりゃあ、どんな方法でもいいんだ。空飛ぶドラゴンに乗って魔界の空から落ちてゴブリンを潰しただけでも、熱狂的な世論で国民的英雄に祭り上げられるんだぜ。


英雄…懐かしくて遠い言葉だ。

俺も、かつては英雄になりたかった。尊敬される勇者としてデビューしたかったんだ。

だが、なぜだかわからねえが、いつも何かがうまくいかなかった。

すまんが、冒険者としてはな、俺の職業はよく盗賊と間違えられる。戦闘力は三流だけど、変装、潜入、詐欺、そして窃盗のスキルに関しては、自画自賛になるが、一流の自信があるってわけさ。

そのせいか、ギルドにいた頃、俺の指名箱にはよく訳のわからん小広告が入ってて、殺し屋にならないかとか勧誘されたもんだ。

冗談じゃねえよ、殺し屋なんて一回きりのトイレットペーパーみたいなもんだろ? 金をもらっても、命あってのものだぜ。


いてててて、このクソ枝が背中の傷に引っかかった!

歩く時はもっと注意しなきゃな。


そういやこの傷、前にトイレットペーパーやってた時にできたんだよな…ああ…あの時は本当に危なかった。百人近い追っ手から、ようやく逃げ切ったんだ。一言で言えば、文字通り死中に活を得たって感じだぜ。


はあ…とにかく、誰だって金に困る時はあるさ、ハハ。

特に俺みたいにだらしなくて、金銭感覚がルーズな奴は、金欠が日常茶飯事だ。だから昔はこっそり、こういう裏の仕事も結構やってたんだ。

ある意味、俺というこの再利用可能なトイレットペーパーは、結構な高評価を得てたってわけだ。

そのおかげで、あの毒婦に依頼されて送り込まれてくる暗殺者どもの腕前は、全く見るに堪えねえ。手口は全部俺が使い古したものばかりだ。

失敗。なぜ失敗するかわかるか?業界の衰退を本当に悲しく思うぜ。

毒針を仕掛ける、下剤を盛る…いつも同じ手口ばかり。

こんな暗殺のやり方、まったくもってつまらん。


ワッツワイズ:(よし、そろそろ自分の逃げ道を考えねえとな。この状況じゃ、このクソみたいな隊について行ったら、最後は飢え死にする前に、こんなバカな自分を殴り殺すためのレンガを探す羽目になるぜ。)

今が抜け出す時かもしれねえ。でも理由と口実はしっかり考えねえとな。でないと、突然いなくなって戦時失踪や脱走兵と誤解されたら洒落にならねえ。そうなったら、最低保証の報酬すらもらえなくなる。

そうだ、さっきマキシムが何か言ってたな。もう魔界の奥深くに入り込んだって。ここ数日ひっそり移動してたから、近くの魔族の集落の様子は全くわからねえが、遠くに大きな城らしきものがあるって…もしかして、俺の一発逆転のチャンスか!?

俺:「おおお! あそこに何か見えたぞ! 魔族に見つかったんじゃねえか!?みんな、様子を見てくる!」

(今こそ走る時だあああああ!!!)

……

冒険者マキシム:「おい!ワッツ!行っちゃダメだ!あそこは…危険だぞ…!」


俺が走るスピードを上げるにつれ、マキシムの声もかすれていく。

……


冒険者B:「そういえば、知ってるか?魔界じゃ、このクソ天気のせいか、時々珍しい蜃気楼が見えるらしいぜ…」

冒険者C:「本気にして隊を離れたら、十中八九死ぬだろうな、ハハ。」

……


影A:「あの男、隊から離脱したな。」

影B:「どうやらそうらしい。これでもうこっちが手を下さずとも確実に終わるだろう。安心して復命すればいい。」

影A:「ここ数日、俺たちがこっそり食料と水を少しずつ隠してきたのも効いてるな。この隊ももうおしまいだろう。」

影B:「まあいいさ。俺たちが途中で隠してきた分の備蓄があれば、中央市まで生きて帰れるはずだ。」

影A:「ゴルチャーク様も本当にお気前がいいな。こんな大金、優秀な殺し屋を雇って魔界の高官を暗殺させるのにも十分な額だぜ。」

影B:「ああ、言ってるのは『トイレットペーパー君』のことだな。あの値段で十分だが、奇妙なことに、あの男も最近見かけないんだよな。」

影B:「あの守銭奴、普段は素顔を見せず、夜にこっそり現れるんだが、こんなに儲かる仕事を引き受けないとは…暗殺対象が自分自身でも、自殺を選ぶんじゃないかってくらいだぜ。」

影A:「だが俺が見るに、あんなに儲かる仕事を断るなんて、あの男はもういないのかもしれん。本当にトイレットペーパーみたいに、使われて捨てられたんじゃなかろうか…ハハハ…」

影B:「とにかく、暗殺対象が魔界で道に迷い、補給もなく敵だらけの中をさまようなら、俺たちが発見する頃には完全に冷えてるだろう…その時は適当に体の一部でも切り取って証拠品にすればいいさ。」

影A:「余計なこと言うなよ。お前も知ってるだろ?あのゴルチャーク様、以前はあの男にちょっと気があったらしいぜ?喧嘩別れした後、その好意が何百倍もの憎悪に変わったみたいだがな…」

影B:「つまり、復命するだけでいい、何も見せない方が彼女を刺激しないってことか…」

影A:「そういうことだ。つくづく女って…恐ろしいよな。」

……


冒険者マキシム:「どうだ…皆、はぐれたワッツを見つけたか!?」

冒険者A:「その…残念ながら、これが冒険者の世界だよ、少年…」

冒険者A:「死に慣れるんだ。仲間の死に、そして…自分の死にさえも…」

冒険者B:「でももう一つ噂があるんだぜ?魔界の一部の地域では、あの蜃気楼は人間界のとは違って、時々本当に魔王の呪術で、どこか別の場所への秘密の通路になってたりするらしい…ハハ、まさかそんな都合よくいくわけないがな。よっぽどツイてるか、ツイてない奴にしか起こらねえだろう。」

冒険者A:「あいつが無事でいてくれればいいがな。」

……

.


魔界遠征8日目・ワッツワイズ逃亡2日目

俺:「…ああ」

俺:「一体あとどれくらいだ…」

なんだ…どうなってんだこのクソ場所…城が目の前にあるのに、いくら歩いても近づけねえ…このままじゃ、俺は…

俺:「本当に終わりだぜ。」

ドン!

俺:「いてっっっっっっ!痛ええええええ!!!?」

ん?

(幻覚にでもかかったか?突然見えない壁に頭をぶつけたみてえだ…)

(まさ…まさか…ついに着いたのか?)

突然、目を覚ます!

まさか?!…


魔界の蜃気楼伝説、俺だって聞いたことはある。南から北まで渡り歩いて、今だ無傷(大嘘)のエリート冒険者(超大嘘)である俺が、今回何の準備もなしに来るわけがない。『魔界の十万のなぜ』みたいなもんを、最初から最後まで読み込んでるんだぜ!それに何より、俺には無敵の変装と潜入スキルがあるんだ!

.

ああ…その…どうしてもダメなら…魔族に投降して、人間側の裏切り者になるしかねえか。

生き延びることが何より大事だ。

透明な壁を手探りで進んでいく。見た目の位置は幻術でずらされているかもしれないが、城全体を丸ごと移動させるなんて不可能だ。幻術も万能じゃない。手に伝わるゴツゴツとした岩の感触が、慎重に進めば中に入れることを確信させた。

絶対に!

大丈夫だ!

……

30分後


やっぱり俺は天才だああああ!!!

ある場所に入った瞬間、城の偽装が完全に消え去った。

目の前に広がるのは、豪華絢爛、魔界貴族特有の趣を帯びた廊下だ。この城の所有者は、かなりの大物に違いない。

しかも城の中は誰もいないようだ。やはり家族総出で魔界の首都に選挙に行ってるのか?

目の前の城の内装は非常に洗練されていて、中央市でもなかなか見られないほどのこだわりようだ。

まさか…俺、大儲け!?

いやいや、これは天の道を代行しているんだ。国民の鬱憤を晴らすため、貪欲で卑劣な魔界貴族に制裁の鉄槌を下すだけだぜ。ハハ、俺は正義の味方さ。


考えてみれば笑える話だ。今の俺は、一体何をやってるんだ?

俺は、かつて勇者になることを目指していた男だったんだぜ。

アハハ。

まったく、思い出したくもねえ過去だ。

とにかく、ポケットに残った最後の食料と水で体力を回復し、その勢いでバッグを財宝でいっぱいにして脱出するぞ!

……

ってかよ…

財宝は一体どこなんだ?

財宝は見当たらなかったが、幸いなことに、さっき通りかかった厨房にあったケーキはなかなかうまかった。牛乳も高級品だ。体力を一気に回復し、補給も確保できたのは良かった。

前に、とても重々しい感じの扉がある。たぶん宝物庫だろう。

!!!これは!!!

扉に近づくほど、脳内の危機感知神経がズキズキと疼く。

豊かな魔力が扉の向こう側から溢れ出している。

間違いない! 絶対に、とんでもない大物がいる!

これは俺が数々の死線をくぐり抜け、洞窟探検や遺跡のゾンビからも生き延びてきた最大の理由だ。


見切りをつける。

だが、ここまで苦労して辿り着いたんだ。どうしても見たい、扉の向こうに何があるのかを!

好奇心は猫を殺すかもしれない!

だが!

ここで逃げて引き返したら、一生後悔するだろう。あの時の選択でどうなっていたか、無数の可能性に思いを馳せずにはいられなくなるだろう!

だからこそ、ここは決断する!


扉を開ける


引き返す --- 引き返せるかよ、そんなの!


-------- 扉を開ける


扉がきしむ音と共に、中の光景が一望のもとに広がる。

とても華麗な議場だ。そして、広間の中央にある玉座の前に、一人の人影が立っているようだ。

む。女みたいだな。

………………

…………

……

……

その女も俺の出現に気づき、驚いた様子を見せた。

だが間違いなく…

俺は先に見つかってしまった!!!

ってかその服…

ベストセラー『魔界百科事典』に載ってる「魔王礼装」じゃねえか!?

な…なんで魔王がここにいるんだ!?

まさか、俺たちの遠征隊がぐずぐずしてる間に、魔界の選挙は終わっちまったのか!?

い…いやだ…まさか俺はもう…死定了め!?

やだ!家に帰りたい!

ママ!

………………

…………

……..

思い返せば、これが俺が魔界遠征に加わったことの発端だったんだな…

今日まで生きてこれて、本当に幸せなことだ。


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