3
ANNNAのファンになって4年。
ようやく手に入れたチケット。それは、ラストライブのチケットだった。
会場に足を踏み入れた瞬間、私は思わず息を呑んだ。
アリーナ席、A10。
自分の席がその番号を確認したとき、信じられない気持ちでいっぱいだった。
こんなにも近くで、ANNNAの姿を見られるなんて。
私は人混みを分けながら、チケットに記載された席へと向かった。
周りの人々の歓声や興奮が少しずつ私の心を高ぶらせる。
ライブ会場特有の少し熱い熱気と湿度に包まれながら、自分の席にたどり着くと、思わず目を見開いた。
「え、ここ?」
そこはなんと、最前列の一番真ん中。
まるで運命が微笑んでくれたかのような席だった。
心臓がドキドキと高鳴り、手のひらに汗が滲んでいく。
少し背を伸ばしてステージを見渡すと、ステージ床に小さなシールが貼られているのが目に入った。
あのシール、確か、ANNNAのライブメイキング映像で見たことがある。
自分の立ち位置を示すための目印だったはず。
そこでANNNAがステージ上で踊ったり歌ったりする姿を思い浮かべると、まるで自分がその一部になったかのような気分になる。
「すごい、こんなことってあるんだ……」
私は独り言を言いながらバッグからペンライトを取り出し、電池の状態を確認する。
昨夜、電池を新しいものに変えたばかりだから、しっかりと光ってくれるはずだ。
赤、青、黄色、緑、ピンク。それぞれの色が点灯するのを見て、胸の中に嬉しさが込み上げてきた。
これまでANNNAを応援してきた気持ちが溢れそうだった。
正直、もっと早くから応援していればよかったと、少しだけ後悔している。
小学生の頃から彼女の名前や曲は耳にしていたけれど、その頃は他のことに夢中で、“ただの歌手”それくらいの感情しか持っていなかった。
ANNNAの魅力に気づいたのは中学3年生の時だった。
私が面白そうだなと思っていたドラマがあった。
彼女がそのドラマのエンディング曲を担当することを知ったとき、正直それほど大きな感動はなかった。
でも、ドラマの最終回で流れたその曲を聴いた瞬間、何かが変わった。
それがきっかけで、私は彼女の音楽に心を奪われ、ファンとしての一歩を踏み出した。
「なんでこんなに心に響くんだろう?」
その曲を聴いたとき、私は今まで感じたことのない感情を抱えていた。
心が震え、涙がこぼれそうになった。
それからというもの、ANNNAの音楽に魅了され、彼女のことをもっと知りたいと思った。
アルバムを買い、シングルを集め、ライブ映像を見て、彼女の成長を追い続けた。
お年玉やお小遣いを使って、ANNNAグッズを手に入れたときの喜びは今でも鮮明に覚えている。
増えていくANNNAのグッズ。それらの支えがあって、私は一歩一歩、ANNNAを応援する力を強めていった。
高校1年生の夏、私はようやくANNNAのファンクラブに加入した。
ファンクラブの名前は『ANNNAの酸素』
ラジオでANNNAがファンの名前を『酸素』と決めたとき、その発想に思わず笑ってしまった。
彼女によると、『酸素は生きるために欠かせない存在』という意味を込めていたという。
ANNNAらしいユニークな考え方に心を奪われ、ファンクラブに加入することを決めた。
今思えば、ドラマのエンディング曲がきっかけで、ここまでファンになるって今思えば私がチョロすぎたのかもしれない。
でも、あのときあの曲で感動しなかったら、きっと私は変わらない日々を過ごしていたに違いない。
そして、今日。
ついに私はANNNAのライブに参加できる。
周りには、私よりもずっと長い間応援してきたファンもいるだろう。
でも、この瞬間、私は自分が一番幸せだと感じてたい。
私たち酸素は、彼女の最後のライブを見届けるためにここに集まった。
ライブが始まる前、会場は期待に満ちた興奮でざわついていた。
近くでは、何人かのファンが泣いているのが見えた。
私も心の中で何度も言い聞かせた。
「絶対に、この瞬間を逃したくない。」
その時、突然、照明が一斉に落ち、会場は真っ暗になった。
何万人ものファンの歓声が一斉に上がる。
暗闇の中から、じわじわとステージにライトが灯り始め、オープニング映像がスクリーンに映し出された。
ANNNAのデビュー当時の映像から、現在の姿までが流れる。
懐かしいシーンや笑顔、涙の瞬間。オルゴールの音楽が流れる中、私の目に涙が滲む。
そして、ついにステージにANNNAが姿を現した。
目の前に現れたその美しいシルエットに、私は言葉を失った。
これまで画面越しで見ていた彼女が、目の前にいる。信じられないような気持ちで胸がいっぱいになり、涙が溢れそうになった。
「最後のステージ、皆と一緒に作る最高のライブにしよう!」
彼女の言葉が会場に響き渡る。
その瞬間、私の胸が高鳴り、鼓動が速くなるのを感じた。
ついに、この瞬間が来たんだ。
そして、彼女がマイクを持ち、最初の曲が始まると、私は自然にその歌詞を口ずさみながら、ペンライトを握りしめた。
ANNNAの歌声が、心の中で響き渡るたびに、胸の奥が温かくなり、感動が込み上げてきた。
初めてANNNAの歌を目の前で聴くという、この瞬間。
この空間。この場所でANNNAと一緒にいるという実感が、私を幸せにしてくれた。
ライブが進んでいく中で、ANNNAは少し感慨深げに語り始めた。
「今日、みんなと一緒に過ごせることが本当に嬉しい……。みんなの応援があったから、私はここに立てた。本当にありがとう!」
その言葉に胸が熱くなり、私は思わず涙をこらえきれなくなった。
彼女がどれだけの努力を重ね、どれだけ多くの人々に支えられてきたかを思うと、涙が溢れそうになった。
そして、ライブの中であの曲が始まった。
それは、私がANNNAを知ったきっかけとなったドラマのエンディング曲。
あの時、私の心を掴んだ歌。今、その歌声がライブで響き渡る。その瞬間、涙が頬を伝って流れた。
「これが、私が応援してきたANNNAの歌だ」
その言葉を胸に、私は無意識にペンライトを振りながら歌を口ずさんでいた。
周囲のファンたちも、同じようにペンライトを振りながら、歌を楽しんでいる。
まるで全員がひとつになったかのような、温かい空間。
ライブの終わりが近づき、観客は立ち上がって拍手を送る。その拍手に包まれながら、ANNNAは最後に一言。
「ありがとう、ありがとう。みんな、最後まで私を支えてくれて、本当にありがとう……。これからの私も、応援してくれると嬉しいです」
その言葉が、私の心に深く刻まれた。
「ありがとう」という言葉だけでは足りないくらい、彼女には感謝してもしきれない。だけど、私も心から応援し続けたいと、強く思った。
「……そんなの、当たり前だよ」
これから先、もうこうしてANNNAの歌を目の前で聞くことはない。
だって今日が、私にとって最初で最後だから。
でも、これからも私はANNNAの曲を聴き続けて、人生を歩んでいくんだ。
ANNNAの人生が、明るい色に包まれるように、幸せであるように、私はただ応援しているよ。
____
ライブが終わった後、会場を出る道で私は考えていた。
このライブが、私にとって何か大きな転機になったような気がしてならなかった。
「これからも、私はANNNAを応援し続ける」
そう心に誓った瞬間、私は自分の未来に対して強い決意を持つようになった。
彼女のように、誰かの心を動かすようなことを、自分も成し遂げたい。これからの人生で、何かを達成したい。
そんな思いを胸に、私は帰路についた。