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8話 "はじめての友達" 其の弐

 




 突然だが、午前中に華扇の言っていた事を四は再度思い出す。




 八雲 紫のおかげか何やらで、今の四は幻想郷での話題の中心に居る。



 ……そんな彼をぜひ見てみたい、交流してみたいという人外が多々いる……と





 なるほど、彼女はそのうちの1人だったのだろう。まさか神が、突如開催された市場を適当に歩いていたら見掛けるなんて



 流石幻想郷と言ったところか



「〜〜♪ 〜〜♪」



 距離感は置いておいて



 四の手を離さんとばかりに握りしめ、先程まで沈んでいた気分をマッハで回復した千亦はルンルンと市場を回っていた。




 彼女自身、信仰の不足によって幻想入りした経緯がある故にそれをネックとしていた節があった。



 ……その上、彼女にはハッキリとした『良好な関係』というものが居ない。




 正確には『いた』が、"とある一件"によってその関係は破綻してしまった。


 ………つまり、彼女には……





 友達、そう呼べるものがいなかった。




 ◆◆◆



 こいつは一体どうなってんだ。

 まーさか神様に気に入られるとは思わなんだ。


 これも紫のせい?そういうことで良いんだよな?



「千亦様。少々ペースが早くないですかい?」


 俺を強引に先導する、市場の神様こと千亦様。

 俺がさっき機嫌を取ろうとかなーり下手に潜って挨拶をしてやったところ、見事に復活。

 


 つーかそれどころか俺のことを一瞬で気に入った様子だった



「もう、四ったら〜♪」

「……?」

「私のことは、千亦って呼んでよ!」



 名前で呼ぶ(敬は付けずに)ことをさっきから催促されるのだ。


(初対面だし、馴れ馴れしいとは思わねぇのかな)


「あんた神様なんでしょ? 人間に呼び捨てなんて嫌な気分にならないのかしらねぇ


 ね?四さん」


「なっ、そ、そんなこと思ってないわよ!ふんっ。貴女みたいな"賊"には、四みたいな『ちゃんとしたえらーいお客様』の気持ちは分からないわよ!」


 かなりギスギスしてきた。……昨日も、こんな感じだったような


 人のためになる事をするのは嫌いじゃないが、軽率なことになる事があるんならちょっとだけ避けようかな、これから……



「私はちゃんと霊夢って呼び捨てされてるもん!」


「なによ!今に見ておく事ね!」



 慧音さん……どうにかしてくれぇ



「どう、四。綺麗でしょー!」


「なんか…………いいもんだな、こういうの。市場っての中々見て来なかったもんで、新鮮で……」

「でしょでしょー? あそこから向こうまでぜーんぶ私がプレゼンテーションしたの!」

「すげぇなそりゃ。さっすが神様…」


 幻想郷には多数の神が存在しているが、紫言わく「あまり畏れなくても良い存在」とのこと。


 畏まらなくても良い、ということになるがやはり神様は神様。

 人知を超えてるってのは目に見えて分かるもんだ。



「見て見て。おっきいお魚」


 こっちは魚が並んでる。様々な種類の川魚がずらり。

 ……海の魚もいるな、ちょっとだけ。しかも値段がアホみたいに高い。

 こりゃ手をつけねぇ方が良いかもな

 


「幻想郷には海が無いけど、実は外の世界の海産物も入ってくるのよ」

「へぇー。人間は中々来れねぇけど、魚たちは手軽に幻想入り出来るのかね」

「そのせいか、結構最近になって『寿司屋』さんが出来たのよ。


 ……でも、お高くて普通の人じゃ中々食べれないけどね」


 寿司なら俺握れる………っていうか、食ったことあるから『味覚』の権能で再現出来るぞ


 ……なーんて言ったら速攻で食いつきそうだ。文面的にもそのままの意味でも





「…………お、立派なタケノコ!」


 屈んで、並ばれてる野菜を見眺める。

 今が旬の美味しそうなタケノコ。しかもこんなに大きい。取れなくなるギリギリに収穫したのだろう。

 


「店主、これ幾らですかい」

「これくらいかな。結構立派なもんだから、値段もするんだよ」

「……うし、買いだ」

「まいど! ありがとな四さん!」



 今日の晩御飯にピッタリだ。さすが市場。良いものがすーぐ見つかる。


「霊夢、良かったら食ってけよ。こんだけデカけりゃ色々作れそうだ」

「良いの? ……うん、行く…!」



「………………」じぃー




「千亦さ………ち、千亦も食べに来る?」

「行く!」





 ◆◆◆




「ひろーい!それになんだか落ち着くわ〜」



 まさか、自宅に神様を招く機会が来るなんて思いもしなかった。


 流石幻想郷。神々が恋した郷なだけある。……というか歩いてたら神様に会えるなど普通は有り得ない事だ。



「おっきい鍋!」

「外の世界のものさ。これなら、この大きさのタケノコも入るだろ」


「それで、今日は何を作るの?」

「天ぷらと筍ご飯にするかね」

「やったー!」


 子供のようにはしゃぐ神様。


 居間に適当に広げていた外の世界の雑誌を開いて暇をつぶしている千亦は、四の家をまるで我が家のように広々と寛いでいる様子だった。



 一方霊夢は割烹着を着て、四の隣で調理を手伝っている。

 厨房に四が立つと、彼女は最高速で自身の住処である博麗神社にすっ飛んで行き、態々割烹着を持って来たのだ。



 後から紫に聞いたが、霊夢は「面倒」と言っておきながら身の回りの事は基本的になんでもできるようで


 独りで暮らすに辺り炊事洗濯、境内や本殿の清掃もしっかりしているとのこと。




 ……それが自分の神社では、という前提条件があることは未だ四は知らない話。



 つまり霊夢は他人の家では家事などの面倒ごとは一切やらない。






 一切、やらないのだ。




「手伝ってもらって悪いなぁ。霊夢もゆっくりしてて良かったのに」

「う、ううん。せっかく招待されたんだもの、せめてできる手伝いはしたいの。」

「霊夢はしっかりしてるね。偉い子偉い子」

「…………」





 霊夢は、嘘を付いた。









「なぁ、霊夢。その……なんだ?」

「四さんが言わんとしている事が、なんだかわかる気がするわ」




「「ハリキリ過ぎて沢山作り過ぎた……」」




 ◆◆◆



「あ、ちょっと華扇!天ぷら取りすぎ。また太もも太くなるわよ?」

「四さんが『それは良いことだ』って言ってたもの」

「………だとしても食べすぎでしょーが」



「四くん。わざわざ呼んでくれてありがとう。」

「ちょうどお腹が空いてたんだよ。助かるぜ」

「あぁ、遠慮なく食ってくれ。おかわりなら沢山あるから」


 

 料理を作りすぎたのなら、親しい人を呼べばよかろう



 霊夢は魔理沙を、四は華扇と慧音を夕食に誘った。

 そして千亦を含めた6人で、大量のタケノコ料理を囲んで味わっていた。



「紫は誘わなくてよ良かったの?」

「確か友達と宴会なんだってさ。だから声掛けなかった」

「…後で号泣して来たらどうしましょ」

「藍さんに何とかしてもらうわな」


 紫が別の予定なら仕方がないだろう

 だからと言って「なんで誘わなかったのよぉおおおおおお!!」と泣き付いてきても言い訳ができるのだ。


「千亦さ……」

「ん」

「……千亦。ほら、注いでやるよ」

「ありがと〜♪」


 先程まで四が作った鶏の唐揚げをむしゃむしゃと食べていた千亦に、四は酒を注ぐ。


 神様だもの、敬わないといけないだろう。

 彼女は市場の神様ということは、商売の神様ということでもある。



 ……そう、ご利益が絶対あるだろうから。


 四は何としても千亦をよいしょしなければならない



「「「…………」」」


(コイツらおもしろ〜……)


 羨ましそうに2人を見る霊夢と慧音と華扇。……を、白い目で見る魔理沙。



「んへへぇ〜、美味しい〜♡」

「御神酒じゃなくて申し訳ないね」

「いいのよ。おつまみが美味しければそれで」

「ははは、神様がそう言うならそうなんだな」




「霊夢霊夢」

「…なに魔理沙」

「ベロベロに酔ってここに泊まってけば良いじゃん」

「……四さんに迷惑かかるでしょ」

「……ほぉ〜ん」












「ご馳走さん!んじゃ私は帰るぜ」

「今日はありがとう。とても美味しかったよ。」

「また、お夕飯に誘って下さいね」




「……また、ね。四さん」








「充実した晩飯だったな」

「そうねぇ。あー、久しぶりにお腹いっぱい食べたわ〜」




 少女たちが帰路につき、後は就寝までゆっくりする時間となった。


 喧騒が無い幻想郷の夜は静かで、虫や動物の心地よい鳴き声しか聞こえない。




「………四。今日は楽しかったわ。……初めて会ったのに不思議。私貴方のこと気に入ったわ!」


「神様に気に入られるとは嬉しいもんだな。」



 もう暗くなり、肌寒くなった外に出る。

 彼女も帰る時間だ。



「また来いよ。今度は『お客さん』として」


「え?それって……あぁ、そういうことね!」




 すると千亦は腰に着けていた黄色い布袋から、彼女と同じ……虹の配色をした御守りを四に手渡す。



「いいのか? うわぁ、下手したらこれって、間違いなく神器レベルの代物なんじゃあ…」


「いいのいいの。神様からの贈り物………って思わない方が気楽かしらね。



『商売繁盛』『来客千万』の御守り!」



 可愛らしいニッコリとした少女のような笑みを浮かべると、御守りを貰った四の手に自分の両手を重ねた。





「それにね、貴方にはこれくらいお易い御用よ。







 ……だって、友達だもの!」






「……でも、はじめましての挨拶は下から入っちまったけどね」


「貴方なりに私を気遣ってくれたんでしょう?それくらい知ってますっ。



 でもね………久しぶりの感覚で、ちょっと嬉しかった……いえ、とっっっっても嬉しかったのはホントよ!」







 幻想入り。それは外の世界からの『断絶』と『忘却』。


 信仰の低下により忘れ去られた神である千亦にとって、幻想郷は正に理想の住処であった。




 今日の晩酌で、酔った彼女自身が言っていた「信仰が無くても飯が食える!」はあながち間違いでは無いのかもしれない。






 ……いや、ホントにそうかは分からないけども










「それじゃあまたね!……四♪」


 


「……あぁ。またな、千亦。」






 幻想郷生活3日目。






 はじめての『友達』が出来た。






 千亦にとっても、……四にとっても。






「さぁてと、片付けて寝ますか〜……」




















「こんばんゆかりん♡」


「………………え」


 油断していた。幻想郷の神隠しの原因たるスキマ妖怪にとって、想い人の話など筒抜けに等しい。


 四は困惑していた。え?宴会って夜通しやるもんじゃねぇの?



 振り向いて、玄関の戸を開けるとそこには満面の笑みの紫が立っていた。



 満面の笑み、曇りのない晴れやかな




 ()()()()()()()()()()()()()



「こんばんゆかりん…」


「ねぇ、ひどいと思うの。確かに私には友人と呼べる存在は少ないのは自覚しているわ。



 でもね、四のことは『友達』で『大切な人』で『ダーリン』だと思ってるの〜」



 兼任し過ぎではなかろうか

 未だに大量の圧を放つ紫に苦笑いしか出てこない四。



「宴会も楽しかったわぁ。でもゆゆ……私の"数少ない友達"がそれはそれは大食いでねぇ。

 宴会料理が早く無くなってすぐ解散になったのよぉ



 

 そしてねぇ、四のところで自棄酒しようと思ったんだけど…………





 お友達いっぱい♡ 良かったわねぇ〜♡」








 その後のことは、あまり良く覚えていなかった



 ただ、夜が開けるまで幻想郷の賢者による強制自棄酒に付き合わされたのは確かだ。




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