4話 人里散歩 其の弐
「よう、来てやったぜ」
白黒魔法少女、襲来
「あれ、魔理沙」
「おおやっぱ広いなここ。人里になきゃ私の家にしてたんだがな〜」
魔理沙は箒から降りて、雑貨屋を営んでいたであろうスペースにズケズケと入り込み、ぐるぐると見回す。
「なんかやるのか?」
薄々勘づいていたのだろう。彼女は。
丁寧に掃除されたものを置く棚。これは紫が外から仕入れたものだ。
商品を、置く用の
「…………当たり」
魔理沙の素直な質問に、四はYESで答える。
「じゃなきゃ、こんなに整備しねぇさ」
「それもそうかぁ」
「魔理沙的には何が置いてほしいんだ?」
「私的には……魔道具!あとお弁当!」
……お弁当、は何とかなるが、魔道具はねぇ……
「お弁当か……いいかもな、惣菜置き場も」
「腹が減っては戦ができぬ、だろー?」
「そうさな。
……ほれ、実験。」
ということで、『触覚』を使用する。外の世界で買って食べた、スーパーの唐揚げ弁当だ。
もちろん『視覚』で見た目を再現。『嗅覚』で匂いも完璧
……そして極めつけは"味"。『味覚』であの美味しさもそのまんまだ。
「こ、これは……!」
「はい、お弁当」
「いいのか!? うわ、温かい!! 美味そー!!」
大好評だった。渡した瞬間からその温かさと美味しそうな匂いに魔理沙はピョコピョコ飛び跳ねて感動を体現していた。
「こんなのまで創れんのか!?」
「あぁ。目で見て、聞いて嗅いで、触って食べて……その形や記憶が再現できるのなら俺は『再現』できる」
「じゃあ、お弁当屋さんできるぜ!」
いちいち可愛い表現するな、この子
天津無垢っていいじゃないか、四はそう思った。
「あとで慧音さんに許可取るつもりさ。今日はまだまだ人里周りたいつもりだし」
「いいんじゃないか? 人里はまだまだ面白いヤツらが居るから、いい機会だと思うぜ。
そんじゃ、私は『香霖堂』に行くとするかな。じゃあな!」
弁当を持って、魔理沙はすっ飛んでいった。
うおー速いな、魔法使いっぽくて良いじゃん
「さて、俺も行きますかぁ」
昨日は色々とやる事が起こったからマジマジと見れなかった。
ゆっくりと見て回ろう。
私服から、外出用の着物へと着替える。
◆◆◆
「(お、みーんなマスクしてら)」
つい昨日、慧音と共に配った使い捨てのマスク。流行病が蔓延しているとの事なので各家庭に1箱ずつ"創って"やった。
多少は息苦しいとは思うが、これ以上流行らせ無いために必要不可欠なエチケットだ。
昨日のおかげで、道すがら会う人たちに「昨日はどうも」なんて言われる様になった
予測出来なかった、大き過ぎる『信頼』を得れた。何もかもが上手くいっている。
……漸く平穏で尚且つ楽しく過ごす事のできる世界に居れる。
「あれ、慧音さん」
「……! 四くん。き、昨日ぶりだな…!」
またしても見回り中であろう、マスクを着用した慧音と再開した。
彼女は四を視認した途端、嬉しそうな表情を浮かべ小走りで近寄って来た。
「えぇと、その…昨日は…ありがとう」
「はは、言われ慣れたさ。里に無理やり住まわせてくれる"お礼"ってヤツだよ。
今日は、ちゃーんと賑わってるみてぇだな」
「この"ますく"のお陰だ。何でも感染症の対策以外にも、掃除の際に飛沫する埃も防いでくれると好評だよ。」
まぁ、向こうでもそういう使い方しますしね
「きょ、今日もまた散歩かな?」
「あぁ。今日はあっちまでいこうかなと」
四が指を差したのは、方角で言うと北西……妖怪の山の方面だ。
それを聞いて、慧音は少しだけ心配の念を浮かべる。
「人里内、をだな?」
「んーまぁそうかも」
「……一応言っておくが、山には入ってはいけないよ。
そこから先は私では守ってやることは出来ない……からな」
……山。あのデッケェ山のこと言ってんのか
四は勿論、それが『妖怪の山』なんて言われている、幻想郷でも屈指の危ないスポットと豪語されている場所だとは知らなかった。
(もし危なかったら、紫にLINEしとこう。さてポケットWiFiは…っと)
山にはできるだけ近付かないが、万が一という場合がある。
一応万全の対策はしておこう。
「忠告どうもありがとう。じゃあな、慧音さん」
「あ、あぁ…またな……(もう少し一緒に居たかったな……なんて……)」
少しだけ気分が沈んでしまった慧音は、歩いていく四の背中をヒラヒラと手を振って見送った。
なぜ、四との別れによって慧音の気分が沈んだのかを、慧音自身が理解するのは……遠い話である。
「へぇ……こっちまで屋台やってんのな〜」
春の心地好い風が吹き抜けていく人里。山が近いからか、吹き抜ける風も良く感じれる通りだ。
それに近未来的な技術が行き届いていない幻想郷は、元の世界よりも空気が美味しい。
よし、ここいらで少し休憩でもしますかね
四はよっこいしょと近くにあった茶屋に座ってぼんやり眺める事にした。
「お団子5つ下さいな」
……と、奇抜な格好の女の子が団子屋で美味しそうなみたらし団子を買い食いしてる。
ピンク色の髪に……丈の短い攻めたミニスカ。
明らかに目立つその出で立ちに、四は集中していた。
因みに言うと、彼の『視覚』で"見えた"情報は全て正確だ。……なるほど、そういう事か
「……あら」
「……おろ」
目が合った。……なんだ、こりゃまたかなりの美少女だこと
「ここの辺りでは見掛けませんね。……あ、もしや貴方が…」
「あら、俺の事知ってんのかい?」
「霊夢……博麗神社の巫女が呟いていましたよ。何でも『八雲 紫のお気に入り』と。
貴方がその外来人、ですね」
「あぁー、霊夢の知り合いだったわけか」
「知り合い……というか、お互いお世話をして、お世話になった身……でしょうかね」
「いろいろと複雑っぽい話になりそうだ」
「うふふ、長話が嫌ならしませんよ。……お隣、失礼しますね」
かなり攻めた格好の美少女が、四の隣に座りモグモグと買った団子を食べていた。
……いい匂いする。桃の匂いか……?
「慧音さんからも聞きましたよ。何でも昨日は里で活躍なさったそうで」
「まぁ、困ってんなら無償で助けるさ。見捨てる義理は今んとこ無いからね」
「良い心掛けです。……霊夢も代償を求めなければ完璧なのにねぇ……」
頬に手を当てて溜息を漏らす。
「…あ、申し遅れました。私は華扇、茨木 華扇と言います。……一応、仙人をしており修行の身であります」
「あぁ、仙人さんだったのか。俺は四。宜しくな、華扇さん」
「四さんは外の世界から来られた……人間、ですよね
ふむ…不思議です。来て恐らく1週間は経っていないのにも関わらず……」
むむむ、と口元に手を添えて何やら深く考える込んでいる様子
「……は、失礼しました。すいません、気になることが目前にあれば良く考え事をしてしまうんです」
「あー、すまねぇな。なんか悩ませちまった」
「う、その、本当に申し訳ありません。気分を害してしまったのでしたら……」
「いや、何とも思ってないさ。何分悩ませるほど面倒な体質してるもんでね
……まぁ、それのせいで元の世界にゃ馴染めなかった訳だから」
「……貴方も、大変な苦労を強いられていたのですね」
お互いに、慰めモードに入ってしまった。
「仙人さんも大変だろうに。かなーり厳しい修行とかが山ほどあんだろーな」
「勿論ですとも。……過去のこともあり、未だ邪念が抜けず…まだまだ未熟な身。精進あるのみです」
感慨深い、といった風に目を閉じて溜息を1つ。
……そうか、人に寄り添って生きる為に色々と工夫して日々を送ってるんだな。彼女は
「でも、意外と大食いなんだなぁ」
「うぐ、甘いものは…その……好きなので…」
堅物キャラだと思ったけど可愛いとこあるじゃん、人は見かけには寄らな……いや、見た目は関係あるか
華扇は羞恥により赤くなった顔のまま、買った団子を結構なペースで食べ始める。
「もぐもぐ」
「甘いもの好きは仕方ねぇかあ」
「こ、これでも一応気にはしているんですよ。
……ほ、本当にしてるんですよっ」
だから自分のことを『甘いの大好き大食いキャラ』だと認定しないで下さいね、……とでも言いたげな念押しだった。
「……あ、貴方は何かご予定が?」
咳払いをして気を改めた華扇が質問をしてくる。
ハッキリ言って特に目的は無い。"散歩"なので
「いや、里の何処にどれがあんのかってのを見て回ってるところで。
まぁ、散歩だよ。危ねぇ所には近付かないようにしてるさ」
そうでしたか、と随分と簡単に納得してくれたようだった。
「ここから先……妖怪の山には近付かないように。……一応、己の修行にあたり私は自分の屋敷を構えていますが、人里の人間が謝って山に入らないようにこうして見回りをしているのです」
「慧音さんからも忠告されたな。……そんなにヤベェとこなのか?山ってのは」
「……非常に縄張り意識の高い妖怪たちの巣窟です。下手をすると、"二度と帰れない神隠し"に逢いますよ」
「えぇ、神隠しにあってこっちに来たのに更に神隠しにされんのかよ。そら御免だね」
「それが正しいです。……はぁ、山の上に神社があるのですが、そこ目的であれば道案内されるのにねぇ」
頭を悩ます存在……山に住む妖怪と言えば『天狗』か?
触らぬなんちゃらに祟りなし、か
「まあ、引率の人いなきゃ行かないようにするよ。それより華扇さん」
「はい、どうしましたか?」
「他に里には何があるんだ?
ちょっと案内してくれねぇか」
華扇→四
(不思議な人だ……なんか、『霊夢』みたい。
口に出すのは止めておいた方がいいか)
四→華扇
(……なんで、『鬼』が仙人やってんだろ
多分…迂闊に喋れねぇ内容だな、こりゃ)