3話 人里散歩 其の壱
「……ふあ」
四 起床
元々早起きな生活を続けてきたせいか目覚ましをかけずとも6時前には起床する体質である。そのお陰か朝は怠いといった苦難もあるのだ。
早起きは三文の徳とは言ったものだが、別にそれを徳だと思わなければただの修行である。
……今更慣れきったものだ。
二度寝は体に悪い、ということで洗面台へと足を運んだ。
紫のスキマによる電力開通。現代兵器を幻想郷に持ってきてみた、を実際にやってしまったらここまで便利になってしまうとは
蛇口を捻れば綺麗な水が出る。温度だって変えれる。……ふふ、と自分でも気持ち悪いと思った程の優越感溢れんといった笑みが漏れた。
バシャッと顔を洗い、シャコシャコと歯を磨く。
前居た世界では、つまらない学校なるものがあったせいかヒドイ顔をしていただろう。しかしもうそんな事は無くなった。
彼を気持ち悪いと言って罵り、差別する奴らも居ない。鏡に映る自分の顔が、幾分かマシになっている様に見えた。
今日の朝食は、昨日四が紫に振る舞ってやったキノコの和風パスタ。もちろん冷蔵庫にも電気が通っているためしっかり機能していた。
電子レンジに入れて温めてから頂く。
………今日は何をしよう。幻想郷に関しては紫か昨日知り合った霊夢達を頼らねばならない。
大人しく家に籠っていろいろと準備をすすめようか
……その前に近隣住民たちとも挨拶をしなければならない。面倒事が山積みだ。
「異界の地での一人暮らしって大変なんだなぁ〜……」
彼のちょっぴり悲痛な独り言は、誰も聞いてはいなかった。
◆◆◆
家を出ると、早速現地人が掃き掃除をしていて所だった。
お互い認知し合い、四はその人に頭を下げてから接近する。
「アンタがこの家に住むって人?」
「あぁ、どうも。すいません急に挨拶も無く。あ、これ良かったらどうぞ」
「ええ、いいのか? いやすまないな、外来人って事で少しばかり警戒してたんだよ。何しろ変なこと仕出かす連中ばっかだったからさ」
外のお菓子だけど大丈夫……か。毒は無いし美味しく食える。挨拶の品だけを渡し交流を図ることにした。
「そこの家、随分広いだろ?」
「えぇまあそうですね。元住んでた人は何か自営業でもやってたんでしょうか」
「確か……雑貨屋だったような。
でも、数ヶ月前に夜逃げしちまってね。それからそこは空き家なのさ」
経営不振とかで夜逃げしたのだろうか?
……まぁ、気にすることでもないか。数ヶ月も帰ってこないなら、多分死んだか別のとこで生活してるかのどっちかだろう
「あ、自分は四って言います。以後お見知りおきを」
「丁寧なヤツだな。俺は……ってんだ。お隣同士仲良くな」
……よし、お隣さんには特に怪しまれず仲良くなれた。ちょぴっとだけ安泰かな、こりゃ
「今から出かけんのかい?」
「ちょっと人里を見て回ろうかと」
「あぁー……なら、このまま真っ直ぐ行けば大通りだから。
迷ったら慧音さん辺りに聞けば良いさ。」
「そうさせてもらいます。……では」
道行く人々に声を掛けて挨拶を交わし、少しづつ交流しながら人里を周る
凄い、俺を気味悪がる人が一人もいない。なんて歩きやすいんだ。
「(開けた場所に出たぞ)」
道なりに進んでいくと、おそらく人里の中心部に出たのだろう。
色々な店が存在していた。八百屋さんに画材屋さん。あれは恐らくお食事処だろう
……だが、あまり賑わってはいない。人があまり居ないのだ。
「……四くん!」
声を掛けられる。振り向くと、そこには彼がつい昨日お世話になった人物が小走りで近付いてきた。
「慧音さん。おはよう」
「お早う。……着物姿、似合っているよ」
これは四が紫から貰った、人里で暮らしていく用の着物だ。
黒ベースの着物に羽織り。そして馬乗り袴に革ブーツ。アニメのキャラみたいにお洒落な格好に見えて気に入っている。
「……でも、手間かかるもんでね。外出用にするよ」
「あぁ、それが良いだろう。やはり男性は着物が良く映えるな。」
「ありがとう。……慧音さん、今日はお休み?」
確か彼女は、寺子屋の教師を務めている。…と慧音本人が言っていたのを思い出す。
しかし今日はこうして見回りをしている最中に四と合流したところを見るに……
「最近は、里の子供たちも元気がなくてな……
『流行病』に倒れている者も多いんだ。」
「"覇気がない"ってそういう……」
昨日彼女が言っていた、四が住む予定の空屋敷を解体する人材が今はいない……という話に繋がってきた。
なるほど、流行病。それは確かに人があまり出歩いていないのにも納得がいった。
「さすがに病床中の子に無理やり指導をする訳にはいかない。だから暫くの間は寺子屋を閉めているんだ」
「成程な……しかしビョーキか。怖ぇもんだ」
「君も充分気をつけたまえ。いくら紫が贔屓している外来人とは言えど人間だろう」
「そうだな。……はぁ、じゃあマスクでもしとくか」
四は自身の能力を解放し、『使い捨てマスク』を生成した。
慧音が大きく反応する。
「……それは、なんだ?」
「あん? これは『マスク』ってのさ。こうやって耳にかけて付けると……
ほら、鼻と口が手で抑えなくても塞がるだろ?」
「……ちょっと、私にもくれないだろうか」
慧音が興味を大きく示す。……なるほど、そういう事か
彼女の性格から、おそらくこうするだろうと思った四は、『触覚』の力で使い捨てマスクを創り出す。
「………!?」
「これが俺の能力さ。はい、これ慧音さんの分」
「あ、ありがとう。……少し、ほんの少しだけ息苦しいが支障ないくらいだ。声が籠るが、日常的に付けていられる……」
四の真似をしてマスクを装着し、その効果に関心していた。
そして慧音は改まって、四に頼み込んだ。
「お願いだ、これを沢山作って欲しい。これ以上流行病の蔓延を防ぎたいんだ」
「お易い御用。慧音さんならそうするなって思ってたさ。……ほら、いっぱい創るぜ」
『触覚』で触った感覚を、『視覚』で目で見た情報を、『嗅覚』でより本物に近い感覚を……
四は『60枚入 使い捨てマスク』を創り出した。
「善は急げ、だ。コイツを各家庭に1箱ずつ配ろう」
「……! ありがとう、感謝する!」
「そうと決まれば行動するぞ。俺も手伝うから、一緒に行こう」
「………っ!///」ドキッ…
「紫様。彼が例の四殿ですか?」
「…………」
「……紫様?」
「恋敵が……増えた気がする…」
「……は、はぁ…?」
◆◆◆
「……よし、これで満遍なく配れただろ。慧音さんの顔が広くて予定より早く終われたな。」
「…………」ジーッ
慧音は、隣に並んで歩く四の横顔をこっそりと眺めていた。
彼とは身長差があるので、見上げる形でだが
……紫が連れてきた、外来人。少しだけ警戒はしていたが、優しい人だったじゃないか
里の人たちの為に能力を駆使して、更に一緒になって活動してくれた……
……背、大きいな。それに、顔も整っている……。笑顔が若干妖しいけど、それも何か"良い"な。
そして性格は悪くは無いだろうし。子供にも老人にも優しかった……ふ、ふむ……
………♡
「……それに、俺だけじゃ怪しまれて時間かかっただろうし、持つべきものは理解者だな。ありがとう、慧音さん」
「……っ/// あ、あぁ。確かに外の世界のモノとなると受け入れ難いとは思えるだろう。
しかし、あれほど『便利』な物が造られているとは……外の世界に、少しだけ興味が湧いたよ」
「………俺さ、やっぱりここに来て良かったって思ったよ」
「……そう、なのか?」
「あぁ。……『ありがとう!』って笑顔で言われたの、あんまり慣れてなかったからさ
悪くないな。言われんの」
夕暮れ。オレンジ色に染まる里の風景を遠く眺める四。
……それを眺める、慧音。
意外とあっという間だったが、彼の幻想郷生活の2日目が終わろうとしていたのだった。
「あ、人里回れてねぇじゃん」
人物、相互関係
四→慧音
(優しいし、頼りに出来る)
慧音→四
(…………"良い"、な♡)