2話 "成り損ない"
「あら、お客さんね」
縁側から、物凄いスピードで襲来してきたのは……これもまた少女だった。
白いリボンの付いた黒のつば広帽子に、黒い服。その下に白エプロンと、これまた分かりやすいカラーリングの服装。
そして金髪の、背の低い少女だった。
「……紫か? おかしいな。私は博麗神社に来たはずだぞ」
「あってるわよ。まぁ、貴女の目的の霊夢はちょっと席を外しているわ。多分すぐ戻ってくるけど」
「ほんじゃ、私もゆっくりしてくとするぜ。
……ん? あんた、誰だ?」
縁側によいしょと腰掛けると、目を見開いて俺を視認した。
「この人はね……」
「も、もしかして……霊夢の彼氏か!?」
だいぶ斜め上に飛んだ勘違いをされてしまった
「んもう、早とちりし過ぎよ。……しかも違うわ」
「あれ、違うのか?」
紫がしっかりと訂正してくれるようだ。霊夢に悪いからな
「彼は私のよ(キリッ」
……訂正もクソもなかった。
「紫の発言は無視してくれさ。白黒の少女さん」
「??? …まぁ紫の事だし、大人しくそうしとくぜ。」
「あぁん、ひどぉい」
相変わらず信用されていない。……そりゃ、いつも通りがこんなテンションだとそう思われるか
「俺は四。 宜しくな」
「おぉ、私は魔理沙。 霧雨 魔理沙だ!」
霧雨……さっき見た言葉だな。
もしかして、先程歩いた森にあったあの『魔法店』の……
「あれ、魔理沙。来てたの」
「暇だったから来てやったぜ。ほらお土産」
札と御幣を持ってきた霊夢が、縁側で寛ぐ魔理沙に気付いたようだ。その顔はあまり歓迎ムードでは無いように見える。
差し出されたバスケットには、それはそれは沢山のキノコが詰まっていた。あぁ成程、これはあの森に生えてたヤツだな。
見たことある毒々しいものや、元いた世界では見たことの無い不気味で鮮やかなものまでパンッパンだ。
「今それどころじゃ無いのよ。はぁ、春先になるといつもこれなんだから…」
「なぁんだよ、いつもは茶でも出して、腹出してグータラしてるだろ?
それに、お前も暇すぎる時は一緒になって駄弁ってるじゃないか」
「…………」
「……あ、もしかして四が居るから普段の姿は見せたくないとか?」
「魔理沙ぁ!!」
「やべっ」
合戦の合図は一瞬で切られた。霊夢が鬼の様な形相で魔理沙を追っかけると、魔理沙は箒に乗って飛翔する。
……とんでもねぇスピードだ。
「……仲が良いのか悪いのか」
「まぁ、普段通りよ。あの子たち」
それよりも、と紫が霊夢の落とした御幣を拾い上げると、それで俺の頭をコツンと軽ーく叩いた。
そして霊夢の持ってきた札を破りながら、小声で何か呪文の様なモノを唱える。
この時間僅か5秒程。
「?」
「妖避け終了。儀式と言うよりかは、私のスペルで特別な結界を貼っておいたわ。
これで、普段の生活で変な雑魚に絡まれる事は無いでしょう」
「効果の内容に反して随分短縮されてんのな」
「私の妖力があればチョチョイのチョイ♪」
…本当に大丈夫なのか?彼女が相当強い妖怪と断言しても良いのだろうが
「それよりもあの2人、空中で何をおっぱじめてるんだ?」
俺目線からして、霊夢と魔理沙は神社上空を広々と飛び回り、何か弾のようなモノを撃ち合っている。
霊夢が札と針。魔理沙はレーザーを軸に戦っていた。
「……綺麗でしょ?」
「見る分にはな。すげぇ、あの子たち人間なんだろ?」
「えぇそうよ。……ちょーっと特異な部類だけどね」
紫が言葉を濁らせる。別に常人とは思ってもないさ。
……あの2人は俺と同類だ。
こんなに嬉しい事はない。俺以外にも……沢山居る。この世界には、溢れんばかりに
「これからが楽しみになってきたよ」
「あら、それは嬉しいわ。ふふ、いい笑顔ね♪」
「私の勝ちね。さっさと帰りなさい!」
「な、何だってんだよぉー!タダ飯食いに来ただけなのにぃー!」
「なんだ?魔理沙は腹減ってたのか」
「ん?あぁ、昼飯を食いそびれたからなぁ。キノコ採取に没頭してたんだぜ」
「あぁ、あれほぼ"毒"だったぞ。骨折り損のくたびれもうけってヤツだ」
「えぇ〜!? なんだってんだぜ本当に!」
先程までドンパチ戦ってた2人が、ふよふよとゆっくり高度を落とし縁側に降り立った。
「四さん、キノコに詳しいの?」
霊夢が適当なキノコを摘んで俺にそう聞いてきた。
ちなみに彼女が掴んだのは希少な食用だ。ツイてるな
「いや、初めて見るのもあったんだ。あんまり詳しくないし」
「? じゃあ、何でこれらが毒だって分かったんだよ」
「そりゃ、触ったからな。俺の能力だよ」
「「能力?」」
俺がそう話すと、紫はまるで自分のことの様に嬉しそうに笑っていた。
いや、コイツの事だから恐らく『霊夢と魔理沙の反応が見たかった』なのだろう
実際俺が能力持ちだとカミングアウトすると、2人は思っていた以上に食い付いてくれた。
「ちょっと待って、四さんって能力を持ってたの?」
「外の世界から来たんだろ?格好見りゃ分かるぜ」
……そう考えれば、レアケースなんだな、俺
「俺の能力は"五感"を司る。
コイツらが毒だって分かったのは、五感の1つ『触覚』で触ったから情報が出てきたんだ」
「五感……?見たり聞いたりって事?」
「触ったらそれの情報が出てくんのか!? 香霖みたいな能力だぜ」
「その香霖って人は良く分からないけど、『触覚』で触ったら色々出来んのさ
……例えば……」
先程触った、食用のキノコ。
それを手のひらで『錬成する』。
これが『触覚』の真骨頂だ。霊夢も魔理沙も目を見開いて仰天している。
「ど、どうなってんだ!?」
「触ったからな、再現して創れんのさ」
「もしかして……一度触ったものを、何でも創り出せるの!?」
「……あぁ。"何でも"ね」
ゼロから1を創り出すのは、1を10にする事より遥かに難しい。
空白のキャンバスに名画を創り出せる程の天才は中々存在しないのと同じことだから
「まぁ、一度触らなければ出来ないし考えてるよりもずっと不便だよ」
「これ以上無い便利すぎる能力だぜ。素寒貧で遭難しても余裕で生きてけるじゃないか!」
魔理沙が目を輝かして食いついてきた。俺の創り出したキノコをぶんどって観察し始める。
「洗って食えよ」
「ちゃんと食べられるんだな。……うん、間違いなく"本物"だ!」
「五感……てことは、まだ他に能力が4つもあるの?」
変わって霊夢は落ち着いて俺の能力に付いて問い質してくる。防衛ラインに立っている巫女だからこそ、俺の能力を把握しておかないと。位の気持ちなんだろう。
「『視覚』は見える。『聴覚』は聞こえる。『嗅覚』は嗅ぎ分けられる。『触覚』は触って覚える。『味覚』は食べて再現する……人や妖怪たちにとっての"当たり前"が俺には違うモノに置き換えられてるんだ。
まぁ、つまりは人間でも妖怪でも無い『出来損ない』ってとこかな」
「それを…生まれてからずっと…」
「考えたく無いだろ?『便利』ってのは一瞬だけ思えればそれでいいんだよ。後に残るのは『そうでも無い』って"後悔"みたいな考えだけだから」
今は慣れたけどね、と付け加えておく。これ以上霊夢の気を沈めたくない。
それよりも、これからの生活だ。折角だし伸び伸び過ごそうかなと相談するつもりだったのを思い出した。
向こうの世界では俺の事を気味が悪い…つってろくなバイトも採用してもらえなかったしな
"幻想郷は全てを受け入れる"。この言葉を信頼してみることにしよう。
◆◆◆
場所、人里と呼ばれる人間たちの住む居住エリア
………の、かなーり最南端の方にて
「はえー、こんな所に空屋敷があったなんてな」
「中々寄らないところだから、私も知らなかったわ」
幻想郷を駆け巡る2人ですら知らなかった、年季の入った大きな屋敷。
元々は道具屋さんだったのかな?入った瞬間大きなスペースが待ち構えていた。
……何もかも好都合!
「すんなり許可がおりて助かったよ。ありがとう、上白沢さん」
人里で生活する。それに当たって許可申請や協力を承ってくれたのが、上白沢 慧音さんだった。
何でも人里の寺子屋で教師を勤めていらっしゃるお方だとか
「慧音で結構。久しぶりの外からの来訪と聞いたが、まさか賢者のお墨付きだったとは思わなんだ。
しかし、里の端っこで良かったのか?色々と不便になる気もするが……」
そこまで心配してくれるとは、初対面だと言うのに何と人格者な事だ。
「大丈夫、ここに決めるさ。意外と陽当たりも悪くないし、何より広々としてて過ごしやすいぜ」
「貴方がそこまで推して言うのなら兎や角物申す必要も無いな。」
「ツイてるわね♪ いきなりこんな大きなお家手に入れれるなんて」
「今までの人生が報われ始めてきたのかもな」
「でも、こんなおっきな屋敷…よく残してたわね」
「解体するにも最近は人里にあまり覇気がない状態だったから…手は付けれなかったんだ。
必要だったら私に頼ってくれ。人里に悪影響を及ぼさない限り力になろう」
「あぁ、そうさせてもらうよ。何から何まで助かるぜ」
そして、みんな解散。霊夢と魔理沙は神社に戻り、慧音さんも里の見回りへと向かった。
「紫、ご飯作ってあげるから引越し作業手伝ってよ」
「いいの? やったー!」
そこからは紫のスキマを駆使して引越し作業は単調に終わった。
外の世界にあった俺の部屋のモノを色んなところに移しただけだがそれでもまだ空きがある程に広ーい家だった。
「通電!」
「人の事言えねぇけど、お前の能力も大概だよなぁ……」
「使いこなすのに難アリだったけど、貴方のよりかは代償も無かったからね。
……貴方が、最初から妖怪として生まれていれば……」
「いいのさ。人間で。フツーで退屈で、老いて苦しんで死ねるからさ」
「うっし、今日はこんな感じでいいだろ」
「電気も通してあげたし、ちゃんと雨風凌いで寝れるから大丈夫でしょう。
……あ、寂しかったら一緒に寝てあげる♡」
「今日のところは大丈夫かなー」
「び、美女からのお誘いを……」
それ自分で言うんだ
まぁ紫は元いた世界だとぶっちぎりの美少女だったけども
「今日は色々あったからな……ゆっくり休んでまた明日にしたいのさ」
「……今更。超絶的に今更言うけど
本当に良かったのよね?後悔なんてしてないのよね?」
紫にしては珍しい、俺の目を見た真剣な眼差しでそう言い放つ。
なに、答えはもう既に出切ってるじゃないか
「俺はこの世界がいい。
俺が俺のまま生きていける
……最ッ高の世界じゃねぇか」