12話 Scarlet Devil 其の弐
咲夜さんに案内され、紅い館に足を踏み入れる。外壁も血塗られた様に赤かったが、内装も目が痛くなるほど真っ赤だった。
窓から差す陽射しが反射し、赤い光が目に入ってくるのだ。直で。
「目痛ぇ」
「慣れるまでは大変だと思います…」
咲夜さん先導の元、目に悪い館を歩いている。少し暇なので、咲夜さんに話しかけてみる事にした。
「咲夜さんってメイド長って言ってたよな」
「はい。……とは言っても、この館でお嬢様にきちんと奉仕が出来るのは私くらいですのよ?」
「と言うと?」
「妖精をメイドとして雇っているのですが…物覚えが少々悪く、結果的にメイドとして尽力しているのが私くらいしか居ない。……という事にございます」
苦労してんな……
多分、咲夜さんが有能過ぎてというのもあるのかもしれない。
「宜しければ、四様も紅魔館で働いてみてはいかがでしょう?執事の枠が空いている…とお嬢様が仰っておられましたよ。うふふ…」
「か、勧誘されんのか…?もしかして咲夜さん、今から俺危ない書類書かされる…?」
「メイドジョークにて御座います。ふふ。何度も申しますが、四様はお嬢様…強いては紅魔館にとって"重要なお客様"ですので」
全く脅かしてくれるぜ。この人は何だろう、本気モードの紫みてぇな雰囲気が常時しているな…。
「……なぁ、咲夜さんっていくつ?」
「…………。そうですね、恐らく今年で17…程でしょうか。誕生日は覚えていないのであまり自信はありませんわ」
「俺、今年で18だから歳近いね。………え?マジで?その歳でメイド長やってんのか…」
「まあ。それでは……四様を人生の先輩として…後ほどご教鞭お願い致しますわ♪」
振り向き様のウィンクに俺はときめく…というより妖艶な何かを感じてしまった。
この人俺より年下なのかと思うと何故か恐ろしくなってきた。推定16歳で出していい色気じゃないって
どうこう話していると、2階へと続く階段を登り一際立派な扉が構える部屋に招待された。なるほど、ここがお嬢様なる者の自室のようだな
──レミリア・スカーレット、だったか?
この紅い館に相応しい姓を持っているな。流石は主として君臨しているだけあるな
……そして近付けば近付く程、俺の肌に巻き付く濃密で大きい『魔力』と、大きすぎる魔力に隠れて燃えるように揺らめく『妖力』。
この正体はなんだ?妖怪か?……日本産の妖怪には見られない魔力があるな。…さて何が出てくるか。
「それでは四様、失礼ながらここにお待ちを」
ノックや声をかける事なく、咲夜さんは扉を開けて入室した。……確か、専属のメイドは仕える主の部屋に入る際にノックしないで入るんだっけ。なんかのドラマで見たな
ポケットに手を突っ込みながら、咲夜さんを待つ。結構時間がかかってるのかな。何やらもたついている雰囲気だ。……聴覚で除き聞きしてみようかな
『お嬢様。レミリアお嬢様。お客様がお待ちですよ』
『…………ふわあ…。誰よこんな時間に〜……』
『お嬢様が興味を持っていらっしゃる、八雲紫のお気に入りであられる四様がお待ちですよ〜』
『…………………へ?え、ちょっ、来たの!?待って待って待って!?咲夜、招待状送った!?勝手に!?』
『なんとご自分からわざわざ歩いて紅魔館へいらっしゃいました。先程美鈴が対応しましたよ』
『身支度終わってないッ! んもう!! ちょっとまっててもらって!!』
「ええ……」
「大変申し訳ございません、四様。レミリアお嬢様は少々面会に準備が掛かるそうで……」
「はい………」
音もなく部屋の外に居る咲夜さんには驚かなくなった。……多分彼女の能力で瞬間移動でもしてんじゃねぇかな
……さて、中から聞こえてきたのは想像していたよりかなり、幼めな少女?の声だったな。
まあでも正体が誰でも侮れん事には変わりない。感じれる"気"自体は本物だ。
一体なんの目的で俺をここまで接待してくれるんだろうか。美鈴さんも咲夜さんも善意でやってくれている。……強制されているって訳でもない。かえって怪しい感覚がずっと心にのしかかってくる訳だ。
「お嬢様、宜しいでしょうか?」
『……………いいわ。中に案内してちょうだい。』
「かしこまりました。……それでは四様、どうぞ中へ……」
◆◆◆
「─────初めまして。そしてようこそ、我が紅魔館へ。」
「………………」
「そう緊張しないでちょうだい?別に貴方をとって食おうとする気は更々無いわ」
確かに幼女だ。中から聞こえた声の通り。幼い、背の小さい少女が俺の向かいに座っている。
咲夜さんが一瞬で挿れてくれた紅茶を飲みながら、くつくつと笑いながら俺を覗くように見てくる。
──レミリア・スカーレット。
血のように赤い眼をし、その小さい背中には大きな翼……悪魔のような翼をパタパタと動かしていた。
明らかに人間では無い。この子は……
圧倒的な妖怪に近しい圧。覇気のような何かを容赦なくぶつけてくる。……これは恐らく、試しているのだろうか?
「貴方のことは前々から聞いていて……少し興味を持っていたの。ただの人間には全く興味なかったのだけど……まさか、貴方はあの八雲紫のお気に入りだなんて」
人里に住んでいらっしゃる人間の皆さんにはそんな話蔓延してなかったようなんだが、何故か妖怪やらには広まっているらしい。
「確か………四、という名前だったわね?私はレミリア。レミリア・スカーレット。これでお友達ね?ふふふ」
「あぁ、えーっと。俺は君のことをなんと呼べば良いんでしょう?」
「………ほう。うふふ、良いわよ。この際好きなように呼んでくれて。
──貴方の『恐怖心』を一切感じさせない堂々した出で立ちに許してあげるわ」
「えぇ、まぁ。ソイツはもう持ち合わせていないもんでして」
「益々面白い。やはりあのスキマ妖怪が好き好き言ってる訳だわ。」
「………うーん、馴れ馴れしくレミリアさんって呼ぶのもな〜……ニックネームも図々しいだろうし……
"レミリアお嬢"って大丈夫ですかい?」
「悪くはないわ。そんな呼ばれ方あんまりされないし。貴方に免じて許可してあげるわ。……ねぇ咲夜。貴女もそう思うわよね?」
「失礼ですがお嬢様。質問の具体的な意味を聞いてもよろしいでしょうか」
「彼の事よ。……貴女と変わらない年齢。美鈴よりちょっと大きい身長。芋臭い里の人間の連中より上澄みの顔……まるで何処かの貧乏巫女のような堂々とした人間。
貴女好みの男じゃない。香霖堂の店主より若々しくて。……執事として雇う?」
「うふふ、実はお嬢様の元へ向かう際に無礼を承知で勧誘をしてしまいまして」
なんか、奴さん達で妙に嫌な予感がする会話が繰り広げられているな。俺生きて帰れんのか…?
咲夜さんが挿れてくれた紅茶を口に含む。……美味い。なんと洗練されているのであろう。無理だよ俺執事なんて。せいぜい用心棒が関の山だ。
「今回貴方がここに来た理由はただの訪問がてらの散歩なのだろうけど、実は貴方宛に招待状を出そうと思っていたところなのよ、四」
「えぇ、そのようですな。いやはやまさか湖の奥にこんな立派な館が構えてるなんて思わなんだ」
「良いでしょう?あまり陽射しも入ってこなくて……吸血鬼である私や妹にピッタリでしょ?」
………────吸血鬼。彼女の正体は吸血鬼だったか。道理で妖力と魔力が混じってると思った。まさか西洋の妖怪だったなんて
「妹?もしかして、ここの地下にいる……」
「まぁ、察していたのね。そうよ、でもあの子ったらまだ私よりも幼くてね。……ちなみに、私よりも凶暴よ?人間の貴方は迂闊に近寄らない方が長生きできるわ」
「ご忠告どうも。それじゃあ向こうに見える魔力の主はなんでしょう?」
「……貴方、美鈴みたいな能力でも持っているのかしら?向こうは紅魔館が誇る大図書館よ。そこに住み着いているのは私の友人で家族である魔法使いよ。
ちなみに彼女はコミュニケーションが取れるわ。使い魔と篭もりっぱなしだから、キノコが生えてないか心配だけど…」
魔法使い?それは種族としての魔法使いって意味なんだろうか。大図書館か…ちょっと気になるな
「………──咲夜」
「もう済ませてありますわ、お嬢様」
「…えぇ、ありがとう。ねぇ四。もうちょっとお話していかない?貴方の事、もっと知りたいわ」
謎のアイコンタクト。何を指示したのかは不明。他人の心の中の声は流石に聴けねぇからな。
「ねぇねぇ。咲夜のこと、どう思う?」
「え?あぁまぁ。外の世界じゃまず見た事がねぇくらい綺麗な人だと思いますよ」
「まあ…♡」
「あら、主の前で口説くなんて度胸があるわね。」
………
「そろそろお昼時じゃない?ウチの可愛くて綺麗な咲夜が美味しいランチを作ってあげるわ!」
「お、そいつは良いですな。可愛くて綺麗で完璧な咲夜さんのご飯、是非食べていきたいです」
「ね?可愛くて綺麗で完璧で最高な………あ、いなくなっちゃった」
「ははは、湯気が出そうなくらい真っ赤っかでしたぜ、咲夜さん」
「ねぇ、四。突然だけど……動ける?」
「そこそこは。…………なぁ、まさか」
レミリアお嬢が椅子から立ち上がり、身体をぐーっと伸ばす。
顔には微笑みを浮かべ、今度はその小さい手を伸ばし始めた。………これはまるで───
────準備運動のような
「食前の運動でもしましょ。………貴方を一目見た瞬間から、気になっていたのよ
幻想郷の賢者のお気に入り、果たしてそれがただ外面内面共に綺麗に整った色男だからという簡単な理由だけだと思えないの。
さぁ、貴方のその真の実力を見せて欲しいわ!」




