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10話 紛うことなきルールブック 其の弐


 郷に入っては郷に従え、俺はその教えはその通り賄っていくべきだと重んじている。

 商人の知恵とか知識とかでもなく、見聞として。


 例えこれが霖之助さんから貰ったあの参考書類に書いてあった項目にたまたま乗ってたとしても。これは持論として己に言い伝えねばならん。


 ───それが出来てれば、俺は成り損ないなんて言われていなかったものを


 話を戻そう。今はこちらの"郷に従え"の部分についてだが


『幻想郷における戦闘での決着制度において、基本的には弾幕ごっこにて勝敗を決しています』


 食卓にて共に囲ってくれた藍さんがそんなことを教えてくれた。


 なんでも幻想郷には人間や妖怪、そして神なる存在が混じっている。それは俺も理解しているとも。

 まあぶっちゃけ言えば、『果てしない力の差問題』というものだ。


 ルールの管理者が人間だとして、それを破らんとする神が立ち塞がるのならお話にならない。

 ではそれをどうするか。そもそも幻想郷に入るために要求されるチップにしちまえばいい。



 『弾幕ごっこ』というルールブックを。



「……ざっくり説明すればこんな感じね。どう?他に何か知っておきたいことはある?」


 弾幕ごっこの弾幕の部分を教えてくれた霊夢には感謝しかない。

 なるほど、単純な勝負に"技の綺麗さ"を要求してくるとは。……奥が深いな。


「霊夢の弾幕は、なんか完成されてて綺麗だな」


「あ、りがとう…。歴が長いから、もう形付いちゃって」


「洗練された美しさってのもあると思うぜ。職人技ってヤツ?」


「あんまり言われた事無かったから…こほん。えーと、ざっくりだけど弾幕ごっこについては以上ね。


 そして撃墜されたらちゃんと負けてあげること。例え無効化する能力を持っていたとしても正々堂々と、みたいなルールがあるの」


「へぇ…確かに当たったなら当たったって言わねぇと決着がつかねぇもんな」


 現代でいう所のサバゲーってやつか。あのリアルなイベント方式のヤツ。


「弾幕の出し方は、まぁ単純に"気"を捻り出せば良いんだな?」


「実はそれだけじゃなくて、私の知り合いに弾幕に武器を使ってる奴もいるのよ。


…魔力はあるんだけど、そいつ人間だから、すぐカツカツになっちゃうそうで」


「投擲武器もありなのか。へぇ。………当たったら痛くね?」


「妖怪の妖力含んだ弾幕の方が痛いわよ」

「そんなもんか」


 弾幕ごっこのプロフェッショナルとして、霊夢に教鞭してもらった。これはいい収穫になったなぁ


「でも意外。四さんも弾幕ごっこに興味があったの?」


「流行りには乗っかりたい性分でね。ルールくらいは知っておきたいし」


「なるほどね。それで、四さんはどんな弾幕を放ちたいの?」







「…………すまんね。俺多分弾幕撃てねぇわ」




「…………………え」


「能力があるってだけで、俺保有する霊力も妖力も無いんだわ……」


 つい最近まで普通の高校生(仮)をしていた。外の世界で能力があるにしろ普通の生活をギリギリ送れていたのはそのせいだ。



 術も魔法も生身じゃ使えないからなぁ


 思い出したかのように、霊夢は頭に手を当ててしまった。


「そ、そうだった。四さんって紫が連れてきた外来人だったわ」


「紫がどうして俺を気に入ったかってのは、多分アイツの事を特に何も思わなかったからだもんな。……それだけの事だよ」


「う、うーん。そう……心配ね、四さんが『紫のお気に入り』っていうだけで色んな奴らが寄ってくるのに」


 実際はそうだ。何も知らずに寄ってきたのは今のところ魔理沙と千亦ぐらいじゃ無かろうか


 華扇からも、俺の顔を見たいという奴らも多いと聞く。



「まぁなんかされそうになったら時間を稼ぐさ。それくらいなら出来ると断言するぜ」


「大丈夫?意外と話が通じないヤツもいるんだけど」


「はは、ソイツは困ったな。もし出くわしちまったら紫の不思議パワーを信じるよ」


 普通の人間なら、普通に生きる。人里の人間がそうであるようになら俺もそうしよう。なるべく穏便に。


 弾幕ごっこが出来ないのは正直気が落ちたが……仕方の無いことだ。



「なぁ。霊夢が人里を気にかけてる理由って聞いてみてもいいか?」


「………里の人間を妖怪から守るため。それと、里の人間が妖怪にならないよう見張るため。



 人間が妖怪になるなんて、そんなの禁忌だからね。面倒だけど、博麗の巫女としてやらないといけないの」



「偉いな。俺より若いのに、俺より立派だ。」


「やらないといけないから。偉くなんかないわよ。……もしかして、四さん妖怪になろうと…?」


「神様に誓って、俺はそんな事しない。でももし何かの間違いでなったら、そん時は頼むよ」


「…………うん」



「さぁて、昼時だな。飯でも食おうぜ、霊夢。」


「もうそんな時間なのね。……折角だから、一緒に食べましょ?」


「そうしますかねっ。」





………



「あら。こんな普通の日に通信符に連絡かけてくるなんて珍しいじゃない」


 連絡用の符。いつもどこかに隙間を広げて外遊している紫にすぐ連絡が着くよう私にだけ渡されたスペルだ。


 隙間から上半身のみ露出させた紫に、四さんがくれたお土産の饅頭を差し出す。


「な〜に〜♡今日は良い子ちゃんじゃな〜い♡」


「変な声出さないで。さっきまで四さんが来てたのよ」


「あら、珍しい。彼が神社まで………1人で?藍とか付き添いしてなかったの?」


「えぇそうよ。うちの狛犬と遊んでた。」


 そこから始まるのは「もっと早く誘ってよ」とか「ゆかりん寂しかった」とか面倒事の雨霰。折角呼んだのに本題に移れないじゃない


「………四さん。弾幕ごっこを教わりたいって言いに来たの。なんでもこっちのルール?を知ってきたかったらしくて」


 私がそう言うと、紫から表情が一瞬消える。遠い目をして、鳥居の上へ……春の青空に向かれた。


「…………そう。でも、四は…」


「弾幕は撃てないって言ってたわ。……うん、だって彼は人間。外の世界から来た、能力があるってだけで何の力もない普通の人だからね。」


「………………」



 ……そうか、私は地雷を踏んでいたようだ。


 四さんが幻想郷に連れられた時、何の迷いも無く許可したと言っていた。



 四さんは、能力のせいで一人ぼっちだったから。




 親も、友達も、みんな居ない。ただ能力があるから、ただ周りの人と違うから。それだけの理由で…



 どこまでいっても、彼は人間の"成り損ない"だと卑下している……それは、まるで………




「───ねぇ紫。あんたはどうして四さんの事をそんなに気にかけているの?」




「………昔の、一人ぼっちの私に似ていたから。それなのに…───人間なのに。これからの何もかも全てを見通しているような眼をしていたから。


 ………じゃ、ダメ?」





「…………あんたらしいって言えば、あんたらしい…か」



◆◆◆



「お迎えにあがりました、四殿」

「あれ?藍さん、紫と一緒じゃなかったっけ」


 神社の石段からやっとのこと降りると、そこには藍さんが待ってくれていた。買い物袋を下げて。


「主から、博麗神社に顔を出されていると急な報を受け推参しました。


………よくぞご無事で戻られた」


「え?あぁいや。ただ霊夢とのんびり話してただけさ」


「ご謙遜を。博麗神社は辺りに強い妖怪が屯しているのです。


 …流石は紫様が認められた御方だ。お疲れのことでしょう。早う御宅へ戻りましょう」


 …………あー、なるほどな。だから参拝客がいねぇ訳だわな

 紫が俺に施しやがった妖避けの術が強すぎるから気配すら微塵に感じられなかった。


「………それで、そのたらふくある油揚げは?」


「外の世界へ、野暮用ですが顔を出して参りましたので。その、つい…」


 顔を赤らめて、買い物袋を隠す。……衝動買いってやつなのだろうか




 ……そんな、茶目っ気もある凛々しいスーパー美人の藍さんだが、なぜだか覇気がないように見えるのは気の所為だろうか。


 ………立派な尻尾も、耳も垂れている。間違いねぇな、こりゃ。




「…………もしかして、怒られた?」


 目が合った。目に見えてハッとした反応をした藍さんが、数秒の沈黙の後話してくれた。


「………御明答に御座います。事情故も知らぬ愚かな私は、四殿に弾幕ごっこについて唆してしまい…紫様からきつく言いつけられました…。


 申し訳ありません、四殿。私の無知が招いた所存に…」


「…………別に気にしてないって。弾幕は撃てねぇけど、でもそれでも良いんだ。黙って寛いで、ゆっくり生きていければ」


「…………四殿は、……四様は、どうしてそう達観なされているのでしょう。最早、至高の領域に近しい…。一体何故…」


 そこまで言う藍さんの口を、ポケットから取りだした饅頭を入れて塞ぐ。

 別に詮索されるのはいいが……紫は過保護だ。別に今言う必要はない。後でゆっくり話してやろう。


「むぐむぐ」


「美味いだろ?帰ったら紫の分も食っちまおうぜ」


「む……んっ、四様…」


「ありがとな、藍さん。俺にルールを教えてくれて。


 ───言っておくけど。俺、藍さんの数億倍くらい弱っちい存在だから、そんなに畏まらないでくれさ。



 いいんだよ、全部。弾幕が撃てなくても。それが無くても、幻想郷は全てを受け入れるんだろ?


 人里のみんなは俺を気味悪がっちゃいない。能力があったとしても、ありがとうって言ってくれた。……それで良いんだよ。」


 垂れていた藍さんの耳が、いつもよりかは元気は無いが立ち上がり始めた。


 そのまま隣り合わせで帰路に着く。春のぬるい風が俺たちの背中を押す感覚。





「帰ろっか。晩御飯、おいなりさんにしよーぜ」


「………はい。四様。紫様の分も、食べてしまいましょう」


「おっ、いいじゃーん!」









「聞こえてるわよ〜」


「げっ、いたんかい」


「………紫様には悪いですが、私と四様との約束にて」



「ふ〜ん? なぁに〜?いつの間に、あなた達そんなにラブラブになっちゃって〜?





 ………藍。今日は無礼を忘れてあげる。 ───来なさい。久しぶりに、妖術で勝負してあげるわ」



「身体が鈍ってしまわないよう、そして橙に示しが着くよう………



 そして、四様とのお約束を守れるよう、全力でお相手臨みます。」








 2人とも、隙間の中に消えていった。………まさかあの展開からガチ勝負しにいくなんてなぁ


 藍さんから預かった、大量の油揚げを持ってさっさと帰宅しよう。おいなりさん、作っておけば喜んでくれるかな


昼寝してからでも取りかかるかぁ



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