第二話
「お兄さん。この勇気は今なら半額だよ。お買い時。」
スクランブル交差点。横断歩道の半分で、あなたは誰かに、声をかけられた。
「あやや。あなたの恋人、もうそろそろ死んじゃうねぇ?」
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奇妙な店がある。
都会では、ただでさえ目立つ出店スタイル。煌びやかな屋台だが、その見た目に反して移動する姿が目撃されていない。
それでも、ここ店主はもっと奇妙だ。
「いらっしゃい、らっしゃい。今なら、勇気が半額だよ!」
明るい声が響き渡る。声をかける者はいない。
店主はふてくされる。
「ちぇ。なんでだよー!」
ここまでが、お決まりの展開だった。
小さな女の子が店主を務めている。いつも頬に笑みを浮かべていて、その姿は幼い容姿とは違い堂々としている。だが、最も奇妙なのは服装である。巫女服のような和服と、茶色く黄ばんだサングラスをかけており、違和感を強く発している。
「あの…何を売ってるんですか?」
「お、いらっしゃい! ここでは気持ちを売ってるよ。」
「気持ち…? どういうことですか?」
「言葉の意味そのままさ。勇気を買えば、なぜか勇気が湧いてきて、喜びを買えば喜びを感じられるようになる。つまり、あたしは感情を売ってるのさ。」
店主は手を振りながら、あられもない説明を始めた。よく見ると、看板には「勇気1000円」と書いてある。
「感情…?」
「そうだよ。今なら勇気が300円! どうだい?」
「詐欺じゃないんですか?」
「あっはっは。詐欺なんてとんでもない。」
「ぱん!」と店主は手を叩く。
「あんたはまだ気づいてないが、ここは現実世界じゃない。」
空は、黒くなった。星ひとつない暗黒だ。
「ここは、幻想。君たちが、生きていない世界さ。」
店主は再び手を叩く。たちまち、空は明るくなる。
「ほら、太陽がないだろう?」
あたりを振り返る。いつもの遊歩道だと思っていた場所は、全く知らない場所だった。
「はっはっは! いいね、その驚いた顔!」
店主は手を叩き喜んでいる。少しムカつく。
「それで、買うかい? 勇気。」
「…いらない。」
すると、店主はスッと後ろに飛び退いた。
「そうかい。必要だと思ったんだがね。」
店主は、「ぱん!」と手を叩いた。
「ま、あたしも暇じゃないんだ。また会えるといいねぇ? 不運なお客様。」
途端、店主の姿が見えなくなった。
…気づくと、いつもの遊歩道は跡形もなく、消えていた。