表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

3で割れますね、うふふ

作者: 柳キョウ

我が家の三つ子姉妹のお話です。

愚作『三つ子姉妹の運動会』と重ねてお読み頂くと幸いです、


「あの~~たいへん不躾ぶしつけなお願いがあるのですが・・・」


ずいぶんとかしこまった風情で、そう口にしたのは長女のアヤカ。

食事を終えて居間でくつろいでいた僕に向けての言葉である。

不躾ぶしつけなんて言葉、小学3年生が使うか、普通・・・


居間の入り口付近で、エミナとカナが、ちらちらとこちらの様子を覗っているようだ。

この配置から察するに、3姉妹を代表して長女のアヤカが、僕に声を掛けたとみるのが妥当だろう。(なになに?)と問う。


「大変恐縮なのですが、お正月にもらったお年玉の一部を、いま頂戴する訳にはいかないでしょうか?大変に恐縮なのですが・・・」


アヤカの、この小学生とは思えない言葉使いは、小学1年時の担当女性教師の話し方の真似らしい。家庭訪問や授業参観で、僕も何度かこの教師とは会ったことがあるが、確かにそんな話し方だった。それでも、普通学校で生徒に対して、こんな話し方する?まあ、いい。


「でっ、いくら位?何に使うの?」


親戚から娘たちが貰ったお年玉は、娘たちのものである。僕たちが保管しているだけのことだ。拒否するつもりは毛頭ないが、それでも使い道くらいは聞いておくのが親というものだろう。


「じつはですね・・・」


アヤカがゆっくり、おっとり、10分以上の時間をかけて語ったお年玉の使い道について、要約するとこうだ。


今日の放課後、友達と近所の公園で遊んでいた時、敷地内に植えられていた薔薇の棘に、ジャージの肘の部分をエミナが引っ掛けて、そこが破れてしまったというのだ。

この破れたピンク色のジャージはエミナのお気に入りで、ひどく落ち込んでいるエミナを哀れに思い、アヤカが自分のお年玉で、新しいジャージを買って上げたいとのことだった。


何とも心温まる長女の優しさであるが、ここで一つ疑問がある。

なぜアヤカのお年玉なのか?その疑問をストレートに僕は問う。


「実は・・・運動会の時にですね・・・」


またまたアヤカが拙く、おっとりと話した内容は次の通り。


クラス対応リレーの選手に選ばれたアヤカであるが、アヤカの脚は出場選手の中では速い方ではなかった。むしろ遅かった。

そこでエミナが、メーカは忘れたが、“俊足”だか“高速”だか、子供たちの間でえらく人気の超軽量の運動靴を、アヤカにプレゼントしたらしいのだ。お金はエミナが自分のお年玉から出したようだ。


「そのお返しをアヤカはしたいのです~ダメですかね?」


ダメな訳があるか。こんな姉妹愛を見せられて、ダメっていう父親がどこに存在する。


「カナのお年玉も使ってもいいよ~」


居間の入り口付近で立っている色白のカナがダメを押す。


「でっ、その新しいジャージはおいくら位するの?」


「近くの〇マムラに行ってみたら、3000円くらいでした。お高い買い物で恐縮なのですが~~~」


高いものか。さすがは〇マムラだ。それよりも、こんな素晴らしい姉妹愛、何十万円払っても見られるものか!

ほとんど涙ぐみながら、ハンガーに掛けてあった背広から、僕は財布を抜き出す。


「お年玉は使わなくっていいよ、可愛い可愛い3姉妹へのお小遣い。はい」


僕はサイフの中から、比較的きれいな一万円札を取り出して、代表でアヤカに手渡した。


「これはこれは、このご恩は一生忘れません~~」


アヤカが丁重に頭を下げる。


「魔物ぅ~ありがとうな~」


補足が必要だろう。次女のエミナは、なぜか僕の事を“魔物”と呼ぶのだ。

所以ゆえんはまるで心当たりがない。

そろって僕に礼の言葉を残して、3人は子供部屋へ帰って行った。


20分後、3人は居間に戻ってきた。アヤカが先頭でエミナとカナは入口付近。

最前と同じ配置。


「重ね重ね申し訳ないのですが、もう一つお願いが・・・」


実に申し訳なさそうなアヤカの表情。なになに?お金が足らない?


「さきほど頂いた一万円ですが、9999円にして頂けないでしょうか?3人では割れません」


さすが三つ子だ。可愛すぎる三つ子だ。そして緩む。僕の財布の紐がつい。


「じゃあ、これなら大丈夫?はい、追加で5000円」


「一万五千円なら、3で割れますね。うふふ」


アヤカが笑った。



後日談・・・


「あの~~今月のお小遣いがちょっと・・・」と僕。


「ダメ!」一刀両断の女房。



「魔物ぅ~何か困り事か?」


真新しいピンク色のジャージ姿のエミナが、うなだれる僕に声をかけてくれた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ