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テツジンの作り方

作者: 徘徊猫

 大人って概念は曖昧だ。実家のこたつに丸まって、そんな事を考えた。

 成人=大人だったら簡単な話だろう。でも、大人げないの意味は大人の守るべき規範を超えて自重しない様を表すと思うし、大人びたといえば聡明で理性的な判断をする様を想像する。私は生き字引じゃないから、感覚だけど。


 「ねえ、お兄ちゃん。大人って何だと思う?」

 「自立することじゃないか?」

 うっ、と変な声が出そうになったが、別に勉強頑張ってモラトリアムを伸ばしたからいいじゃん、と自己弁論しておいた、自己完結。

 「でもさ、漢詩の大人は孔明だよ?」

 「それを言うなら孔子のほうが適切じゃないか? 言葉の意味は変化するから……ほら、古文だとまもるが見守るって意味だったりする」

 「もっとポピュラーなやつにしてよ」

 体を起こしてこたつの上においたみかんを剥き始める。


 「まあ、なんだっていいか。そうだ、車に乗せてよ。行きたいところがあるんだけど」

 「杏、今年は免許取りに行けよ」

 「うへぇ、分かったよ。じゃ、行こっか」


 ポケットに手を突っ込んで、年明け早々に買い物に来た人々で駅前のデパートは混み合っていた。いつものことか。

 「何を買いに来たんだ?」

 「んー? 特に目的はないよ? みかん食べるのに飽きただけ。さっ、見て回ろ」


 「デパートってさ、展覧会みたいで面白いよね」

 「行く宛もないと迷子に思えるけどね」

 「ふうん、じゃあコールセンターでも探しておけば?」

 「杏が迷子になったらそうさせてもらうよ」

 「それはお兄ちゃんでしょ」


 「あー、本屋かぁ。参考書でも買っておくべきかな」

 「一応聞くけど……財布は持ってきた?」

 「うーん、えへ……」

 「じゃあ、パス」

 「無情な!」

 「人にたかる癖、友人にやってないだろうな」

 「心配無用、家族にだけだから」

 「だから、母さんに呆れた目で見られるんだぞ。まったく、外面だけはいいんだから」

 「ほら、頼れるお兄ちゃんは妹に奢るものでしょ」

 「ほどほどにな……」


 「んふふ、なんかお年玉っぽくていいね」

 「はぁ、俺は懐が寒いよ……で、楽しかったか?」

 「うん!」

 「なら、まあいいか」





 正月はまるでひとときの夢、まだ若いうちは童心に返っても許されるだろう。……夢が明ければ現実に帰る。

 実家と比べて、一人暮らしは少しだけ心細い。頼れる友人も地元から離れれば必然と少なくなる。暖房をつけても少し肌寒い机の上で新品の本を開く。内容にまとまりはない。何気ない最近の流行や時事を集めたもので、それらを拾い上げてスクラップとしてまとめる。

 それを見れば、およその今が分かる。正直、この世の中がそれほど絶望すべきものなのか、それとも希望を見いだせるものか分からない。ただ、何も知らずにそんな結論を出したくない。

 知りたい、どうして人は未来を不安に思っているのか。それを解決する手段は? どうしたら円満な結果に辿り着くのか。


 私からしたら、それは人間関係と同じだ。どうしたら頼まれてくれるか、その人の属性や距離感などの要素に合わせて接し方を変える。そうすれば、大抵はうまくいく。

 目的は甘えたいから、なんて幼稚な気持ちだけど、私はそれを受け入れているし、だからこそ大人になれないのだと思う。よく子どもっぽいとは言われるから、母には申し訳ないなと。……うーん、でも甘えてばかりでもないんだけどな。


 ピピピッ、と音が鳴って、メールを確認すると兄からのものだった。

 『ご飯はしっかり食べてる? 杏が貯蓄してるのは知ってるけど、あまり自分に厳しくするな。母さんも、口では言わないけど心配してたからさ』

 自然と“家族旅行!”と紙が貼られた貯金箱に目が移る。別に滅私じゃないし、ただみんなで行ければ楽しいと思っただけ。資金繰りも貯蓄と日々の生活から捻り出しただけ。

 美しい話にはしたくない。日々の生活はそんな些細なサプライズで満たされている方が楽しいと思うから。だから、きっとこれは些細な日常を続けるための私のわがまま。

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