遊び場の森
ノアとグリムに集めてもらった実と葉で搾油の準備をした。
実は可食部が不要なため、夕食後のデザートとして食べた。
ベリー系の香りと味だったが、見た目はビワのようで不思議な果物だった。余裕ができたらスイーツにするのも面白いだろう…。
効率良く搾油をする為に種の乾燥が必要なため、あれやこれやと数日が経ってしまった。
「さてと、搾油を始めますか。」
カラカラ。程よく乾燥した種が良い音を鳴らす。
道具も材料も用意ができた。幼い頃に椿の種から搾油して以来で、記憶が定かでは無い工程も多い。果たして上手くゆくのか…。
とりあえず、試してみるしかないだろう。
「おい、コウノスケ!そろそろ教えてくれよ!何を作るんだ?」
「あれ、まだ話していなかったか。これから作るのは“シャンプー”だよ。」
「シャンプー?なんだそりゃ…。食べ物なのか?」
「違うよ、身だしなみを整えるために髪を洗う洗剤さ。ノアはお金がないときでも売れる物って知ってるかい?」
「お金がないのに売れる?お金がなきゃ何も売れないだろ。」
「まあ、極端な話をしてしまえばね。しかし、一定程度の経済が回っている場合、食料品や日用品といった必需品の需要が消えることはないとされている。シャンプーは今回の場合、日用品に類するものなんだ。」
「ふーん、でもシャンプーなんて聞いたことないぞ。本当に売れんのか?」
「聞いたことがないということは、また需要が生まれていないんだ。需要があるところに商品を売るではなく、需要を作ることで商品を売ることこそ、大化けするポイントなんだよ。」
「…コウノスケが何を言ってんのか、まったく分かんねぇよ。」
「まずは作ってみる。そして、試してもらう。理解できないことを理解するには、まずはやってみる事が重要だ。」
成功するか否かは試作品にかかっている。
まずは乾燥させた種の殻を剥き、中身を細かく砕く。
石臼などがあれば便利だが、今回は大きく平らな岩の上で、石を使って砕くことにした。
「グリム、怪我には気をつけてね。難しければノアと僕に任せてくれればいいからさ。」
「ありがとう!ちょっと大変だけど頑張る!」
細かく砕いたら布で包み、10分ほど蒸す。
勿論、時計などないため、一から数えるしかない。
これはグリムに任せた。なかなかに聡い子で、100までは数えることが出来る。60数えたら振り出しに戻る方法を10回繰り返して貰うことにした。
蒸し終えたら早さが勝負なので、搾油の準備に取り掛かる。
油を受けるための鍋と搾油に必要な棒を近くに用意した。
ここからは年長者ノアの腕の見せどころだ。
蒸しあがった種の入った布の片側を太い木の枝にくくりつけ、もう片方は自分が絞るように棒を括り付ける。
あとはとにかく絞るだけ。力任せに、ひたすら絞る。
圧搾機があれば効率的に搾油が出来るが、この装置(と呼べるのかも分からない)が限界だと思う。
しばらく空回しが続くが、ある程度抵抗の生じたあたりで、ツーと液体が布から垂れ始める。
「油だ…!搾油できた…!ノア!もっと頑張って!」
「おうよ!俺のカッコいいところ見せてやるぜ!!」
そう言うとノアの絞る手は更に勢いを増し、油が応えるように流れはじめた。
この工程を何度か行い、大きな瓶三つ分になった。
「もう疲れだぜぇ…もう嫌だ…手が…。」
「お疲れ様、ノア。格好良い年長者でしたよ。」
そういうとノアは大変嬉しそうに笑い、大の字になって寝転んだ。この努力を無駄にしないように頑張ろう。
粗熱がとれた大切な油に、よく洗った良い香りのする葉を漬け込む。また、汚れを落とすためのスクラブとして塩を入れた。あとは一週間ほど待つだけだ。
「よし、とりあえずこれで完成。あとは待つだけだな。」
「また待つのかよ~…。結構大変だな…。」
「一から作っているからね…。もう少し簡単に出来ないか、考えてみるよ。」
農作業の片手間にやるにしては大掛かりだったため、みんなヘトヘトになりながら川まで向かった。
「あらあら、みんな泥んこだね!」
白銀の長髪と白い肌が綺麗な女の子。
彼女はアエラ。ナディラよりも年上で、孤児院のお姉ちゃんのような存在らしい。
「やあ、アエラ。水汲みかい?ちょうど良いから手伝うよ。」
「いいよいいよ!そんなクタクタな様子なのに手伝ってもらったら悪いよ~!」
「申し訳ないね。代わりに今度良いものをあげるよ。」
「え~なんだろう!楽しみだな~!!」
良い機会だ。ナディラとアエラにシャンプーの効果を検証してみよう。
きっと二人の髪なら良い看板になるだろう。
「なあ、アエラ。今日の夕飯はなんだ?」
「んー、今日はノアたちがとってきた魚でサンドウィッチかな~。ジャガイモもあるから蒸したものも一緒に出そうかな~って考えてるよ!」
「へへ、ジャガイモは大好きだから嬉しいぜ…!」
「わーい、僕もジャガイモを蒸したやつ大好き!」
栄養バランスで言えばまだまだではあるが、畑の改良とシスターたちの祈祷(効果の如何は不明)が功を奏して、お腹いっぱい食べることができるようになった。
「コウノスケが色々工夫してくれたおかげだね。ありがとう、コウノスケ。」
「出来ることをしただけだよ。僕も身元不明の身でありながらお世話になっているからね。」
シスターたちは僕のことを正式に預かる手続きをしてくれた。両親を探すために尽力してくれたが、音沙汰がないための措置らしい。もちろん、両親が見つかれば引き渡す準備もしているそうだが、この世界に僕の両親はいない。
「騙しているようで悪いな…。」
「なんか言った?」
「いや、なんでもないよ。それよりもご飯が楽しみだな!早く帰ろう…!」
なぜ僕がここにいるのか。
あの導きの書はなんだったのか。
調べることは多いが、最低限の生活が出来なければ調べようもない。押し寄せる不安を殺し、今日も記憶を失った少年を演じる。