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はじまりの教会(畑)

ドンドンドン。戸を強く叩く音がする。

早朝から私に用のある人などいないだろう。

以前は妻が朝食の支度ができたぞと起こしに来るか、町内の住人が暇つぶしに訪れてきたものだ。


ドンドンドンドンドン。また戸を強く叩く音がする。

なんだ、誰だ。私の家には私しかいないはず。まさか泥棒か…?

不安に襲われた私は勢いよく体を起こす。

すると私は知らない部屋にいた。


「ここは…。」


眠気混じりで絶好調な私の脳は、ここがどこなのか把握するのに時間を要した。そうか、昨日はここで一泊したのだ。

こんなに固い寝床で寝たにもかかわらず、身体の調子はすこぶる良い。こんなに調子が良いと感じる朝はいつぶりだろうか。


ドンドンドンドンドンドンドンドン。戸を叩く音に怒りの表情が見えた。


「すみません、今起きました。おはようございます。」


戸を叩く人に声を掛け、急いで身なりを整えてから扉を開ける。

そこには今の僕よりもいくつか年上であろう少年が立っていた。白い肌に綺麗な金色の髪で、青い目をしている。ふむ、むかし仲良くしていたドイツ人の彼に似ている。しかし、体格のわりに細身だな…。あまり食べていないのか?


「遅いぞ!シスターに頼まれたから起こしに来てやったのに!早く来いよ!」


ぼーっと考え事をしていたのもあり、どうやら怒らせてしまったらしい。彼は昨日の食卓にいた少年の一人だろう。朝からお使いを頼まれる程度にはシスター達からの信頼はあるのだろう。


「起こしに来てくれてありがとうございます。これからどちらに向かうのですか?」


少年はお礼を言われたのが不思議だったのか、少し呆気に取られた顔をした。


「これから朝仕事をするんだ。俺ら男は農作業、女は掃除だな。お前は今日来たばかりだから俺が何をするのか一日かけて教えてやる。」


なるほど、なかなか聡い子である。一時の感情に身を任せずに、与えられた役割を果たす。頼られるだけの素質があるということか。


「わかりました。今日一日よろしくお願いします。」


そう挨拶をすると、またしても呆気に取られた顔をする。

どうしたのだろうか。不思議そうな顔で見つめ返す。


「お前、何歳だ。」


「僕は多分8歳です。すみません、記憶が曖昧なもので…。」


「ふぅん、そっか。俺はノア、11だ。宜しく。」


ふむ、名前まで近しいとは…。

ここはヨーロッパ諸国なのだろうか…。


「宜しくお願いします。ノア。」


そんな話をしている間に目的地である畑に着いた。

畑というには貧相な土壌と植物。

あまり育ちが良くないのか、実りも少ない。

家庭菜園程度の知識しかないが、そんな私でさえ見てわかるほどに貧相なのであった。

土弄りが好きな僕としてはあれこれ手を加えたいものだが、一先ず指示に従うことにした。


「ノア、今日は何をするのですか?」


「そうだな~、まずは土を耕してくれ。まだ植え切れてない野菜があるんだ。あの辺を適当に掘り起こしてくれたらいいよ。やり方はわかるか?」


「とりあえずやって見ます。何を育てるつもりなんですか?」


「基本的にジャガイモかな…。ただ、あまり上手く育たねぇんだ…。水を沢山やったり、雑草をちゃんと抜いてるんだけどな~…。」


「ふむふむ…。何が原因なのでしょうか。少し調べて見ても良いですか?」


「お前、農業のこと分かるのか?」


「多分、わかる気がします。」


多分とは言ったが、恐らくは土壌の改良が必要なのだろう。

目立つのが水はけの悪さだ。粘土質な土壌に加え、恐らくは沢山水をあげていたのだろう。

堆肥を加えてやればある程度の改善が見込めるかもしれない。腐葉土作りは時間が掛かるので、とりあえず代替品を探しておこう。砂や荒い砂利があればとりあえずはどうにかなるか?

成分分析が出来ないので勘頼りになるが、貝殻を砕いたものも加えておきたい。そんな都合よく手に入れば良いが…。


「ノア、この辺りに川はあるかな?あと、貝殻が欲しいんだけど…。」


「川なら近くにあるぜ!貝殻はここじゃ手に入らねぇな…。何に使うんだ?」


「ジャガイモが上手く育たない理由って、この粘土質な土壌が原因だと思うんだ。本当は腐葉土を作って改良したいんだけど、時間がないでしょう?とりあえずは砂とかで代用出来ないかなと…。」


「なるほど!なら今から取りに行くか!すぐ近くなんだ。」


善は急げのタイプのようで、何故そんなことを知っているのかと問う前に行動に移った。

ノアの言う通り、川は子供の足でも時間がかからない距離にあった。砂や砂利を運ぶのに苦労したが、二人で何度か往復することで解決した。

こんなこと、大人でも大変なのに我ながら良くやるよ…。


砂を運んだ時点でかなりの時間が経っていた。

いつもはすぐに戻ってくるノアであったが、今回は時間が掛かっているためシスターが様子を見に来た。


「ノア、大丈夫?何かあったの?」


「シスター!大丈夫だよ、コウノスケと川から砂を取りに行ってたところなんだ!」


「まあ、砂を?なんでそんな大変なことをしているの?」


「ジャガイモの不作は土壌によるものだと考えたからです。砂や荒い砂利を加えることで少し改善されれば良いのですが…。これだけでは勿論不十分なので堆肥の作成も進めたいと考えています。野菜くずや落ち葉などを集めたいのですが、ありますか?」


軽快に動く身体で農業をしたため、楽しくなってしまったのか口がよく回る。先程まで様子見しようとしていたことをすっかり忘れ、土壌改良に勤しみ始めた。


「えぇ、野菜くずなどなら集められそうよ。けど、どうしてそんなに詳しいの?」


しまった。やりすぎた。

さすがに怪しまれてしまったようだがどう切り抜けたものか…。


「なあ、コウノスケ!この後はどうするんだ?早く続きをやろうぜ!」


ノアが助け舟を出してくれたおかげで作業に戻ることが出来た。シスターにはあとで言い訳を考えておこう。


「では、この砂を土に混ぜてゆきましょう。」


畑の規模は大したことないが、子供の力では時間がかかる。

しかし、この身体は無尽蔵の体力があるようだ。いくらやっても疲れないし、何より楽しい。


暫くすると再びシスターが戻ってきた。


「あなた達、朝ごはんも食べてないでしょ?もうお昼だと言うのに…。泥を落としたら食堂までいらっしゃい。」


なんてことだ、もうお昼になっていたようだ。

二人して空腹を忘れるほどに熱中していたらしい。

お昼ご飯を食べに僕らは食堂へ向かい、急いで食事を済ませて作業を再開した。

…しかし、食料が少ないのか…?

今回はジャガイモを蒸したものもついていたが、ほかはパンとスープだけであった。


「ねえ、ノア。この孤児院ってあまり裕福じゃないのかな?」


「そうだな…寄付のおかげで成り立っていると院長は言ってたぜ。」


「なるほどねぇ…。」


そんなことを話しながら一通りの作業を終えた。

水捌けを良くするための秘策として縦穴を5-6つ掘ったのだ。

これで少しは改善されるだろう…。そう願いたい。


作業が終わり、暫く休憩しているとノアから「どこから来たのか」「これからどうするつもりなのか」など質問攻めにあった。

朝までのノアなら聞いてこなかっただろうが、少し仲良くなれたのかもしれない。

そうしているうちに院長から呼び出された。

ノアとの楽しい時間を後にし、僕は院長室に向かった。


「さて、コウノスケ。お前について少し調べてみたんだ。しかし、自警団に捜索願いが出されている様子は無いし、街で話を聞いてみたが誰も知らないようだ。お前はこれからどうしたい?」


「僕はもう少しここに居たいです。記憶が戻るまでとは言いません。もう少し情報を集めて、一人でも活動できるようになったら出て行きます。何かの役に立つよう努めますので、何卒お願いいたします。」


とにかく必死だった。このまま投げ出されては餓死は確実。

何も知らない土地で貨幣を稼ぐ方法などすぐには見つからないからだ。


「そんなに怖がらなくてもいいよ。初めからお前さんを置いておくつもりだったしね。こんな幼い子を見捨てたら私は院長失格だよ。」


有難いことに暫く置いて頂けるようだ。口振りから察するに、元々昨日の時点でそのつもりだったようだ。何とも徳の高いお人なのだろう。南無南無。

そんなことをしていると、院長は怪訝そうな顔でこちらを見た。


「なんだい?それは?」


「なんでしょう…不思議と身体が動いていました…。」


そろそろすっとぼけるのも難しくなってきた。

この後は色々お話が進みます。

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