空の上の魔法学校
☆第1話 空の上の不思議な世界
千葉県のすみっこのド田舎で暮らす高校1年生の女の子、松本亜夢。
地域の過疎が原因で、来年度からは亜夢が通っている松尾高等学校がなくなり、隣の地区の山武高等学校と合併してしまうという。
現在3月。
4月からは少し遠い学校に通うことを余儀なくされてしまった。
そんなある日、ピンポンと家のチャイムが鳴った。
「亜夢、ちょっと出てくれない?」「はぁい」亜夢がお母さんに言われて、大好きなみかんをほおばったまま玄関へ向かう。
カチャリとドアを開けると、20代くらいの若い男性が立っていた。
目鼻立ちのすっきりした、立派なイケメンだ。
胸元には、魔方陣のような形のピンバッジがついていた。
「あっ、お母さん、いらっしゃいませんか?」
突然、そう聞かれる。
「いますけど・・・呼んできたほうがいいですか?」「はい、お願いします」
亜夢が玄関から、大声で「おっかあさーーん」と叫ぶ。はいはい、と声がして、お母さんが男性を見た。
「もしかして・・・!」「はい、ミラーコロ魔法学園の者です」
魔法学校?
亜夢が首をかしげる。
「亜夢、とりあえず部屋に戻ってて」「うん・・・」亜夢が素直に、部屋に戻っていった。
20分ほどして、お母さんが部屋にコンコンとノックをした。
「亜夢、ちょっとリビングおいで」「わかった」2人がリビングへ向かう。
「あのね、ずっと隠してたんだけど」「うん」「うちはね、魔法使いの家系なの」「はっ??」
亜夢が首をかしげる。
「えっ、ちょっと待って、魔法ってこの世に存在するの?」「例えば、あの空に浮かぶ島。あれは、限られた家系の人にしか見えないものなのよ」
「うそぉ・・・」
お母さんと亜夢が同時にため息をついた。
「でね。」
「うん。」
「あなた今、学校なくなっちゃったでしょ?」
「うん・・・」
亜夢がうつむいた。
「亜夢が高校に入るときも魔法学校のお誘いが来たんだけど、ずっと断ってきたの。」
「どうして?」
「お母さんも魔法学校で高校の間、3年間魔法の勉強をしたの。でも、お母さんは魔法使いにはならずに、普通の大学へ行った。お母さんは、魔法よりも普通の幸せを選んだのよ。そのほうが、亜夢もいいと思ってたの」
亜夢が無言でうなずく。
「でも、高校、なくなっちゃったし、亜夢に興味があるなら、魔法学校に行ってもいいと思うのよね。あっ、もちろん、山武高校と、魔法学校、どっちに行くか亜夢が決めてね。」
実を言うと亜夢は、来年度から行く新しい高校、山武高等学校に行きたくないと思っていた。
一度、学校全体で見学に行った時のことを思い出す。
「あっ、あいつら、松尾高校の奴らじゃない?」
ガラの悪そうな女子が、私たちのことを指差した。
というか、授業中なのに何を堂々としゃべっているんだ。
「松尾高校、つぶれるんでしょ」「気の毒だよねーっ」「制服ダサくない?何あれ」「スカート長すぎじゃね」「リボンないとかキッつ」「てか全員ブスじゃん」「ホントだー」「ハハッ」「フフッ」
馬鹿にするように、私たちに聞こえるように、周りの女子たちが言う。
私が密かにイライラしていると、後ろの席に座っていた、穏やかそうな感じの女の子が、恐る恐る「やめなよ、かわいそうだよ」と言った。
すると、中心の女子がくるっと振り向き、「黙れ生意気ブス」と冷たく言い放った。
隣の子が、「引っ込んでろ」と言う。
さらに隣の子が、「あとでトイレ来いよ」とニヤリと笑った。
ここではいじめが起きているのだと、すぐにわかった。
そのクラスは、私たちが来年から混ざる可能性のあるクラスだ。
無理。
嫌だ。
絶対に、嫌だ・・・
そんなわけで、違う学校に行けるなら好都合だ。
「私・・・っ。私、山武高校、行きたくないの」
「えっ・・・なんで?」
「感じ悪い子たちばっかりだった。松尾高校とは全然違う」
「そっか・・・じゃあ、魔法学校行く?」
「うん!」
亜夢が笑顔でうなずく。
「そうそう、ミラーコロ魔法学校は全寮制なんだけど、それでも大丈夫?」
「寮生活、実は憧れてたから大丈夫!」
「あと、一つ。あなたの名字、本当は『魔津本』だからね」
「ええっ、そんなややこしいの!?」
急すぎる展開に、ついていけない亜夢であった。