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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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魔道具開発部のふたり

作者: 双鼎

名門魔法学園の入学式当日、優れた魔法素養の持ち主たちが揃うこの学園にやってきた2人は、魔法学園でも指折りの貧弱サークル「魔道具開発部」へと入部し出会う。

さて、ここで人物紹介と行こう。

主人公は明るく気さくでお人好し、あふれる才能を無駄にしないためにと故郷のみんなに後押しされてここ魔法学園にやってきた。将来は現代魔法技術では高コストすぎて使える人間が限られる魔法を誰でも使えるようにする夢を持っている。

そしてその主人公のライバル、もしくは相棒ともいうべき人物は、親への義理を果たすためだけに名目上入学したといったスタンスの寡黙な天才、開発した本人しか使えないような複雑で高コストな魔法の開発に励むが、出来上がるのはコストの割に地味な魔法が多い。

奇しくも異なる目的で同じサークルに入った2人の第一印象は当然の如く最悪。主人公が話しかけてもほとんど反応がない無愛想な相方と、日常会話(ムダバナシ)で相方の思考を乱す主人公。

サークルが活動停止にならないようにと先輩が2人の間を取り持ちながら、相棒の開発した魔法を主人公が低コスト化させることでサークルとして着実に実績を残していくとともに、少しずつ2人の仲は良くなっていった。

さてさて、この2人の根底にある思想は性善説と性悪説で真逆のものであった。

主人公は魔法適正の低い人たちのため魔法を簡単便利にしようと考えて改良をする。

相棒は魔法の安全性を高めるためにコストが上がった魔法開発をしていた。

時には相棒がアイデアに行き詰まり、それを主人公が助けることもあるだろう。

時には主人公が知らない魔法を相棒が作ることもあるだろう。

多少の起伏はあれど平穏な日常がいつまでも続くかと思われたある日、唐突にその日常は崩れる。

それはカルト教団かテロリスト集団か、もしくはただのキチガイか、魔法学園に突如として乗り込んできた暴徒によって、学園に混乱が走る。

先日主人公たちが開発した魔法無効化のペンダント、何かの魔法災害からの護身用にと一般向けに販売が始まったそれを身につけた暴徒に悪戦苦闘していた魔法学園側は数の優位で徐々に相手を鎮圧していく。

そして最終局面、生徒の1人を人質にしている暴徒のリーダーと思しき人物が言うには、この暴動は魔法のペンダントを開発した人物を拉致するためのものであったという。

もし出てこなければ人質を殺すと言う暴徒の前に、相棒が名乗りを上げ人質を解放するよう説得する。

人質が交換され、再び場面が膠着するかに思われたその時、普段から本の虫である相棒が、暴徒の首にかかったペンダントを引きちぎって投げ捨てた。

好機であった。

魔法の無効化がなくなれば相棒が小市民に負ける道理など無い。

しかしその期待は裏切られた。

性悪説を信じながら他人の為に身を差し出すような優しさを持った相棒が二次被害を考えない魔法を使うことはない。

そして周囲への被害がゼロになるように複雑に練られた魔法を起動する時間はいかに天才といえどある程度の隙が生じるくらいには長い。

その隙に暴漢が懐から取り出した一本の凶器が相棒の腹部を貫くと、みるみるうちに相棒の身体から植物が生えてくる。

植物の成長促進魔法。

これもまた、2人の研究の成果であった。枯れた土地でも植物を育てる方法はないだろうかと形にした代物、周囲の水分や養分を消費して植物を育てる魔法。土からしか栄養が取れないようにとつけられた魔法的安全性をコスト削減のために消去し、スコップ型にしておくことで誰でも地面に使うよう誘導してある、はずだった。

急速に"養分"を吸われて倒れる相棒。

健康的とは言えないまでも若い肉体の相棒の、服から出ている手は急速にミイラの如く萎れていった。

そんな光景を目にした主人公は、衝撃や困惑、恐怖といったさまざまな感情の奔流に思考を乱され、一つの魔法を起動する。

その瞬間、暴徒は叫び声をあげて大量の血液を噴き出した。

それは魔法が発動している間、果実を擦り下ろしてジュースにする魔法だ。消費した部分を逐次再生する魔法が並列起動しているため一つの果実から大量の果汁を手に入れることができる。反面、複数の魔法が並列で起動される重コストから常人では発動すら不可能な魔法である。

しかし主人公は開発者である相棒と肩を並べる天才であり、ライバルともいえる実力者であった。

そしてそんな使用者が限られる魔法が人に向けて使われるなど二人とも想定しておらず、当然思い至らないことに対策は出来ず、この魔法の使用対象は果実に限定されていなかった。

半ば錯乱状態の主人公と絶叫してのたうつ暴漢は我に返った野次馬によって取り押さえられ、事件は幕を下ろす。

学園の人的被害は生徒一名の死亡のほか、多数の怪我人、建造物の破壊損傷。

その事件の際に生えた一本の巨木は、事件を風化させないようにと保存され、世に広まっていた植物成長促進スコップはこの木の根本に飲み込まれているものを除いて回収、廃棄された。

当初こそ大々的に取り上げられ、政治的問題にも発展した事件は時の流れと共に世間からゆっくりと忘れられていく。

しかし一人だけ、毎日この木の下にやってきては誰かと会話するかのように独り言を呟いては祈りを捧げて帰っていく人物がいた。

この学園の教職員の一人であり、魔道具における技術改革を成したといわれる大天才。

大往生を果たした天才の墓標は、かの木に寄り添うように建てられている。

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