第三話 思考停止
第三話 思考停止
私は4歳からピアノを習っている。ピアノが大好きでずっと情熱を持って練習し、様々なコンクールで優秀な成績を挙げた。フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクール も出場した。
一流のピアニストである寺川先生に師事してずっと頑張ってきた。
指が思うようにうごかない。ミスも多いし簡単なアクセントすらつけられない。
動く。まだ指は動くはず。焦ってもどうにもならない 。
一応一曲弾けるようになりましたぐらいのピアノ初心者の音。
意味ない。意味ないこんな演奏、こんな音。虚無だ。ピアノの音は私の心に響かなくなった。私はもう奏でることができない。
ダン!鍵盤に叩きつけた指は、私の心の叫びだった。音ではなく、痛みが響いた。
「先生!私ピアノ辞めます。今までありがとうございました。」
「あっ。ちょっと美里ちゃん。」先生は言葉では引き止めたが追うまではしなかった。
あんなに頑張ったピアノなのに後悔はなかった。でも清々しいとか晴れ晴れとした気でもない。なんか不快で不安でいいようもない気持ち。
何をしたいのか 何ができるのか どうすればいいのか。不安がわたしの心を支配する。
私は刻々と死に近づいている。一日、一時間、一分、一秒。
たまらない。この情況から逃げ出したい。誰か助けて。
夜も眠れない。寝たら朝は来ないんじゃないかって怖くなる。
夜も昼ももやもやした何とも言えない不安と戦っている。あたしこわれそうだよ。
学校での友達との楽しい会話も不安を作り笑いでごまかしている。
余命宣告なんて小説とかドラマの話ぐらいにしか考えなかった。
でも実際余命一年ですって言われたらどうもできないのにどうしようって自問自答を繰り返すばかり。
いやこれは自問自答じゃないな。
自問自答って言い訳した思考停止だよ。
お読みいただきありがとうございました。この作品はフィクションです。登場する人物・団体・出来事はすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。




