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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード94

ダンジョンを出て、診療所に行くと、ギルドマスターが待ちかまえていた。

ダンジョン捜索強化月間の初日ということもあって、激励を兼ねて、ギルドではなく、ダンジョン前派出所に来ていたらしい。

そこで、僕たちがダンジョンに入った事を知り、フェンリルの戦闘力に期待して、珍しいドロップ品を持ち帰ってこないかと待ちかまえていたのだ。

期待に添えずに申し訳ないのだが、地下2階で引き返したことを伝えると、あからさまにがっかりされた。

どうやら初級の冒険者でも地下第2層までは到達できるらしい。

まあ、知ったことではない。僕の本業は治療だ、毒の治療が、このダンジョン前診療所でのテーマであるから、検査や分析に必要な検体を入手出来ればそれで木曜は達成した。

それよりも、荒事の苦手でお留守番をしていた他の従魔と、その護衛をしてくれていたムートのためにも安全無事に戻ってくる方が重要である。

まあ、「解剖」技能のおかげで、普通のドロップ品ではないところで検体の確保が出来ているので、普通のドロップ品はギルドに買い取ってもらう。

牙だの皮だの爪だのは何の役にも立たない。

早速にも、採取してきた毒を調べたいところだが、ダンジョンに僕らが入っている間に、浅い階層で怪我をしていた冒険者が、治療を待っていた。

ポーションよりは、知慮の方が安いと判断し、怪我を押し切ってダンジョン探索を続けた結果、傷口が広がったらしい。

とはいえ、四肢をなくしたとか、脇腹抉られて内臓まで傷が到達とかではないので、傷口を消毒し、抗生物質の軟膏を塗り込み、傷口を縫い合わせてから、包帯を巻くという応急処置でもやる程度の治療で済んだ。

消耗品は冒険者に直接請求し、処置の費用はギルドが持つ代わりに、ギルドに買い取ってもらうドロップ品の種類や個数に注文が付くという条件で、冒険者の納めるドロップの売り上げ利益から、僕への報酬が捻出されるのだ。

一日金貨1枚は、冒険者でも上位の等級の冒険者でなければ稼ぐことが出来ないほどの高給ではあるが、それでも一日中、患者が途切れず、その大量の患者がギルドにもたらす集計は莫大なものになるのだという。

治癒師に高い報酬を払っても、十分すぎる儲けになるのだそうで、うぃんうぃんというやつらしい。

まあ、消耗品といっても、実質ほとんど自分で調達しているので、それほどのコストがかかっている訳ではないけど、抗生物質の軟膏とか作るのちょっと手間だし、傷口を縫う糸は井田さんの糸を使うので、市販の価格は決して低くないのだが、何せ横で一生懸命糸を作り出してくれているので、ほとんどタダみたいなものである。

市販の洋裁店やスパイダアシルクを調達してくる冒険者のために市販の相場価格を請求しているが、傷口を何針か縫う程度なので、所詮単価が高いといってもたかが知れている。

唐揚げ一個で、その何杯もの糸を吐き出してくれる井田さんのなんとコスパの良いことか。

井田さんは、自分の出番がここしかないとばかりに、せっせと糸を紡いでは、縫合用の針に巻き付け江、準備をしてくれている。

診療所に来る患者の7割は、この怪我による傷口の縫合が、どこかに手順として存在する。

そんななか、恐れていた患者が午後の診察も終わりかけようとしていたときに飛び込んできた。

その患者は熊の獣人だった。パーティーは4人編成で、熊さんはその巨体と重量を活かして盾役を務めているらしい。前衛で真っ先に魔物の攻撃を受けるポジションであったことも災いし、真正面の敵に気を取られている間に足元に気配を消して接近してきた蛇に気が付かなかったらしい。

熊さんのくるぶしには、2本の傷が残っていた。

退却を急いだためか、激しい運動が全身に血液を巡らせ、従って血管に乗って毒も全身へと運んでしまっていた。

こうなってはもう傷口から毒を吸い出すなどという初期の治療は間に合わない。

僕は急いで、患部をさらにメスで開き、その場にとどまっている毒を体外へ排出させると共に、患部を水でよく洗う。

同時に採血して、血液中の毒がどのような影響を与えるかを、シャーレに2,3滴垂らして拡大鏡で検査する。

プルンには、毒の回っていない部位から採取した血液を増血してもらい、輸血して体内に戻す。多くの蛇読破血液中の赤血球を攻撃することで、血流中の酸素を奪い、細胞を壊死させるため、正常な血液が不足することで、もたらされる細胞の壊死は様々な後遺障害を引き起こすことになる。まずは、これを食い止めることが最優先事項である。

プルンには損傷で血管断裂を起こした患者のときのような損傷部位を迂回して血管同士をつなぐバイパスをしないように注意してもらう。プルンの体内に毒が入り込むのは避けたいのだ。たとえ、プルンが体内に入り込む異物を完全に避けることが出来るとしても。

プルンには毒の汚染のない血液を大急ぎで増血してもらい、増えた順に輸血パックに入れて熊さんの体内に送り込む。

その間にシャーレに垂らした血管の中で起こっていたのは、やはり、蛇毒が血液中の赤血球を破壊し、血管の中で血液が凝固してしまうところだった。

コブラの毒と似たような現象を引き起こすらしい。

どこかにマングースがいないかなと真剣に思うが、今のところ蛇に噛まれても平気な動物もしくは魔物の存在は確認されていない。

もしかしたらダンジョンのどこかにマングースのように蛇を狩猟により補食する際に噛まれても大丈夫な防御方法を身につけている魔物が居るかも知れないので、後々の課題としておく。

血清はまだ構築できていないので、今はひたすら患者本人の生命力に賭けるしかない。

プルンが一生懸命、新しい綺麗な血液を増産し、体内に送り込み、赤血球の破壊された悪い血液は、体外に排出することで、血液を入れ替えていくようにする。

原始的な方法ではあるが、一応有効なはずだ。

それにしても、この世界の人たちは、患部より心臓に近いところできつく縛って血液の流れを止めることで、毒が体中に広がるのを防止するという方法は知らないのだろうか。

ずっと血液を止めると、別の支障も出るが、短期的に血流を止めることによって毒を広げないことによるメリットの方が大きい。ダンジョンの深部で被害にあったら、出口前の診療所まえ間に合わなくなる。

適切な応急措置と、やはり一日も早く血清を作り上げることが重要だろう。

熊さんの冒険者は熱にうなされて苦しそうだ。体の中で一生懸命に白血球が毒と戦っているはずだ。

プルンが休む間もなく、毒に犯されていない血を作り出す。

毒性の強い血は肝臓に溜まりやすく、臓器不全の原因になる。真っ先にダメージを受けるのは肝臓だ。

間に合うかどうかは分からないけど、患部周辺の毒の濃度が一番高いであろうことは間違いないはず。被害にあった時間にもよるけど、患部よりも心臓に近い静脈を斬りつけて、患部から心臓に向かう血液を体外に排出してしまい、新しい血をそこから輸血する方法がどれだけ有効かは分からないが、毒の含まれていない血液の濃度が高くなるほど、毒の比率は少なくなる。臓器不全をもたらす毒の濃度に閾値があるかどうかは分からないが、取りうる手段は執るべきだろう。

その日の夜未明に熊さんはあわやというところまでいったが、なんとか持ち直し、夜明け前には目を覚ますことが出来た。

ひとえに体力があったことと、万全とはいえないにしても、毒消しポーションを患部に古掛けていたことで、なんか魔法的な効果があったんだと思う。知らんけど。

一応、今後のために、毒まみれの悪い血を体外に排出するとき、その血液をサンプルとして保存しておいたので、ダンジョン内で入手した蛇と蛙の毒、蛇の血なども合わせて研究を進めたい。

熊さんは、鹿の獣人と狐の獣人とリスの獣人と一緒に「北の国から」という冒険者パーティーを組んでいて、パーティー内では、熊さんの獣人が一番の攻撃力を誇っていた上、パーティーメンバーは熊さんが身を挺して守ってきたため、その熊さんが明日をも知れぬという状態になってパニックを起こしていたが、夜明けに目を覚ました時は、逆にうれし涙で涙腺が崩壊していた。

それにしたって、毒蛇や毒蛙対策なしに挑むのは危険すぎる。

当の熊さんだけでなく、パーティーメンバー全員に代わる代わるに御礼を言われたが、御礼はプルンに言ってくれと伝えたところ、一斉にプルンに御礼を言い出した。

プルンはぶるぶるっと震えて、僕の白衣の中に隠れてしまった。

照れているのかな?

けど、解毒のメカニズムが分からない状態で、いきなり危険な状態の患者を目の前にして、慌てざるを得なかったのは紛れもない事実、このままではそう遠くない将来、命を失う冒険者が出てきてしまう。

僕は焦っていた。

とりあえず、時間のない今の内に出来ることといえば、応急措置の方法を伝授しておくことである。

前世では、蛇に噛まれたらすぐ、患部に口を付けて毒を吸い出すという方法が民間伝承として伝わっているが、間違いである。もっともこの世界にはそのような方法は知られて居らず、毒蛇に噛まれたら毒消しポーションというのが定番である。

それでも、万能ではないようで、全く効果がないものから、なんとなく効いているかなと思わせてくれるもの、実際に有効なものまでいろいろある。

このうち真ん中のものは前世でも、誰にでも使える「プラシーボ」という魔法のことだ。

意外と最後に頼る手段としてうまくいくこともあるので、覚えておいて損のない魔法ではある。

まあ、冗談はともかくとして、僕はギルドマスターがダンジョン前派出所に居る間に、交渉して、毒蛇と毒蛙の注意点などの講習と、万一怪我をして毒が体内に入った場合の応急処置などについて講習の機会を作ってもらった。

パーティー「北の国から」のメンバーも真剣に話を聞いてくれ、他にも駆け出しの冒険者と思われる何組かは、同じように真剣に講習を受けてくれた。

ダンジョンというところは冒険者にとって、大切な稼ぎ場であると同時に最も命を落としやすい場所なのだそうだ。

そんなところに予備知識もなしに向かうのは、それこそ愚の骨頂と言えよう。ほんの僅かな知識が生死を分けることもあるのだ。ところが冒険者としてランクが上がると、何故か自分だけは大丈夫、蛇に襲われて死ぬのは弱いからだと舐めてかかる冒険者も全くいない訳ではない。そういうのは正直歯がゆいのだが、何もできない。同行してダンジョン内ですぐに手当をするつもりはないからだ。

おそらくギンやムートが同行すれば、僕が一番ダンジョン内を安全に移動出来るのだろう。しかし、それはギンやムート、それ以外の仲間を危険にさらしていることに他ならない。

毒蛇の生態調査には赴くけど、個々の冒険者のために治療担当として同行するなど、そんなつもりはない。

講習に参加するしないは各冒険者の自由だが、僕は、まず、蛇に噛まれたときの対処方法として、患部をすぐにナイフで切り開き、外気に当てること、うまくいけば、切り口から毒が体外に排出されることを伝える。多くの蛇読破嫌気性、つまり空気に触れることで毒性が弱まる性質をもっている。

この特質故に、患部をナイフで切り開くことで、大気に触れさせるというのは有効な毒蛇への対処方法になるのだ。

もちろん主要な動脈の近くを咬まれた場合、この手法は取れないし、大動脈に毒が合流しようものなら、あっという間に心臓に達し、その後各臓器に広がり、赤血球を破壊する性質のものなら、細胞に酸素が行き渡らずに壊死し、そのまま臓器不全で死を迎えることになるが、多くの場合、咬まれるのは、足の露出している部分である。セルパもそうだが、蛇にはピットと呼ばれる、鼻先の突起にある小さな感覚器官で熱を検知して、獲物を特定し攻撃するため、必然的に目線の高さにあり、体温が漏れやすい露出部分を狙われるのだ。

逆に言えば、厚手の皮で深めのブーツを履くことだけでも、有効な蛇対策にはなる。

そのようにくるぶしやふくらはぎの部分が統計上患部として最も多いのだから、傷つけて多少出血が多くても、すぐに命に別状のあるということにはならない。

次に、激しい運動を控えた上で、すぐにダンジョンから出て、治療に当たることである。

動くなというのとダンジョンを出ろというのは一見すると矛盾するようだが、そこで担架の出番である。パーティー仲間に搬送してもらうことで、患者は動かずに搬送することが出来る。またこのとき、必ず、患部よりも心臓に近いところをきつく縛り、血流を止めて、毒が血管を通じて体全体に運ばれること、取り分け心臓に達することを防いでおくことが必要である。

また、このとき、患部を心臓より下にくるようにして搬送することが重要である。多くの場合、担架から患部の足だけをぶら下げた状態で運ぶとかである。もちろん体内の中心部、心臓に毒が到達するのを遅らせるためである。

そして、どうしても間に合いそうにない場所で咬まれたのであれば、最悪咬まれた足を切り落としてしまうことも考える必要がある。いくら大切な足とは言え、足一本と命では比較にもならない。

まあ最後のは講習に際して笑いを取ることも必要かなと思ってネタっぽく言ってみたのだが、静まりかえり、笑いを取るどころではなかったことを指摘しておこう。






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