エピソード90
この国はどうやら元々獣人の国で同盟を結んで連合国になったのを機に、他の従属の人たちも増えたらしい。見渡す限り人口比では獣人のそれが突き抜けて多い。
ゾディアック王国では、獣人を蔑みの対象としていることから、むしろ、国境から遠いところに移り住むのかと思いきや、自分たちの故郷にとどまる人は多いとのこと、帰巣本能が遺伝子に組み込まれているような感じだ。
当然そんな場所だから、獣人に対し差別意識を持つような人間は、むしろこの国では住みづらく、まだ入国して何日も経っていないが、以前冒険者ギルドで見たような光景は存在しなかった。
それだけで、どれだけ、この国に対する好感度が上がるかという話である。
「ギン、ムート、プルン、井田さん、タラちゃん、ミニホ、セルパ、僕はこの国方があっちの国よりずっと居心地が良いよ。しばらくこの街に滞在するよ。」
僕がそういうとみんなも賛成してくれた。
ギンとムートとプルン以外はどこでもあまり大きな違いはないように感じていたが、人間の心の機微に敏感な初期メンバーの3匹は、僕の言うことがよく分かるらしく、賛同してくれていた。」
そうと決まれば、とりあえず冒険者ギルドでクエストをチェックしよう。気候が大分変わったから、ここならではの薬草なんかもあるかもしれない。
「あるじ、また草取りにいくの?」ムートが尋ねてきた。
「ダメかな?」僕が質問に質問で返す。
「ダメじゃない。あるじがやりたいならついていく。」
「ついでにミニホが好きそうな草があったら、そっちもたくさん採取しておくぞ。」
せっかくの草原や森での採取なので、ギルドに納めるもの以外にも有用なものはたくさん確保しておきたい。
僕がそういうと、ミニホは嬉しそうに近づいてきて、頭を僕の脇腹にこすりつける。
僕たちは話しながら歩き、昨日も来たギルドの前まで来ると、中に入っていった。
ギンが入れるのだから、入れない従魔はいない。建物の前で待たせることがなくなって、にぎやかになった。
掲示板にはたくさんクエストが張り出されていた。クエストが多いというのは、内容にもよるけど、街に活気がある証拠でもある。
魔物の討伐依頼は、近くに脅威があることを意味する事も多いが、素材の納品であるならば、それだけ魔物素材を必要とする人が居る証拠であり、股街や村への脅威を除去するという意味なら領主や街、村が依頼主になるが、この場合もそこに暮らす人の安全のために依頼を出す余裕があることを意味し、討伐依頼が多いのは領主がまともであり、かつそのための資金も潤沢であることを意味する。実際魔物の脅威にさらされると行商人がよりつかなくなり、経済が停滞することもある。
僕は掲示板から、採取のクエストをまとめて受注する。
この街の冒険者ギルドでの薬草採取は大きく分けると、近隣の草原や森が採取ポイントになるものと、ダンジョンが採取ポイントになるものに分けることが出来た。
もちろん、僕たちは草原での採取を選択する。
ダンジョンで採取される薬草は普段僕らが依頼を受ける薬草よりグレードの高いものが多い。それというのもダンジョンの性質に由来する。ダンジョンはこの世界にあr魔力の構成単位である魔素と呼ばれる物質の濃度が地形やよく分かっていない原因により、特定の場所で高くなることがあり、その濃度が一定を超えると、その地に影響を与えて、土地の形状に合わせた迷宮を組成することがある。これがダンジョンと呼ばれるもので、ダンジョンも特殊な魔物の一種で生命体と考えるのが現在では最も有力な説だという。
ダンジョンという魔物は、外部から栄養素となる魔力を取り込んでさらに複雑化巨大化しようとするために、いろいろな誘引の材料として、上級な魔物の素材を入手する機会であったり、あるいはもっと端的に人にとって価値の高い財物を宝箱に入れて、ダンジョンの至る所に配置することで、人をして足を運ばせ、ダンジョンの中に取り込もうとする。
一方で、そうやっておびき寄せた人を、殺してダンジョン内に取り込むため、至る所に罠をしかけ、あるいは魔物をして襲わせるなど、どういう仕組みなのかは分からないまでも、その繰り返しによって成長衰退していく存在であった。
そして、一攫千金とはいえ、命の危険も多いため、ダンジョンの中には入らないという決断に人間が至らないように、あまりに手つかずのままだと、いずれダンジョンから魔物があふれ出し、スタンピードによってダンジョンに来ない人間に襲いかかるという脅迫をもって、人間をしてダンジョンに足を向けるように仕向けるのである。
この不思議でかつ絶妙な自然界の摂理によるバランスの上に、人と魔物の生存の境界が存在する。
まあ、ダンジョンでの一攫千金は希望する冒険者に任せて、僕たちは平和的に草原や森での採取活動にいそしむことにしよう。
僕はいつもの「体力草」、「魔力草」、「傷なお草」の採取依頼を受けた。
受付の人は、6級の冒険者なんですから、討伐依頼を受けてくださいと言っていたが、別に好きで6級になった訳じゃないし、「荒事は苦手なので」と断ると、複雑そうな顔をされ、僕の顔を見た後、斜め後ろにいたギンをじっと見つめていた。




