エピソード89
僕たちは馬車に別れを告げて、その場を立ち去ろうとする。
すると、エルフの幼女と同行するエルフの女性が、自分たちは乗合馬車から、僕たちとの同行に替えたいと言ってきた。
僕は、「それは遠慮する。」とやんわりと断る。
「どうちて、ダメでしゅか?」と噛みながら涙をためて上目遣いで尋ねてくる。
心にくるものがあるが、自分たちの勝手で他人の危険に巻き込む訳にはいかないと世tめいし、涙目の幼女を宥める。
付き添いの女性にも、「なんとかしてください。」とお願いする。しまいには、野盗から助けて上げたのだから、その御礼だと思って、別行動にしてください、と意味も分からない話になった。
心を鬼にして幼女の「お願い」を振り切り、再び僕たちはまだ見ぬ町へと思いを至らせる。
先ほどの馬車、馭者も獣耳の男性だったけど、乗客もエルフ2人の他にもいろいろバリエーションがあった。
王国のような人間至上主義を露骨に示す人はいなさそうだ。この国は好きになれそうな気がする。少なくとも名前もしらんけど、王国よりは好きになれることは断言出来る。
僕たちは、「揺れない馬車」に揺られながら、道中をゆっくりと進むことにした。
乗り合い路線馬車と違い守るべき時刻表もない旅である。
イメージは寝ころんだ鼻先に蝶がとまる的な、牧歌的アニメシーンを所望致します。
どこの国であっても、国境付近の町というのは防衛の要所であり、かつ交易の拠点でもある。
国家の中枢を担う養殖にはそれなりに地位の高い人物が統治するのだろう。
なぜ、こんな感想を持つかって?
町の規模が大きかった。
特に国境に向かう道に面した擁壁の高さは、3階建ての家と同じくらい、言葉を換えれば、元通りのサイズに戻ったムートと同じくらいの高さがある。
それだけで、壁の大きさが分かるというものである。
門の前には、国境との往復が路線馬車によるものが主流であることからか、途中で手助けした馬車伸す型が見えなくなっていたこともあって、誰もいなかった。
徒歩で国境から街に入る人は少ないらしい。
道中はずっと下り坂なので、国境からこちらは歩いて町に向かう人が居てもおかしくはないだろうが、いわゆる個人所有の馬車なども見あたらなかった。
まあ、待ち時間がなくて良かったと考えよう。
僕たちは町の入り口で、ギルドカードを提示して、街に入った。
冒険者ギルドのカードは世界共通の身分証明になるらしく、犯罪歴なども自動で町側の推奨版に情報更新されるという、文明が進んでいるのか遅れているのかよく分からない状態になっている。
たとえるならICチップ入りパスポートというところか。
国は変わったにもかかわらず、町の構造はなぜか大小規模の違いはあれ、正門付近に冒険者ギルドがあることや、大通りが町の中心を通ること、中心に噴水があることなど、都市計画を同じにしなければならない決まりでもあるのか、というくらいに同じである。
まあ、旅館と大衆食堂や武具屋などは各店主が思い思いに店を構えるので、前の町で武具屋が冒険者ギルドのとなりにあったからといって、どこの町でも同じということにはならないが。
僕たちは、まずは、テント村の場所を尋ねるべく、冒険者ギルドを訪れる。
驚いたことに、ギルドの入り口は非常に大きく、天井も高かった。通路も広く、つまりギンが一緒にギルドの中に入ることが出来たのである。
ギンが屋内に入ると一瞬にして室内が静まりかえった。
僕たちは気まずい感じでそのまま通路を歩く
真正面のカウンターにいたのは、ばにーちゃんな長い耳を持った受付嬢だった。
兎の獣人は見た記憶ないな。ライラさんは狐だったし、ヴォルフは狼獣人だった。
他は町中で見かけたかもしれないけど、会って話をした獣人はそれくらいかな。
僕はカウンターの前に誰も並んでいないことを確認して、テント村の場所を尋ねる。
シリウスの町で冒険者登録したときにもらった冊子には、ギルドの入り口から受付までの数mを歩くだけで、「ようようにいちゃん、おまえみたいな弱そうなのが、ギルドになんの用だ?冒険者は危険な仕事だぜえ、僕ちゃんは帰ってママのおっぱいでも摺っていろよ」と声を掛けられるので、出来るだけ人の少ない時間に行くこと、という記載があった。
今のところ、そういった場面に遭遇したことはないので、マニュアルに書いてあっても出現頻度はそれほど高くないのだろうと推測する。
本当はギンの存在に威圧されてそれどころではなかったのだが、そんなことを知る由もない。
「初めて見るお顔ですね。ギルドへは登録ですか?」目の前のバニー、ゴホン、受付嬢さんが話しかけてきた。
なお、服装はギルドの制服らしく、9時の方向にある別のカウンターの前にいる人も同じ服を着ていた。
「あ、いえ、冒険者です。ゾディアック王国で活動していましたが、ちょっと前に国境を越えて、こちらの国に来ました。この街のテント村の場所と、あと市場なんかも場所を教えて頂ければと思ったのですが。」
「失礼ですが、宿には泊まられないのですか?」
普通は駆け出しの冒険者はクエストの報酬も低く、武器や防具、ポーションなどの資金のため、宿泊費用を節約することがあるが、目の前の冒険者は、本人の持つ雰囲気は強者のそれではなくても、横にいる明らかに尋常ならざる巨大な狼を従えているのであり、冒険者の等級が低いはずがない。
それなら、冒険者として体を休めるため大切さを知らないはずはないし、そのためにお金をけちることもないはずなのだけど・・・
「あ、僕たちも宿に泊まりたい気持ちはあるんですが、ここにいるギンが部屋に入れず、馬小屋を案内されたり、ひどいときには、獣を中に入れるな都怒鳴られるので、もうテントで寝泊まりするようにしているんです。ギンは大切な家族なので、別扱いになるのが嫌なので。」
僕がそういうと、ギンが隣で尻尾を揺らしている。嬉しいのにクールを装っているのがほほえましい。
「そうなんですか?そちらの大きな狼さんも一緒に泊まれる宿もありますよ?」
「えっ?」僕は受付嬢の言葉が終わらないうちに食い気味に詰め寄る。
「ちょっと、落ち着いて下さい。」
「あ、失礼しました。」
「確かにそちらの狼さんは巨体なので、多くの宿で断られることもあるのだと思いますが、この国は獣人とドワーフとエルフのそれぞれの国が集まって出来た一つの国です。獣人の中には、大きな従魔を連れて歩く人たちも珍しくありません。そのため、この街の宿の中には、大きな従魔用の部屋を用意するところも少なくないのです。もちろん、割高にはなりますが。」
「全然構いません。ご紹介下さい。」
ギルドに紹介してもらった宿は入り口からして大きかったが、部屋はもっと大きく、ギンも窮屈にならずに入ることが出来た。
宿の主人は狼の獣人で、ギンをまるで神であるかのように崇めて、怖いくらいだった。
僕たちは、まずは一晩宿泊し、気に入ったらそのまま、この街に滞在する間の拠点とすることを伝えて、明日の朝またその後をどうするか伝えた。
料金は一泊で大銀貨3枚と、日本でもなかなかに高級と言える宿であるが、ギンが一緒に室内に泊まれるなら、その値段も全然惜しくはなかった。
従魔が居ても、一人分の料金というのはかえって申し訳なかった。食事はその代わり、追加料金で一人分追加ごとに銀貨7枚で、夕食と朝食付きなので、3人分注文し、それと別に草食のミニホのために馬用の飼い葉を頼んだ。
高級宿の定番として、馬小屋が併設されており、馬車で来訪する貴族や商人、騎馬で来訪する騎士なども常連客に持つ宿ならではのサービスだった。
もちろん、部屋を壊したり、汚したりすれば賠償を払うことになるが、僕の仲間にそんな行儀の悪いのは居ないので、何の心配もない。
宿が快適以外の何物でもなく、ベッドはふかふかだった。
もちろんギンの背中もふかふかだけど、それとは違って沈み込むような感じが、深い眠りを誘うこの世界で初めてといっていいくらい心地よい眠りを堪能できた。
もちろん、翌朝真っ先に宿泊円超を申し出て、10日分を取り合える、同じ条件で3人分の食事付きで払ったら、金払いのいい客だと驚かれた上に、ミニホの飼い葉は料金に込みとなった。
僕たちは、宿を出発する前に、部屋に「浄化」の魔法を使って綺麗にしたところ、ルームサービスが不要になったことで、感謝というより驚かれた。
泊まらなかったのかとも尋ねられたので、従魔が同じ部屋で宿泊するのは問題なさそうだ。




