エピソード88
そのころ、ケントはまだ、国境の関所手前に居た。
上り坂の終点となる峠を挟んで向こう側は獣人の国と、ドワーフの国とエルフの国が、三国同盟により、互いの国境を廃止して相互に通行を自由にした上、関税も撤廃したという連合国みたいな構成になっていた。
話を聞く限り、こんな貴族主義の王国と違い、すばらしい国のようだ。
ところが、もうすぐ関所が見えてくるというところでギンが立ち止まる。
「ふむ、なにやら不穏な空気のようじゃの。普通の検問ではなく、人捜しをしているらしいぞ。もしかしたら、主殿を探しているのかもしれんの。関所は先ほどの町の領主の管轄であろう。あの騎士の不遜な態度はsておくにせよ、領主邸まで来いという命令を無視しているのだから、何かあるのかもしれんの。」
うわーなんて面倒な。
「けど、そんな指名手配みたいな話なら、ギルドカードのチェックで分かるはずなのに、なぜ一人一人顔を見て判断しているのかな。」
疑問が超えに出ていたみたいだ。
「ギルドカードは本当に犯罪者でないと反応しないからな。貴族の都合で勝手に指名手配にしても犯罪を犯していないものは犯罪者ではない。」
まあ考えてみればそうだよね。冒険者は国境を越えて活動するのに、一国の貴族の思惑で、他国に居る冒険者にまで迷惑が生じたら冒険者カードの信用がなくなるよね。
「それにしても主殿の捜索かどうかは分からないが、リスクを冒す必要もなかろう。ここは一旦戻って、主殿の見た目を変えて出直そう。」
僕らは一旦脇にそれて、作戦会議を始めた。
まず、目立つギンとムートは大回りして、関所の向こうで合流することになった。
関所に詰めている兵士がいきなり危害を加えてくることはないと思われるが、その場合、ギンとムートが合流するまでなんとかタラちゃんと僕で、しのぐことに。
ギンはサイズが変わらないけどムートは小さくなれることから、ムートは万一のことがあったらと一緒に行くとごねたが、ドラゴンの希少性から素性が明るみに出ることも懸念し、ムートは、見つからない上空高めのところを飛んで関所を超えることになった。
次に、僕の見た目だが、おそらく特徴として強調されるのはこの世界では髪の色と目の色だ。
黒目は珍しいにせよ、それだけで断定出来るものではなく、残念ながらこの世界にはカラーコンタクトがないので、目の色を変えるのは無理だ。
となれば、髪の毛の色だが、カツラを作るしかない。
そこえ、活躍するのが井田さんだった。井田さんの糸はちょうど髪の毛と同じ細さで、しかも輝く銀色である。
髪の毛を染める方法もないので、井田さんの糸を集めて、即席のカツラを作る。
まあ、ざっくりしていて、およそ不格好な髪型にはなったけど、関所を超えるまでの辛抱だ。
それにしても井田さんの糸もタラちゃんの糸もすごく高いのに、惜しげもなくワンポイントのカツラに使うというのは贅沢だ。
後で浄化したら縫合糸に使い回せないかな?
名前は明らかに男性名なので、あまり髪の毛が長いのは不自然になる。短いと地毛の黒髪がばれるリスクが高くなる。
この世界の貴族はなぜか髪の毛が長めだから、肩ぐらいまで伸ばしててもぎりぎりセーフか。
そんなことを考えながら即席の銀髪ケント君ができあがる。
鏡はないけど、まあプルンが大丈夫というのであれば大丈夫だろう、多分
ミニホだけを連れて、旅の冒険者を装う。プルン以下ちっちゃい組は全員肩掛け鞄の中に身を寄せ合って縮こまってもらう。
タラちゃんだけオーバーサイズなのだが、ミニホのお腹に隠れてひっついてもらう。
何かあった場合に、ギンとムートが合流するまでは荒事担当はタラちゃんしかいないので、これ以上離れる訳にはいかない。
数時間後、関所に、不自然なまでにさらさらヘアーの銀髪の貴公子が現れた。
関所で規定通りに冒険者カードを犯罪歴の有無を確認するという水晶板に充てても、反応しない上に、手倍されている黒髪黒目の男性一人、なにより大きな白銀の狼と白い小さな竜を連れているという要件に当てはまらないため、無事に通り抜けることが出来た。
そのまま少し離れた先には、連合国側の関所があるが、もとより変装を解いても問題なく入国出来る状態であるが、すぐ手前に先ほど抜け出したばかりの王国の関所詰めの兵士が見える位置なのでそのまま通り抜ける。
今度は下り坂になるので、ミニホと駆け足で下り、見えなくなったところで、ギンとムートが急いで合流してくる。
こうして異世界2つめの国にケント達は入った。
国境の長い下り坂を抜けると、そこは草原だった。
緯度が上がったのか下がったのかは、この場所が南半球なのか北半球なのかも分からないし、そもそもそんなものがあるのかどうかも分からないが、南?に行くほど気温は上がっていることから、緯度が下がり、北半球にいるのではないかという予測は一応立つ。
気温が北の王国に比べて高いことから、草原に咲く花は満開といってよい。むしろ、デ・カーミッツ・ビー達の新しい住処に、こっちを提案してもよかったかもしれない。
もっとも、まだ第一村人とは遭遇していないので、なんとも言えないが。
ここからは、とりあえず国境に向かってまっすぐ伸びていた道を国境と反対方向に進めば、早晩どこかの町に出会えるだろう。
徒歩で歩くのも穏和な気候の下悪くはないが、馬を帯同させながら徒歩というのも傍目に不自然ではあるので、ミニホの希望もあって、馬車を出して、ミニホに牽いてもらうことにした。
もちろん、馭者台に僕が座り、ギンは馬車の横を馬車の速度に合わせて歩いている。
ギン曰く、馬車の中では、いざというときにすぐに行動が取れないらしい。
僕が馭者台に座ると、ムートも馭者台のすぐ後ろの屋根に乗る上に、プルンは定位置の頭の上だし、セルパも井田さんもタラちゃんも馭者台の周りに集まってくるし、で誰一人馬車の中に居ないのに馬車が走るという、不自然きわまりない状態で草原の中を馬車が走っていた。
さすがにこれだけ見通しがいい草原で盗賊は出ないよね?




