エピソード86
翌朝、僕と従魔達は、修道院の人たちと一緒に朝ご飯を食べた。
本日中に町を出ること、公衆浴場の施設や屋台で販売しているかき揚げのレシピなどはそのまま修道院に寄付することや、敷地も修道院の建物も侯爵様が、修道院の仕様を永年保証してくれることを伝えて、お別れをしていた。
そんなときに、領主からの使いが来て、「直ちに領主邸に出頭するように。」と騎士の格好をした多分騎士がそう告げてくるので「領主様には、今すぐ町を出るため、お伺いすることは出来ません、とお伝え下さい。」と返答し、そのまま立ち去ろうとする。
するとその騎士は突然激高し、「貴様、領主の命令が聞けぬと申すのか。身の程知らずにもほどがある。」と吐き捨てた。
一体僕が何をしたというのか、それほどまでに怒りを買う様なことをしたというのか、関わらずに、公爵の次女も王女もあのまま命を落としていればよかったとでも?
「領主様にお伝え下さい。私が一体何をしたというのか、ご令嬢の命を救い、今また王女の命を救った私に、このような仕打ちをされるのは、一体何故なのか、と」
僕の言葉を聞いて、途端に騎士の顔が青ざめた。
「い、いや私は何もそんなつもりで、」
「いえ、もう良いです。二度と関わりたくないので、領主様には、もう顔を合わせることもないと思いますので、御気分を買いされることがあったにせよ、不快に思わせることはもうないと思いますとお伝え頂ければ。」
「い、いや、それは困る。私は領主様に貴殿を連れてくるように命じられておるのだ。」
「先ほどのご自身の発言は覚えていらっしゃるでしょう。私はこの国の民ではないので、貴殿の主が公爵だろうと王族だろうと、当方には全く関係のない話であり、かつ従う理由もないので。ご安心下さい。私はこのまま隣国に向かいます。どのような理由でご立腹かは存じませんが、侯爵様が敵視されておられるのであれば、二度とご無礼のないようにこの国にはもう足を踏み入れませんので、とお伝え頂ければ。」
「い、いや、先ほどの無礼は謝罪する。なにとぞ、同行頂けないだろうか。」
「いやですよ。不敬で無礼討ちとかになったら困るので。」
僕はその言葉を最後に修道院を後にする。
領主の使いだと言う騎士はその場で項垂れていたが、なぜ、こちらの都合も無視して呼びつけようとしたのだろう。
僕たちは、これ以上もめ事に巻き込まれたくないので、足場やに町の門を出た。このまま南下すれば、国境、そして隣国への関所と続いていく。
と、ここではたと思い出す。
「あーーーー、そういえば、デ・カーミッツビーとの約束が。」
僕はあわてて、町の木工職人を商業ギルドで紹介してもらい、巣箱の注文をした。
時間がないので、注文を優先してもらうために、本日中に完成したら代金の倍額を支払うと伝えすぐに取りかかってもらった。
職人の作業の合間に、中に入れる暖房の魔導具を雑貨屋に買い求めに行く。国の中でも南に位置するこの町では、温暖な気候が災いして、暖房の魔導具は竜津市内分、アンタレスよりも価格が高かったが、美味しい蜂蜜とローヤルゼリー、それに石けんの材料の蜜蝋、油圧式サスペンションにも使える、のためならお金を惜しんでいる場合ではない。
高性能なものほど、小さな魔石で作動させることが出来るので、そこはお金の使いどころを間違えない。ゴブリンの魔石でも作動する暖房魔導具を購入して、工房に戻る。
ギンは大きくて目立つので、何故かは知らないが、領主に目を付けられている今は、ギンとミニホには職人の工房の近くの路地裏で待機してもらい、町中の護衛はそれほど危険もないのでムートに頼むことにして、大通りの雑貨野は避けて人通りの少ない小さな雑貨屋で暖房具を求めた。
工房に戻ると、もうすぐ完成するとのことだったので、そのまま工房併設の注文カウンターの脇で待たせてもらい。完成品の確認をして、約束通り代金の倍額を払う。
ここから、街の外に出るのだが、門から出るには町中に滞在していた時間が長すぎた。
もしかすると門番には僕たちの情報は伝わっており、足止めされるかもしれない。
なぜ、こんな指名手配の犯人みたいな扱いを受けるのか身に覚えがないのだが、貴族にたてついた自覚はあるので、逃げ出すことにする。
ちょっと前なら、ギンの背中に乗って、ギンに町の擁壁を飛び越えてもらうという方法が使えたと思うのだが、ミニホがギンの背中に乗るには、しがみつくことが出来ない。
そこで僕たちは貧民街の奥まった町はずれで夜を待ち、闇夜に乗じて、ムートに乗って飛び去ることに決めた。
深夜になって、僕たちは町の門とは明後日の方向にある貧民街の奥から、町の壁を乗り越える。
ミニホは、ムートの背中で僕がかかえ、その僕の体をギンが支えてくれて、壁を乗り越えたところで、すぐに着地した。
ミニホは自分が足手まといになっていることに落ち込んだが、ずっと馬車を引き続けてくれた功労者を責めようとするもの等僕たちの中にいるはずもない。
いずれ、ムートに装着して乗り込むための篭を作るんがいいかもしれない。
あるいはシャリオット型の馬車をもう一台作って、ムートに繋ぐ、空飛ぶ馬車
ちょっとロマンを感じさせる。ただ、ロマンチックに見えるのは離陸して空を飛んでいる間だけで、着陸時にどう考えても衝撃に耐えられない。
夢は夢のままでかな。
やっまり実用を考えればムートの背中に鞍よりも大きな乗車台を作るのが現実的だろう。
さておき、ムートが元のサイズのままというのはいくら夜中で辺りが暗いとはいえ、目立つことこの上ない。ムートにはすぐに小さくなってもらい、馬車を取り出して、その日は、町の壁の前で馬車の中で寝た。
翌朝から、デ・カーミッツ・ビーの新しいコロニーのための巣の設置場所を探し始める。
蜂さんたちと別れてから、いろいろ有りすぎて、約束の日までは後一日しかない。
まあ、間に合ったので、約束をすっぽかさなくてよかったのが幸いである。
蜂さんたちの以前の巣は草原の中の背丈の低い木の脇だった。
やはり、あれでは目立つかもしれない。
決して好戦的な魔物ではなく、巣を襲う者に対し、防衛のために攻撃しているだけだから、ある程度見つかりにくいところに巣を設置してあげるのがいいかもしれない。
まあ、こういうのは、まず本人の希望を聞いてからだけど。
僕は従魔の中で唯一空を飛べるムートに、この辺りにお花畑があるかどうか探してもらうことにした。
草原にお花畑があれば、その近くの森の入り口で、できるだけ人が寄りつかなさそうだ、特に木の鬱蒼と茂った場所の灌木の中に、巣箱を埋め込んで、入り口だけ地面すれすれに出して、木の枝などで、デ・カーミッツ・ビーだけが通れる隙間をつくれば、巣としてかなり安全になる。
さしあたって、天敵は、熊と肉食系の蜂と蜘蛛だろう。タラちゃんくらいに大きな蜘蛛では使えてしまうくらいの入り口にしておけば、蜘蛛に巣の中まで襲われないし、巣穴辛さらに複数の方向に出られるように木の枝で覆うのを調整すれば、巣穴の前に蜘蛛の巣を張られることもない。
熊が蜂蜜を狙った場合でも、本体が土の中にあれば、気付かれにくいし、周りに蜜の臭いももれにくい。
もちろん、スズメバチっぽい、蜂にはくぐる事の出来ない大きさしか入り口が開いてない。
しばらくするとムートが戻って来た。
戻ってくる方向に広いお花畑を見つけたらしい。
時を同じくしてギンが、「蜂の群れが、背後の町に向かって飛んで来る。そうだな、ここだと気付かれずに、すれ違ってしまうかもしれんの。ムート、タラちゃんを連れて迎えに行ってもらえるか。主殿がせっかく場所の提案までするためにここまで来ているのだしの。」
「うん、分かった。」ムートはタラちゃんくらいだったら、大きくならなくても運べるので、タラちゃんがムートの羽根の付け根にしがみつくのを確認すると、ギンの示す方向に向かって飛んでいく。
森の端に掛かるかなという頃、森の中からたくさんの黒い点が出てきて、ムートと合流した。しばらくその場にとどまっている用に見えたが、シダにその黒い点が大きくなっていき、その形がはっきり見える頃には、こちらに向かっているムートとその後を付いてくる蜂たちであることが分かった。
新しい女王蜂が前に出て挨拶をしてきたので、巣箱を見せて、前の巣箱と同じ構造になっていること、魔石で中を暖められるようになっていること、そして、ムートが直前に見つけてきたお花畑が、向こうの方にあるらしいので、出来るだけ近いところで目立たない森の木々が生い茂って人間がおいそれと近寄れない場所の、木の根本の灌木で出来た藪の赤に巣箱を入り口部分を残して埋めるのはどうかと提案したところ、喜ばれた。
そこで、ムートの先導で、みんなでお花畑を見に行き、蜂たちが喜んだので、近くの森を探し、巣箱の贈呈式を恙なく終えた。
御礼に蜜玉をたくさんもらえた。
蜜蝋とローヤルゼリーは、巣箱の中を完成させて、女王様が中心に鎮座してから生成されるもの、とくに蜜蝋は巣箱の中の立体構造をささえるものなので、すぐに渡せなくて申し訳ないと謝られてしまったけど、蜜玉だけで十分返礼は頂いているので、特に木にしないでほしい。
本当は、定期的に蜜を回収することで、蜂も効率よく巣の中に蜜を貯めていくことが出来るのだけど、善人だけではないので、巣箱の存在はやはり知られない方がいいだろう。
僕たちは、蜂たちと別れて、次の目的地、つまり国境にある席所を目指すことにした。
隣国は貴族とかいないといいなあ。




