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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード84

「な、な、なにーーーーーー!?」

女騎士が絶叫した。

「ひ、姫様が・・・姫様が・・・生き返った。」

さすがに緊張感から一気に解放された反動で疲れが押し寄せ、立ってられなくなったが、そんなことも言ってられない。

外にはまだ重傷の患者が治療を待っているはず。

僕は放心状態の女騎士に手を貸すように求めたが、魂が抜けてしまったようで、反応がない。

それだとただ邪魔なだけなんだが。

仕方がないので、僕は手術台に寝ている女性の上半身を起こして、そのままひねりながら、肩に乗せ、担ぐように持ち上げて、部屋の隅っこにある仮眠用簡易ベンチ兼ベッドに移す。

もう一度寝かせて、毛布を掛ける。寒くはないだろうが、心停止していた状態から、心拍を取り戻したとはいえ、体の隅々まで体温を届ける血の流れは心停止に伴い、ストップしていたのだ。体温も当然まだ低い状態で余談を許さない。

想定外だったな。電気毛布のような暖房機能つきの毛布

作れないかな。電気毛布は電気ないから、魔石毛布とか。

僕は手術台を空けると、外に出て、倒れている兵士達の中から最も深刻な順に3人を選ぶ。

オペルームの手術台が3つしかないのだ。

とういか手術する医師は一人しかいないのだから、3つあるからと3例同時オペとか普通やらんやろ。

分裂したプルンに増血と、切れた血管同士をプルンでつないで、プルンの体内を経由して血管に血液を戻すという簡易即席バイパスによって、切れた腕の先まで、血液の循環は確保出来ている。これで時間を稼ぐ事が出来る。

したがって、プルンでは対処出来ない内臓へ切り傷が到達している患者が最優先になる。

僕はお腹がどす黒くなっている患者と、プルンが太い血管同士を繋ぎながら、さらに覆い被さって腹腔内に血液が貯まって術野が見えなくなってしまっている患者、それに腕が完全に離れてしまっている患者の三体を選らんで、オペルームに運び込む。

無傷で立っている兵士が一人もいないのは、それだけ忠義心に厚い証拠なのだろうが、こういう手を借りたいときには困る。

老齢の執事っぽい人は怪我をしていないのだが、女騎士と一緒で放心状態で膝から崩れ落ちて、問いかけに反応しない。

非力ではないが、怪力でもない僕には、鎧を着た状態の兵士を運び込むのは無理で、仕方なく鎧のプレート同士を繋ぐ結び目をメスで切り離して、脱がせた状態で運び込む。

なにやらステテコっぽい軽装だが、鎧の中は蒸れやすいだろうから、仕方あるまい。

着替えはあるんだろうか。まあ数日掛けての旅だからきっとどこかに替えの下着や鎧以外の服装もあるのだろう。うん有ると信じたい。

術式は、もう何度もこっちの世界に来て実施してる。

ただ、何が困るって、刺し傷、切り傷が切れ味の悪い刃物で切られたようで、傷口が直線ではないことだ。

むしろダンジョンのミノタウロスの刃の厚い斧の方がむしろ切り傷が綺麗だった。

傷口が乱れていると、縫合に傷口からより遠い部分の皮膚を引っ張り上げて縫合しなければならず、傷跡が目立つ形で残ってしまうけど、まあ腕一本失うよりマシだろうと、そのまま手術を進める。

アンタレスのダンジョンでは、血管に内蔵、皮膚に至るまで縫合用の糸がなかった。この世界に来て、糸の補充もできないままダンジョン前診療所で、怪我人の手当をしていた。

皮膚を縫い合わせる、傷口の縫合が町の洋裁店で売ってた蜘蛛の糸でなんとかなっても、血管や神経など、梁を通す管の厚みがほとんどないところでは、縫合ができない。特に神経や毛細血管では、伝達物質も血液も、分厚い糸が流れをせき止めてしまう。

けど今は違う。

「井田さん、おいで。」そう極小蜘蛛の糸は人間の髪の毛と同じくらいの細さで、神経縫合にも耐えられる細さである。

服飾の生地に用いる糸も、細い番手の方が、なめらかな生地を生む一方、それだけ糸の長さが要求されるため、才良うそのものが不足しやすい。

極小蜘蛛は、小さくて見つけにくい、自然界でも最弱の部類であり、スライムにも勝てないため、日中はひっそりと木の上や、草の葉の裏などでじっとしているような生き物である。

タラちゃんに食べられるところだったのはご愛敬だが、縫合糸に事欠かなくて済むようになったのは井田さんのおかげである。

僕は、縫合用の針をテーブルの上に並べて、井田さんに、糸を繋いでおいてもらうように頼んでおく。

縫合は当然だけど、手術の終盤に行う行程である。糸が足りなくなったらその都度針に糸を繋いで、などとやっているヒマはない。予め多めに用意して、手術中にどんどん取り替えていく事で、時間短縮をしなければならない行程である。

井田さんは、自分の出番は、ほぼこの作業に限定されてしまうのを知って、それでも役に立てることが嬉しくて、黙々と、針に糸を結びつける作業をこなしていく。

僕の従魔はみんな素直で優しい。胸の底が暖かくなっていくのが分かる。井田さんの張り切りにも答えなければ。いつもより多くの神経を繋いでおこう。

あまり知られていないが、血管や神経は、いくつかあるうちの一つがつながっていると、筋肉の収縮や弛緩に必要な電気信号や、細胞に酸素や栄養素を届ける血管の役割が果たされることがある。しばしば、その場合血管が太くなることが知られている。

普通は血管や神経が断裂している状態は末端の細胞が壊死していくので、時間との戦いにあり、タイムリミットの中でどらだけの神経、血管、リンパの縫合が出来るかというのは外科医の腕の見せ所なのだが、プルンのおかげでバイパスを維持したまま手術が出来ることで、再建中の血管等以外のものが劣化市内状態を維持出来るのである。

まさに夢の治療器具である。前世の最先端の技術でも不可能な医療機器が目の前でプルプル震えている。要するに僕の集中力がどれだけ続くのかという問題でしかなくなっている。

できるだけ怪我する前の状態に戻すために、出来るところまでつなぎ合わせる。

内臓に損傷のある兵士以外は、命に関わるような怪我ではないが、腕を動かせなくなれば、間違いなく今の仕事は辞めることになるだろうし、その後の生活も不便なものになる。

さすがに兵士としての動きまでの回復を求められるのは贅沢すぎるが、せめて日常生活に不便が出ない程度には機能を取り戻させてあげたい。

集中して手術にあたること、時間の感覚をなくした頃に、ギンがオペルームの入り口から首だけ中に入れて、のぞき込み「主殿、おじゃまはしたくないのだが、中断出来るところで、食事を頂くことは可能か。」

僕はその声で、ハッと我に返ると、外は真っ暗だった。

オペルームの隅では女騎士も自我を取り戻したらしくベンチ兼ベッドに横たわる女性の傍につきながらも、こっちを食い入るように見つめていた。

「何時の間に。」僕は、目の前の患者の腕の血管縫合を終えて、患部を縫い綴じると、外に出て、ギン達に収納から出来合のスープを取り出し、肉食の従魔には、スープの中からよく煮込んだトリッパだけ選り分けて、渡す。

ギンが戻ってきたということはミニホの牽く馬車も合流しているので、ミニホには収納から飼い葉を取り出し、また好物のカボチャを刻んで、飼い葉の上に乗せてあげる。

今回の旅はミニホの負担が重いので、疲労回復のビタミンCを豊富に含む野菜は意識して与えたい。

ミニホが喜び、すり寄ってくるので、労って額を撫でて上げる。

さすがにこれだけ時間が経てば、執事っぽい男性も気を取り直して、主であろう女性のところへとオペルームの中に入っていったが、よほど身分が高いのか、兵士が動けないと、自分たちでは食事の用意も出来ないらしいので、仕方なく、かれらの分も提供してあげることにした。

病み上がりの女性も居るので、彼らには自家製なんちゃってデミグラスソースで煮込んだミノタウロスの柔らかお肉を多めに渡す。多分誰かが毒味をするだろうし、どの程度お腹が好いているのか分からないけど、あの女剣士は結構食べそうな気がする。

ミノタウロスは貴族でも滅多に食べられないとかアンタレスのギルドマスターが言ってたから、「下々の食べるものはわらわの口にはあわぬぞえ」なんて事にはならないだろう。

それに、食事を与えることのメリットは、オペルームの中での食事は禁止であると伝えることで、食事の貯めに外に出てきてもらえることで、さすがに大の大人3人も隅っことはいえ、オペルームの中に居られたら、手術の邪魔にしかならない。

既に手術を終えた3人についていたプルンに先に食事をしてもらい、外で傷口を不才でいるプルンの分裂別働隊と交代してもらう。

そして、僕も手早く食事を済ませると、オペルームの手術台に寝ている3人を運び出すのに、無傷で一番力も強いであろう、女騎士に頼んで、担架に移して、救急馬車に運び込み、馬車内のベッドに寝かせていった。

残りの二人にオペルームに入ってもらって、傷口を消毒した上で縫合し、全ての処置が終了した。

最後の二人はかすり傷みたいなものなので、一晩寝れば、まあ馬車の護衛復帰は可能だろう。

全部終わった頃には、夜も白み始めており、徹夜で手術7件を終えた僕は真っ白な灰になって、寝ることにした。

多分執事さんが僕を呼び止めて何か言おうとしたけど、「ごめんなさい、今は寝させてもらっていいですか。」ととりあえずお話は起きてからにして欲しいと告げて、見張り番はギンとムートにタラちゃんの3匹にお願いした。

戦う班担当の3匹は、僕が治療をしている間、ずっと出番がなかったので、皆僕からお願いされたのが嬉しくて仕方ないと伝えてくれた。治療はどうしてもプルンに頼り切りになるので、僕に頼ってもらうのが嬉しいのだと。

そんなこと言われたら、嬉しくなってしまう。3匹にギュッとハグ、タラちゃんはハグするとつぶれてしまうので、頭を撫で撫でして、見張り番に繰り出す。

ミニホが、いつもの馬車内の厩舎で寝られないので、オペルームの中に移動してもらう。

入るときにミニホに浄化を掛け、得るときに部屋に浄化を掛けるので、衛生とかの問題はない。

僕とプルンとミニホと井田さんがオペルームで寝ることにして、セルパは馬車内の天井の棚に待機して、ベッドで寝ている患者の体温が急変しないかチェックしてもらい、異変があればムートに伝えてムートが僕に知らせるように頼んだ。またタラちゃんは馬車の中の患者がおかしな行動を取らないように念のため見張ってもらい、ギンとムートが馬車とオペルームの入り口付近に待機して、見張り番をすることになった。

主に日中寝ていることになるので、他の馬車などの通行の邪魔にならないよう、街道野分に馬車も寄せておく。


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