エピソード74
僕はギルドマスターとの話を終えて、ぐったりしながら、ギルドを出た。
例によってギンはギルドの前で待っていてくれる。
「どうした主殿、疲れているように見えるが。」
「あ、ああ。貴族っていうのはどうしてこうも、世の中が自分を中心に回っていると思うのかね。」
「ふむ、どこの貴族か知らんが、主殿に危害を加えようとするなら、跡形もなく消しても構わないぞ。」
「はいはい、そんな物騒なことは言わないの。じゃ、修道院に戻る前に食べ物買いに行こうか。」
「うむ、主殿、我は久しぶりに『からあげ』が食べたいぞ。」
ギンの言葉に全員がセルパ以外の全員が反応する。特にタラちゃんは、僕の頭にのってぽんぽん飛び跳ねながら、喜びを表現する。
「ははっ、じゃあこんばんは唐揚げにしようか。」
「「「「わーい」」」」
みんなの心が一つになった瞬間だった。
市場でひさびさの「これ全部」と「ここからここまで」の呪文を唱えた僕は、どこかのクイズの懸賞みたいな「肉一年分」を抱えて修道院に戻った。
質より量の修道院の子供達も居ることだし、作り置きもしておきたいし、ということで久々の大料理大会となった。
修道院の庭で角兎の唐揚げをひたすら作っていると、修道院の子供達が集まってきた。
物欲しそうに眺めて、院長先生に窘められている。
けど、唐揚げが揚がるのを物欲しそうに見ているのは、子供達だけでなく、ギンもムートも目が釘付けになっている。タラちゃんに至っては、変な薬を飲んだのかというくらいにふらふらと飛び回っていた。
僕は揚げたての唐揚げを一切れずつ、草食のミニホと野盗のところから逃げ出した馬を除く従魔と修道院の人たちに配った。
ギンとムートはもっと欲しがったが、ご飯のときにちゃんと上げるからと、つまみ食いの醍醐味は一切れをこっそり食べる極意にあるとそれ以上は渡さなかった。
修道院の子供達には、プルンが皿に載った唐揚げを自分の頭の上に触手を持ち上げて、器用に唐揚げを落とさないようにぴょんぴょん跳ねて一個ずつ取ってもらった。院長先生が目を光らせているので、二個取ろうとする子供は居なかった。礼儀の正しい子供達だ。
初めて食べるらしい唐揚げに子供達は目を輝かせ、唐揚げの大好きなタラちゃんは唐揚げを食べて悶絶していた。
そして初めて唐揚げを食べたセルパも「シュー」と声を上げ、つぶらな瞳がちょっとだけ広がった。
ムートが「セルパもこんな美味しいもの食べたの初めてだって。」と翻訳してくれた。
生肉より、こっちのほうが良かったらしい。
焼き肉よりシチューの中の肉より唐揚げのほうが好きというのはおそらく兎の肉が好きなのだろう。
それからも大人買いした兎肉をひたすら唐揚げにして、その日の晩はたくさんの唐揚げで恐ろしい感染症を克服した快気祝いを催した。
領主の邸に行くのは、3日後と決まった。
ギルドの前に集合し、領主が用意する馬車で領主邸に向かうことになった。
社会人である僕は決して自分の馬車の方が乗り心地がいいなどとは言わない。
ギルドから領主邸までならお尻が痛くなる前に到着するだろう。
その間を利用して、僕はこの町でも、修道院が独立採算でやっていけないかなと考えた末の公衆浴場を建築する準備を整えた。
せっかく居住棟をリフォームするのだから、温泉旅館風に、回廊で浴場とつなげて子供達はいつでもお風呂に入れるように専用の入り口をつけてみたい。
建築ギルドと、入念に打ち合わせて、建築に取りかかってもらった。




