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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード69


患者予備軍の整理に当たる人には消毒用アルコールと、木綿の布で出来た簡易マスクを配布し、定期的に消毒用エタノールでの消毒をしてもらい、カツ飛沫感染を防ぐために、町民同士、町民と整理担当者同士があまり接近しないように注意してもらう。

次に他覚症状のない人で、同居している人にもこれから他覚症状のない人には、注意する症状などを説明して、帰ってもらい、他覚症状らしきものがある人とその同居者だけ残ってもらい、まずは、集団の状態でセルパに熱感知してもらい、体温が高い人を選別する。

その人達は問答無用で血液検査に回す。

次に、体温が高いように見えない場合でも、頭痛や体がだるい等、自覚症状のみで二項目に該当した人については、血液検査を行う。

最期にこれらの検査によって陽性と判定された人の同居者についても血液検査を行う。

万全とは言えないまでも限られた検査体制と薬で、最大限の成果を得るための手順だとは思う。


丸一日を要する検査の結果、病床が満床になるほどの感染者が確認出来た。実際問題、病床が足りないので、修道院の開いている場所にミノタウロスの皮を敷いて、即席のベッドをつくり、そこに寝てもらうことにした。

屋外病室のベッドとの間で格差が生じてしまうけど、そこは症状の重い人から優先して病室に入ってもらうことにする。


この患者の量はダンジョン前の診療所と修道院の肺炎とで点滴パックと針を使い回したときよりもさらに患者の数が多く深刻な点滴パック不足荷陥った。

仕方がないので、比較的症状が軽くて抗生物質が少量で済みそうな人には抗生物質を注射で投与することにした。

体への負荷は点滴で時間を掛けてゆっくりと少量ずつ体内に浸透させていくほうが少なくて済むのだが、点滴パックの数量不足はどうにもならないので、特に体力のない小さな子供と高齢者に限定して点滴を優先敵に使用することにする。


そして、ようやく確立した治療体制にもかかわらず、どこにでも横車を押そうとする人間は出てくる。

臨時の黒死病診療拠点が貧民街の一画にあることが気に入らない、主に商人によって構成される富裕層の町民と貴族が、診療所を自分たちの住む区画に持ってきた上に、貧民については診療の対象から除外せよと言ってきたのだ。


病気の感染に貴賤はない。

対処方法さえ分かっていれば、金持ちのほうが病気の予防に必要な措置を講じやすいのは確かだが、何が病気の原因か分からずに病原菌に接することがあれば、病原菌はわざわざ貧困層だけを狙って感染する訳ではない。

何が言いたいかというと、貧民街こそ、病原菌のネズミが多く棲息するが、ネズミ自体、動き回るのであり、また感染初期の潜伏期間中に貧民街に住む住人も普通の市民街にも人は出入りする。そうやって感染爆発が起きるからこそ、感染症がパンでミックを起こす前に、封じ込めることが重要であった。

僕はその重要性を必死に冒険者ギルドに説明し、病気を広げたくなければ、外に出歩かないこと、感染して発症した人間が次の病気の感染原因になる危険性が高いため、感染者は感染者で一所にまとめて、健常者への感染を心配せずに治療することが重要だと説明する。

しかしながら、よそ者である僕の言葉に耳も貸さず、教会は「これは呪いです。敬虔な信徒の皆様には、噛みは呪いに打ち勝つ力を授けます。」と自らへの寄付金集めに利用した教会によって、間違った対処がなされ、主に富裕層や貴族の中に一人でも感染者が生じると、なすすべもなく、感染者が増大していったのだった。

当然、その事実は教会への不信感を招くことになり、領主、プロキオンの町は、隣接国との国境にほど近いところにあり、国防の要を担っていることや、隣国が人間を主たる構成員とする国であることから、他国への侵略の拠点としての位置づけのため、公爵領となっていた。

つまり、領主は公爵という訳である。

ただ、幸いなことにこの値を収める公爵は人徳のある人物で、公爵の兄にあたる現国王も人格者で、元々平和を望む統治者であったものの、病の床に伏せっており、国政を担うことが出来ないことから、現在は宰相の補佐の下、王太子が臨時で国政につき国王の代理を務めている。

この王太子は野心の強い上に、人格にも問題があり、影では国王に毒を盛ったのではないかとも噂されていた。現国王が国政の場から遠ざかり、酷王とも揶揄される現王太子の圧政に耐えかねて、国民の不満は日増しに募り、その状況を憂う、王位継承権第3位の第1位王女は、現王弟であるパピー公爵と示し合わせ、賛同する現国王派の貴族達をまとめて、現王太子を国政の場から引きずりおろそうとしていた。

そして残念なことに王位継承権第2位の第二王子も、王太子に勝るとも劣らないほど権力への執着心が強く、王太子、第二王子とも、相手を疎むあまり、暗殺を試みるなど、王都の人心は荒みきっていたのだった。

そして、第一王子であり王太子である現国王代理の後ろ盾になっているのが、国教であるアストレア統一教会とそのトップの座に君臨する教皇であり、第二王子に肩入れするのが、新興貴族を中心として低位貴族と王国最大の商会である、シュセンドー商会であった。

たとえ、パピー公爵がどれだけ領民を憂いても、その領民のための指示は現場に伝わる頃には、第一王子派、第二王子派の息の掛かった代官や下位貴族である騎士などによって歪められ、領主の意図は必ずしも、領民に届いてはいなかったのである。

ところが、ここへきて、プロキオンの町に最大の危機と言っても過言ではない未知の病気の蔓延と、教会による呪い説を鼻で笑うかのような、どこからとも現れて、てきぱきと指示を出しながら治療を行っていく冒険者の存在が教会としては疎ましくて仕方なかった。

今や市民の厳しい目は呪いだと大々的に言い張りながら、その対処の出来ない教会に批判的に向けられ、病気の一種で、治療方法についても説明し実践する一冒険者の存在はプロキオンの町の教会にとって脅威ですらあったのだ。

教会にとって幸いなのは、ケントが治療を貧民街で開始し、その治療の拠点が貧民街の一画である修道院に存在していたことである。

とはいえ、このまま治療が奏功すれば人の口に戸は立てられない、その噂は瞬く間に町中に広がり、教会の立場が悪くなる。

慌てた教会中枢の人間は、それならばと、ケントは元々教会の指示で人々の救済にあたっていたことにしてしまえと、その功績を横取りすることをたくらんだのだった。

教会は、ケントの治療を受けられる対価として法外な金銭を要求することが出来るとそれこそ、皮算用も鬼が笑うかといわんばかりの妄想を繰り広げ、配下の聖騎士に、ケントを教会に連れてきて、教会で巷に蔓延している未知の病気の治療に当たらせるようにと命令した。

教会の言うことは絶対、とすり込まれている聖騎士は、神の信徒として教会の命令に背くこと等あり得ないと、命令すれば黙ってその平民である一介の冒険者風情など、従うに決まっているとばかりに、修道院を訪れ、「教会の命令だ。付いて参れ。お主には教会で教会が認めた者の救済に当たる任務を授ける。」と言い放ち、場面は冒頭に戻る。


僕は突然大人数で押しかけてきたかと思えば、他人の都合をものともしないその物の言い様に。唖然としてその場でしばらく、何が起こったのか分からずにいた。

すると下品なくらいに全身銀色の金属にすっぽり覆われた戦闘の人は、「聞こえぬのか、平民風情が、この私に同じことを二度言わせるのか、不敬であるぞ。黙って付いて参れと言ったのだ。」

「えーと、嫌ですけど?」

僕は断ると返答する。当たり前だ、たくさんの人が治療中なのに、放置できる訳がない。

「貴様、今なんと言った。教会の命令に逆らうと?逆賊め、今この場で成敗してもよいのだぞ。」

「まず、ここは修道院の敷地内です。私は酋長院の院長先生の許可を頂いて、この場をお借りして、病気で苦しむ皆さんの治療にあたっています。私がどこで何をしようと、何の関係もない貴方に文句を言われる理由はありませんし、私がその教会とかの命令とかいうものに従う理由はありません。私は教会に対し何の義務も負っていません。」

もちろん、ここを動けない理由は、せっかく女神様に頂いた病室がここにあり、効果的に大人数の治療が出来るのがここだからであるし、何より点滴パックは救急医療セットに常備されていた5セットしかこの世界には携帯できなかったのである。同じ物はこの世界で見つけあれなかったし、ビニール素材も注射針も、この世界には存在していないため、どうしても、点滴で抗生物質を投与しなければならないほどに弱っている人が5人以上いれば、都度点滴パックを浄化しては使い回すしかないのである。

遠くまで往診に出ている余裕など到底ない。

何より患者が複数の場所に点在すればそれだけ隔離しづらくなる。

「治療が必要な病人がいるなら、ここに運んで来てもらえないですか。」

僕は併せてそう伝えるが、その言葉すら侮辱と受け取ったらしい。

いきなり、剣を抜いて、襲いかかってきた。

当然そんなことをすれば、ギンとムートが黙っていない訳で、その剣が僕のところまで届くことはなく、ギンに殴り飛ばされて、修道院の塀まで水平に飛んでいき、そこで壁に激突して崩れ落ち、ムートの羽ばたきに吹き飛ばされ、壁に激突して崩れ落ちた。

「従魔を使って攻撃し、人を傷つければ、従魔の主であるおまえの責任になるのだ。」

「先に剣を抜いて襲いかかってきたのはそちらでしょう。罪に問われるのであれば、そちらだと思いますが。」

当たり前の反論だとは思うが、「平民ごときが生意気に。」と逆上している。

困った言葉が通じるとは思えない。

仕方がないので、ギンとムートに「これ以上傷つけないように、威圧して、気絶させてくれる。」とお願いする。

ギンとムートはすぐに殺気を辺り一面に充満させ、フェンリルとエンシェントドラゴンの本気の殺意にあてられた騎士全員が足を震えさせてその場に立ち竦み、間もなく気絶して崩れ落ちた。

例によって、辺りからアンモニア臭が漂い始め、何が起こったのかをなんとなく推測出来てしまった。

「それにしても、懸念したとおり、他の場所でも感染が広がっているのか。」

僕は、病人の付き添いできた病気に感染していなさそうな人に、冒険者ギルドへの遣いをお願いし、領主に、この病気の最大の沈静化の方法は病人を隔離して感染を広げないことだと伝えて、早急に病人の隔離の場所として既に存在する修道院に病人を集めて欲しいと告げる。

もちろん場所としては手狭になってきたのだが、出来る限り同じ場所に集めることで、他所との隔離をしないことには、いつまでたっても病人が減らず、先に抗生物質が尽きてしまうことになりかねない。

そのうち、病原菌の増殖を抑えて、病状がコントロール出来れば、体内にあるキラー細胞が、体内に入った病原菌と結合して無効化する抗体を生成するようになる。そうなれば、今度は抗体を病状初期の患者に投与することでより効果的な治療が出来るようになる。それまでの今、最重要課題はいかにして感染者を広げることなく、病気の重篤化を押さえるかということであった。

「教会は邪魔しかしないんだな。」

思い起こすのはダンジョン前の臨時診療所での出来事である。

骨折を一瞬で治療するその奇跡はとても真似できるものではないけど、そのために治療費が50万円もかかるというのでは、1ヶ月半じっとしていれば直る怪我であることに鑑みて、五体満足ならそれ以上の金を稼ぐことが出来る人に治療を受けられる人が限定されてしまう。

それでいて、病気にはほぼ無意味の存在であるにもかかわらず、自分たちは選ばれた存在であるという意識が強すぎる人たちだった。

そればかりか、僕が怪我人を治療するのをそれとなく邪魔しようとするなど、およそ人体を扱う職業には似つかわしくない人たちだった。

僕は目の前に転がった人たちを見ながらため息をついた。

「お、覚えてろ。こんなことをして、タダで済むと思うなよ。」

ギンとムートに失神させられた全身金属づくめの人たちを抱えながら後ろにいた同じ金属づくめの人たちがそう捨てぜりふを残してその場を立ち去る。

(面倒くさいことになりそうな器がする。)

まさか夜中に嫌がらせに来ることはないだろうが、警戒しておいたほうがいいかな。



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