エピソード64
僕たちは頃合いを見計らって町の中に戻り、冒険者ギルドを訪れる。
受付のカウンターに行くと昨日と同じ受付嬢が居て、昨日の今日なので、顔を覚えられていた。
「あーケントさんですね。衛兵から報告上がってます。そのことも含めて、ギルドマスターが及びです。すぐにギルドマスターの部屋に行って下さい。」
「え?普通に嫌ですけど。」
「では、こちらへって・・・ええーーー?何でですか?」
受付嬢はいきなり大声を上げた。というかノリ突っ込み?
「野盗の懸賞金受け取るだけですよね。カウンターで出来ることじゃないですか?」
「いえ、ランク昇格の話もあるので。」
「別に昇格などしたくないですけど。」
「えー、ランクが上がれば高額の報酬の依頼を受けることも出来るんですよ。冒険者になった以上上を目指すのが普通じゃないですか。」
「「そういうのは例外なく、危険な内容ですし、そもそも魔物だから討伐しろっていうのが嫌いなんですよ。生きているのは人間も魔物も同じですよ。奪わなくていい命があるなら、それに越したことないじゃないですか。仲良くなれるなら、そっちのほうが良いに決まってます。」
「あーケント様はテイマーでしたね。そのような発送は普通の冒険者からは出てこないんですけど。」
「じゃあ、普通の冒険者ではないので、昇格もなしということで。それより、ギンを外に待たせているんです。戻るのが遅いと、ギルドの建物壊して探しに来てしまうので、急いで用事を済ませたいんですが。」
「困りますー。お願いですから、ギルドマスターに会ってくださいー。ちょこっとでいいですからー、ね?お・ね・が・い」
「じゃあ、こうしましょう。従魔も同席させたいので、解体場でお話聞きます。このギルドにも解体場はありますよね?裏手ですか?」
「あ、はいそうですが、プライバシーに配慮して、固執でするお話かと。」
「ギンが、従魔が入れない場所でする話は話ごとお断りしますので。」
「ああ、それでいいぞ。」突然頭の上から声が聞こえた。
カウンター横の階段を上がった二階の踊り場に細身の女性が手すりにもたれかかり、こちらを向いていた。
「私は解体場で話をするのでも構わない。」
「ギルドマスター」受付の女性が階段上の女性にそう声を掛ける。
王国だの貴族だの言ってたから、封建的な社会なんだろうと思ったが、思いの外女性の社会進出も果たされたいたことに純粋に驚いた。もちろん僕はセクシストではない。
「ふー、あまり時間は取れませんが、従魔も一緒であれば、少しだけお話聞きます。」
僕は一旦ギルドの外に出てギンに事情を説明し、ミニホに馬車を牽いてもらい、裏手に回る路地に入ったところで、馬車を収納してしまう。
ギルドの裏手には馬を一時的に繋いでおく厩舎もあるので、野盗の幌馬車を牽いていた馬2頭を預ける。ミニホは魔物だし、従魔の目印は付いているけど、万一があっても困るので、他の従魔同様に同行させる。
みんなで、ギルド裏の解体場に回ると、そこにはもう先ほど二階から声を掛けてきたギルドマスターと呼ばれた女性が既に待ちかまえていた。
解体場の隅っこに椅子を並べてみんなで座り、ムートも椅子に、ギンは大きすぎるので、僕の横に寝そべり、ミニホは僕の後ろから、僕の頭を甘噛みしたり、額を後頭部にぐりぐり押しつけて、甘えていた。
「ごめんね、ちょっとお話するから、遊ぶのは待ってね。」母奥はミニホにそう言って窘めた後、ギルドマスターの方に向き直ると、ギルドマスターは笑いをかみ殺していた。
「くっ・・・まじめな話がしにくくて仕方ないぞ。」
「済みません。それでお話ですが、冒険者等級昇格の話なら、遠慮します。」
「・・・何故だ。」
「元々、冒険者になったのは、身分証明のためという意味合いが大きいのです。あと、僕は荒事が苦手です。野盗にしたって、気絶させたのはここにいるギンとムートで、拘束したのはここにいるタラちゃんのおかげです。」
「うぷっ・・・」またもやギルドマスターが吹き出すのをこらえて苦しそうに俯く。
どうやら、僕の頭の上に乗っているタラちゃんが、僕の紹介に合わせて前足を上げたらしく、油断していたところへ不意打ちを受けたらしい。
しばらく気を落ち着けようと自分と戦っていたギルドマスターは、浅い呼吸を繰り返しながら、何かを耐え続け、ようやく顔を上げると大きく深呼吸をした。
「済まない、取り乱した。話を戻すが、従魔の功績は全部その主たるテイマーの功績となる。君がソロで、野盗228人を一人も殺すことなく捕縛して、野盗団を壊滅させたこと、アンタレス郊外のダンジョンでミノタウロスを1138頭討伐して、スタンピードを未然に防ぎ、アンタレスの街を人知れずに救ったことは、いずれも1級冒険者の実力にふさわしいものだ。そんな実力の持ち主を、6級にとどめておくことは、冒険者ギルドにとってもこの国にとっても大きな損失なのだよ。」
「なぜ、ミノタウロスの件、正確な数字まで把握しているのはともかく、等級を上げることで、他人の思惑に翻弄されるのが嫌なんです。僕は僕が好きなときに好きな場所に行き、好きなことをしたいのです。わがままだと言われようと、僕には神様とした約束があって、一人でも多くの命を、僕が持つ技術と知識で助けること、そのために僕の仲間這います。ダンジョンではやむを得ず、多くのミノタウロスという牛のお化けの命を奪いましたが、ダンジョンは外の世界と違って、倒しても、死体にならず、光の粒となって消えるので、純粋に殺したと言えるかどうか微妙です、あまり罪悪感を感じなくて済みましたし。
なので、ギルドの依頼だと言われても、いくら脅威だと言われても、魔物の命を奪うとか、それが人に危害を加えているというのであればまだしも、その毛皮が欲しいだとか、角や牙が欲しいだとかいう理由で殺してこいと言われても、断るとしか返答のしようが。」
僕はきっぱりと断る。下手に言葉を濁して、引き受けられない討伐依頼を勝手に押しつけられたらトラブルが広がってしまう。
「そうか、君はともかく、そっちのフェンリルとドラゴンの戦力は貴重なのだがな。」
「僕の大切な仲間を武器か何かのように扱われるのも嫌です。今回の野盗のように、沿われなければこちらから手を出すことはないので。」
「あ、申し訳ないそういうつもりではないのだ。ところで話を変えるが、君は何か不思議な技能を持っているそうだね。切れた腕をくっつけるとか、血まみれの人間のお腹を縫って血を止めるとか。」
「そういう言われ肩をすると、違和感しかないですが、切れた腕をくっつけるというのは語弊があります。人間の腕が切断されるというのは、切れたところから、先に血液が送られることがなく、そのまま先端が腐ってしまうので、そうなる前に血液が届くようにしてあげることと、もう一つ、手や指を動かせという命令も頭から手に送られるので、その命令が届くようにしてあげることで、切れた腕が再び動かせることが出来るようになることもあるという程度です。お腹の中とかについても、基本は同じで、血液が大量に失われるとそもそも人は死んでしまいます。そうなる前に、血を止めることが出来て、傷ついている臓器が、他の傷ついていない部分だけで正常な機能を維持出来るのであれば、そのまま生き続けることが出来るように傷を治癒することが出来ることもある。という意味です。必ず可能な訳ではないですし、多くの場合、怪我をした直後でないと間に合わないです。」
(そうはいっても医療技術の進んだ前世よりもむしろこっちの世界の方が成功率が高いんだよね。屋外用オペルームとか、プルンの存在は前世の医療技術をはるかに凌駕しているんだよね。)
「うん?何を言っているのかよく分からないが、君がそのたぐいまれなる技術で、怪我人や病人の治療に当たることは理解している。出来ればここに居る間だけでも、その技術をもって、多くの人の怪我や病気を救ってもらいたい。まあ、本音はこの町を拠点にしてもらって、ずっと居着いて欲しいというのが偽らざる本音なんだが。」
「出来る出来ないはやってみないと分かりませんが、病気や怪我の治療は、もともと僕の仕事ですから、そういう依頼があるなら、それは引き受けます。むしろ願うところです。ただ、ずっとこの町に居るというのはないと思います。」
「まあ、ギルドマスターとしてはギルドの利益と招来のために、そういうお願いが無駄と分かっていてもしないとならないものなのだ。では、もう一つ、野盗の件だが、衛兵から、賞金首であることの特定が出来たということで、領主から懸賞金が払われている。野盗の討伐依頼も含めて、全部で金貨195枚だ。今ここで金貨でもらっていくかね。」
「あ、いえギルドの口座に入れておいて頂ければ。」
異次元収納の方が確実に安全だが、その技能は人前で見せるものではないということをよく理解したので、金貨のつまった復路を用意していたギルドマスターに口座預入を希望しておいた。
金貨185枚か。1950万円だよなあ。一日の労働の対価じゃないよなあ。
僕何もしてないんだけどなあ。ほとんどギンとタラちゃんの手柄だし、お褒美はミノタウロスの上等な部位で焼き肉だな。
バーベキューもキンググリズリーの親子抜きでしたことないなあ。
「話は以上だ。時間をとって済まなかった。冒険者等級だが、本人の希望に反してまで、ギルドが等級を引き上げることは出来ないが、本当にいいのか。昇級を望む冒険者は居ても断る冒険者なんて初めて見たぞ。」
「はい、結構です。それでは。」
「ああ、出来れば連絡の付く場所にいて欲しいんだが、宿は決まっているのかね。」
「ギン、このフェンリルが一緒に泊まれる宿がないので、普段はテント村か、修道院の敷地の隅を借りてテントで寝泊まりしています。今なら、馬車で寝るという方法もありますが。」
「それで疲れは取れるのかね。」
「そうですね。居心地は悪くありませんが。」
「ふむ、冒険者のためにギルド推奨の宿というのもあるのだが、確かにそこのフェンリルは無理だなあ。」
「お気遣いなく、結構馬車もテントも気に入ってますので。」
僕たちは義留素マスターに挨拶して解体場を後にする。
思ったより話が長引いてしまい、お昼を過ぎてしまった。
みんなお腹がすいているはずだ。
全員ががんばったので、女性4人は助かった。野盗は一網打尽に出来た。そのご褒美は野外で皆で食べる焼き肉バーベキューだ。町中ではいろいろ悪目立ちしそうなので、街の外に出て行く。
草原の真ん中で、竈を作って焼き網を置き、火を熾す。
いつものことなので慣れたものだ。
着火に小さくなったムートのドラゴンブレスを使うのもいつものことだ。
小さくても加減をしないと竈が溶岩になってしまうけど、最初の一回だけで、あとは慣れたものだ。




