エピソード62
お腹もふくれたところで、救出した女性たちにこの後どうしたいか尋ねる。
特にどうしてもという希望がなければ、僕がプロキオンの町に向かう途中であることと、そこまで送り届けて、そこから先は事由に行動してもらえばいいと伝えた。
それでもエルフの二人はまだ、僕のことを疑っているようだった。意外とこの世界の種族間の対立は根深いものがあるのかもしれない。
ため息の一つも尽きたくなるけど、きっと筆舌に尽くしがたいつらい思いをしてきたのだろうと、複雑な心境になりたがる自分の心を慰め、努めて冷静でいようと自分に言い聞かせる。
で、山積みになった野盗は幌馬車の乗車定員を軽くダブルスコア以上でオーバーしており、もう少しでトリプルスコアという状態だった。
するとムートが自分に活躍の場が少なかったことを不満に思っていたことから、自分が野盗の幌馬車を運ぶと言い出した。そこで、救急馬車をギンとミニホの二頭立てで牽いてもらい、最初に幌馬車を牽いていた馬は、解放して好きにどこにでもいけるよとギンとミニホ経由で伝えたものの、ミニホと同じ飼い葉を与えたことで、どうやら懐いてしまい、辛みのまま馬車に付いてくるらしい。
僕は救急馬車を文字通りの救急車仕様にして、四台ともベッドを出し、女性四人に安静にしてもらった。もちろん密室の中で女性と過ごすのは女性が恐怖心を持つかもしれないので、僕は御者台に座ることにして、馬車内で何かあった場合に備えて、天井の棚に井田さんとタラちゃんが待機することになった。
のんびり、野草摘みの旅の予定だったが、すぐにでも届けなければならない物が持ちきれないほど出来てしまったことから、まっすぐプロキオンの町を目指すことになった。
そして元のサイズに戻ったムートの存在は、女性達をあわや気絶寸前まで追い込んだが、ちょうどそのまま馬車内のベッドに倒れ込んでもらい、ギンとムートの無尽蔵の体力と圧倒的に強大な腕力で、その日の昼過ぎには、プロキオンの町が見えるところまでたどり着いたのだった。もちろんそんな速度に特注の救急馬車はともかく、幌馬車が耐えられるはずもなく、ムートは幌馬車を牽いて街道を走るのではなく、そのまま空中に飛んでしまい、車輪が接地しない幌馬車は空を飛びながらプロキオンの町を目指していた。
荷台にくくりつけられただけの野盗が再び目を回したことは言うまでもないが、残念なことに負けず嫌いのギンとムートが競争しだしてしまい、馬車内の女性達もベッドから起きあがれなかったらしいが御者台の僕は安全装置のないジェットコースターの恐ろしさを骨身にしみて体感することになった。
特注の油圧式サスペンションの高性能さを実感出来たが、車輪に巻いたミノタウロスの皮が僅か一度の走行で半分以上すり減ったのは誤算だった。
プロキオンの町を出るときは新しいタイヤ?に換えないといけないかもしれない。
通常サイズのムートが町に接近すれば、パニックになるのは想像に難くないので、町が見えるところで、ムートには馬車牽きを交代してもらう。なお、ギンとムートの競争に普通の馬は付いてこられなくなり、街道を自分のペースで追ってくることになった。
好意を無下にするのは心苦しいので、アンタレスの街のときと同じで、修道院用に何か事業を始めるときに、馬には役に立ってもらう予定であると伝えたところ、馬はそれでいいと、後を追ってくることになった。
僕たちはプロキオンの町の門に並び、門番に僕の身分証明書としての冒険者会員証を提示し、同行しているのが僕の従魔で登録済みであることを伝え街道で襲ってきた野盗を捕縛したので、町の衛兵に引き渡す予定であることを伝えた。また野盗のうち4人はエルネスト商会のキャラバンとその護衛の冒険者が自分たちで討伐した分として別途連行して来る予定になっていると伝えた。
僕たちの方が後から出発しているが、ギンとムートの競争に勝てるはずもなく、どこかで追い浮いたらしい。
後、その野盗に攫われて、閉じこめられていた女性4名を救出したので、連れてきたので、町の領主において保護して頂きたいとも伝えた。
全ての話が終わると、その内容が嘘でないことを確認すると言われ、詰め所に連れて行かれて、机の上に置いてあった水晶玉をさわるように言われた。
意味がさっぱり分からずに言われたとおりに水晶玉を両手で抱えると、蒼く光り出した水晶をみて、よし嘘は言っていないようだと衛兵一人が得心して、何があったのかさっぱり分からないまま、門を通り抜けて町に入ることが出来た。
門の近くに衛兵の詰め所があり、僕たちは、そこで幌馬車に積んだ野盗を衛兵に引き渡す。
麻酔の効果は切れており、猿ぐつわをしてなければうるさくわめき散らしていたであろうが、うぐうぐ言っているだけで、さほど気にはならなかった。
23人の中に懸賞金の掛けられているいわゆる賞金首が頭と、襲撃犯のリーダーだった兄貴と呼ばれていた男と、幌馬車に乗って冒険者を装い、見張りを自分野津号で調整しようとしていた男の3人だった。
頭と呼ばれる男を筆頭に、この野盗グループは近隣で最大の勢力を誇り、今まで何度も討伐依頼が出されていたが、そのたびに冒険者を返り討ちにしていたらしく、懸賞金は積もり積もって、金貨50枚にもなっていた。そのほかの二人の賞金が金貨10枚であることを考えれば、頭の扱いだけ別格なのが何故だか分からないのだが、どうやら実力も他の野盗に比べても格段に上らしく、腕自慢のならず者達を従わせるだけの実力はあるらしい。
地下室に女性達を救出に行ってた間にギンに気絶させられてた大勢の一人に過ぎないので、実力が段違いだと言われたところで、全くピンと来ないのだが。
とりあえず、引き渡しの証明書を発行してもらい、賞金首本人であることが確認出来た時点で、冒険者ギルドを通じて懸賞金が支払われるとのことだった。
いずれにしても、冒険者ギルドに野盗の討伐依頼が出ていたので、それも達成証明書を出しておくと言われ、詰め所に居た衛兵の団長の名前で達成証明書が発行された。
依頼も受けてないのに、依頼を達成した扱いってどうなんだと不思議に思って尋ねたが、そんなことはよくあるらしい。納品の依頼にしたって、先に依頼の品を調達してから、依頼を受ける冒険者など枚挙にいとまがないとのことである。依頼に失敗すると罰金を科される依頼も等級が上がれば少なくないのだから、先に規定日数内に達成出来るよう結果を確保してしまってから、依頼を受けるなどということは往々にしてあるのだという。
もう一つの冒険者パーティーが野盗のうち4人を連行してくるのだから、少なくとも懸賞金も分配しなければならないのでは、となおも食い下がってみたが、依頼の達成条件は懸賞金としても破格の評価の頭領の首を生死を問わず持ち帰ることが条件になっていた。
なお、殺生が苦手なので、生かしたまま連行したものの、野盗の頭領は死刑以外にあり得ないとのことだった。今までにそれだけの罪に問われるほどの雑人を繰り返してきたらしい。
そういうことなら仕方ないとも思う。前世にだって大量殺人の犯人は死刑になるのだから、貴族に逆らったから死罪とかくそ食らえと思うが、大切な人を理不尽に奪われた遺族の悲しみを思えば、犯した罪の責任として死刑になるのはやむを得ないことだろう。
僕たちは、衛兵に場所を教えてもらった冒険者ギルドの前まで、救急馬車で乗り付け、ギルドの中に入っていく。
例によって、ギンは入り口がちょっと小さいのと、もめ事を避けるという意味においても、ギルドの前で馬車の見張りをしてもらっていた。
見た目はぼろに見えるように加工してあるが、それでも、普通の馬車より大きく、目立つことは否定出来ない。
女性冒険者とエルフの幼女と付き添いの女性に馬車から降りてもらい、一緒にギルドの建物の中に入っていく。
真正面のカウンターに向かい受付の女性に、アンタレスからの道中にあった出来事をかいつまんで話し、野盗のアジトで余生4人を救出したこと、その中の女性冒険者2名のパーティー仲間はどうやら目の前で野盗荷殺されてしまったらしいこと、野盗の討伐依頼について、衛兵団の団長が依頼達成扱いにするよう証明書を発行してくれたことを説明した。
受付嬢は、僕が一人であることに驚き、また等級が6級であることに驚いた。
討伐依頼は危険度3級相当の頭領を含む30人前後の野盗の群れであり、依頼を受けられる冒険者の等級はパーティー推奨で、冒険者の平均等級、すなわちパーティーの等級が3級以上となっていた。
「じゃあ、元々僕は依頼を受けることが出来なかったということですね。依頼は不成立ということで。」
「いえいえ、気にするのはそこじゃないですから。なんで等級3のパーティー推奨の依頼を等級6のソロの冒険者が達成しているんですか?」
「そういわれても、僕が何かした訳じゃないですから。僕荒事苦手ですし。」
何おもしろいこと言ってるんだこいつという目で受付嬢が僕をにらんできた。
なんだかとっても居心地悪い。
用事も済んだのでさっさとギルドを後にしようとすると、なおも受付嬢が引き留めて、詳しい報告と、冒険者等級の昇格の手続をしようとするので、断固として断ると告げた。
僕は、ギルドに併設された酒場に女性4人達と行く。ギンが外で待っているので、手短に済ませるつもりだ。
話を聞かれないように隅のテーブル席に座ると、全員の分の果実水とスープを注文する。
担当の給仕が離れたところで、僕は女性達に向き直り、「じゃあ、ここでお別れということで。あと、着の身着のままで閉じこめられてたんだから、服も食事も宿もお金が足りないよね。これ、一人ずつ渡しておくから」そういって僕は金貨10枚ずつ、4人に渡そうとする。
全員とも「「「「いや、受け取れない」」」」と拒もうとした。
「命を助けてもらっただけで十分すぎる恩義があるのに、その上お金の負担まで掛けるなど、心苦しくて、とてもじゃないが耐えられない。」女性冒険者が苦しそうにそう胸の内を吐き出す。
「何か誤解しているよ。これは僕のお金じゃないんだ。野盗に奪われたあなた達のお金を野盗から取り戻して、元の持ち主に返還しているんだお。あなた達が閉じこめられていた地下室に、野盗が旅の商人や冒険者を襲って奪い取った財産が、保管されていたのは見えただろう。あれは、元の持ち主に返すつもりだよ。金貨は持ち主の特定が難しいから、他の持ち主にはそれ以外で盗品であることが特定出来るものだけ返還するけど、その分あなた達には金貨で渡すんだよ。しかも、僕は冒険者として野盗の被害を回復するための依頼も受けて、報酬ももらったの、見てただろ?全然気にしないで受け取ってもらえないだろうか。これは仕事なんだよ。」
物は言い様。そういうとおずおずと全員が金貨を受け取った。
「じゃあ、ここでお別れだね、この先何があるか分からないから気をつけて。あと、ここは僕が払うからね。」
「いえ、それは」エルフの女性がそれは受けられないとばかりに声を上げる。
「何言ってるの、女性と食事に来ているのに、女性にお金を払わせるなんてこと出来るわけないでしょ。僕が恥をかくことになるんだから、ここは黙って男性にお金を払わせるのがいい女のマナーというやつでは?」
うわー、こんなイケメントーク、前世の僕にはとてもできるはずもないのに、何がそうさせた?よくがんばった俺
恥ずかしさで顔が火照っているのが自分でも分かる。
早く退散しないとこの空気いたたまれない。なぜかみんなの目がキラキラしているような気がする。もちろん僕の勘違いだから。
僕は、金貨1枚取り出すと給仕に、「お勘定はこれで」と伝える。
「今おつりを持ってきますね。」という給仕の声も無視し、「女性達はまだまだ食べるから、そのお金で足りる分はそこから出して。」と言い残して、僕はギルドを後にした。
外ではギンが待ちわびたように迎えてくれた。何故か、距離を空けて、周りを囲んでいる取り巻きがいて、ギンが馬車に近づかないように威圧しているため、微妙な距離感で、人だかりが出来てしまっていた。
「何が会ったか知りませんが、僕の従魔です。おとなしくて賢いので、危害は加えません。」
僕は大声で叫ぶと、馬車に乗り込み、ミニホを馬車内の厩舎に入れたまま、ギンに馬車を全速力で、牽いてもらい、そのまま町の外に出て、街道脇の草原で野宿することにした。
日が暮れてしまったため、もうすぐ町の門が閉まってしまうのと、この時間から土地勘のない宿を探すのも困難だし、そもそもギンも一緒に宿泊出来る宿などまず存在しない。テント村があるのかどうかも分からないし、暗くなってからだといろいろトラブルも生じやすいので、それならいっそということで、明日の朝、また町に入って、滞在場所をゆっくり探すことにしたのだ。
門を閉めようとしている門番に無理をお願いして、町の外に出してもらう。
危ないからと一生懸命止めようとする門番に、自己責任ですからと、強引に外へ出て、門のすぐ近くに、馬車を止め、野営の準備をする。
門の近くまでは魔物も寄って来ない。ある意味町内よりも安全かもしれない野営場所だった。
そのうち閉門に間に合わなかった人たちが、門の前で野営を始めるおで、僕たちは、門の近くと言っても、街道を外れた草原の中に馬車を止めてそこで一晩過ごすことにした。
前の晩n野盗の襲撃からずっと続いた長かった一日がようやく終わろうとしていた。
全員がそれぞれに適材適所で活躍してくれて、被害に遭った女性も助け出すことが出来た。
全員を馬車の中で労いながら、みんなで体を寄せ合って、寝た。




