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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード52


その日の番、村長さんが馬小屋まで食事を運んでくれた。チーズとミルクがたっぷり入ったシチューだった。

こっちに来て初めて食べるそれはまごうことなきクリームシチューで、僕だけでなく、ギンとムートとプルンも美味しいと、あっという間に鍋を空にしてしまった。

井田さんとタラちゃんはお肉以外に食べられないので、シチューの中に少しだけ入っていたお肉を取り分けて、周りについているクリームをこそぎ落として専用の皿に盛ってあげる。

怪我をした馬は、食欲がまだ戻っておらず、患部からは大量の熱を出していた。

もともと馬は体温の高い動物であるが、損傷を治そうとする体の反応が高熱として現れているのだ。

僕は患部に手を当てると「医療魔法」で冷やす。氷を飛ばすことは出来ないけど、手のひらの周りを零度以下の温度にすることで、高熱を冷やしたり、臓器の劣化を防ぐことは医療行為の範囲内である。

麻酔も無事に切れたようで、馬は今は高熱と戦っている。余談ではあるけど、馬にはクララと名前を付けた。第一印象から、この村のイメージが前世のアニメを彷彿とさせるものではあったが、単純に馬が怪我を克服して「クララが立った。」と言いたいだけなのだ。要するに験を担いでみただけである。人生なんてそんなもんだ。

馬は巣明時間が短い上に立ったままでも寝ることが出来る動物である。梁からロープで吊して体重を支えてあげることで、怪我した足に負担を掛けずに寝ることも出来るだろう。

患部が発熱し、高温になったことで、つらそうだったものの、冷やしたことで楽になったらしい。そのまま朝まで、何事もなく過ぎていった。


「ちゅん、ちゅん・・・」

「知らない天井だ。」

雀の声で目を覚ますと、馬小屋の天井が目に入った。

あ、そうか、昨晩は右亜mを買いに来た酪農の村で、怪我した馬の手術を終えてそのまま馬小屋で容態を確認しながら寝泊まりしたんだった。

「うおっふ」

急に何かが僕の腹をぐりぐりとつつき出した。

「ムート、寝ぼけているのか?」

僕は起きあがろうとするのに、お腹をぐりぐりと押されて、うまく起きあがれないので、こういういたずらをするのはまだ幼さが少し残るムートしかいないと、僕はムートにいたずらを辞めるように言う。

すると頭の方から、「あるじー、僕は何もしてないよ。」という声が返ってきた。

あれ?プルンには無理だし、となると、ギンか?珍しいこともあるな、と思い、「じゃあギンなのか?起きあがれないからどいてくれ。」と天井に向かって声を上げる。

すると、いきなり顔の前にギンがぬっと顔を出して見下ろし、ため息をつくように、「主殿、確認もせずに濡れ衣を着せるのは良くないぞ。」と呆れた声で自分でもないと告げてきた。

へっ?じゃあ誰なんだ?

僕は、そのまま腹筋で起きあがるのをあきらめて、反転し、手を床について上半身を上げる。

すると顔の高さにちょうど目のあったそれは、まっすぐ僕を見つめると、再び資金kyりから突進してきた。

「うおっふ」

アー変な声出た。人間の体はエビぞりに曲がるおうに出来てないから。

上半身を起こしたところに突進されて、腰が曲がっちゃいけない方向へ曲がりそうになる。

いやいや、背骨折れたら廃人になるから。

「その辺で辞めておいてやれ。」ギンの声で、その生き物は突進を辞めて、僕の前頭部を甘噛みしだした。涎がべとべとと顔に伝わってくる。

僕はそれを無理矢理引きはがすと、折れそうだった腰椎をなんとか宥めながら、膝をついて立ち上がり、その生き物を視界の全部に捕らえた。

その生き物は、それはそれは小さな馬だった。

子馬というのとも違って、四肢と体のバランスが前世のミニチュアホースのようだった。

なおも、その馬は僕のお腹に顔をぐりぐりとこすりつけてくる。

「えーと、この馬は一体どこから来たの?」

とりあえず、何か知っていそうなギンに尋ねる。

「その馬はミニバというとても警戒心の強い珍しい魔物で、人を襲うこともなければ、そもそも人の居るところに出てくる魔物ではないはずなんだが。この村に居たとも考えにくいしな。まあ主の気配に惹かれて、ふらっと現れたのであろう。」

「いや、そんなんで説明つくの?」

僕の頭の上には盛大に疑問符が浮かんでいたが、とりあえず、悩んでも仕方がないので、やることは先にやってしまう。

怪我していた馬の患部を触診する。

さわっても帰納のような激痛はないらしい、とりあえず断裂した腱が神経に干渉することはもうないはずなので、痛みはないだろう。

ただ、痛みの記憶が残った状態だと、実際には大丈夫でも怪我した足を庇おうとして、体重移動が不自然になり、別の足を怪我しやすくなる。そうなると、せっかく治療しても、目の届かないところで別の足を怪我したり、体重を分散出来ずに立っていられなくなり、内臓に負担がかかって結局死に至る危険もある。

全力で走るのは無理でもトロットくらいは出来るようになっているはずだが。

僕は、クララの顔を見つめながら、ロープの補助を解くから、全部の足に体重を分散させて、ちゃんと四つの足で立ってごらん、と話しかける。言葉は通じないと思うけど、危害を加えようとしているのではないという気持ちは通じて欲しい。

すると、ミニバが何かを怪我している馬に話しかけ、怪我をしている馬はおとなしくなった。

ギンが、ミニバが馬に言い聞かせてくれたぞ、と教えてくれる。

ミニバは獣系の魔物で、高位の存在なので、僕の言葉が分かるらしい。フェンリルとも意思を通わせることが出来るよう亜。そして馬の魔物だけあって、普通の馬とも話ができるらしい。

僕は、天井からクララのお腹をくくってつり下げていたロープを外す。

最初は、ぶるぶると震えていた左後ろ脚だが、すっくと脚を伸ばして、しっかりと立っているようだった。

うん、心臓発作を起こす心配はなさそうだ。

待ちに待った瞬間「見て、クララが立ったよ。わーいクララが立った。」と満足そうに一人ごちたら、周りの従魔に可哀想な物を見る目で見られた。

僕は、クララの額を撫でると、医療魔法で、生理食塩水を馬の口の中に出してあげた。

純粋な水よりも怪我の治療で大量に発汗した馬には塩分も一緒に取れるほうがいいので、生理食塩水を体が欲していたらしい。美味しそうに水を飲んでいた。

それを見ていたミニバも、僕のコートの裾を噛んで引っ張り、自分にもと催促してくる。

クララが満足そうに水を飲み終えたのを見届けてから、手のひらを掬うように合わせて、その中に生理食塩水を出して顔の前に持っていってあげると、嬉しそうに飲み出したが、舌が手のひらを舐め上げるので、くすぐったい。思わず手のひらがほどけて水がこぼれそうになってしまい、ミニバに怒られた。

それならと、口の中に直接生理食塩水を送り込もうとすると、それも拒否される。手のひらに出した方がいいらしい。

ギンが「主殿の魔力も一緒に補給しているのだ。水だけが飲みたい訳ではないらしいぞ。」とその理由を説明してくれる。

朝のドタバタが一段落したところで、馬小屋を出て、村の広場に向かうと、村長のヨーゼフさん以下、村の人が総出で迎えてくれた。

馬の怪我を治したことで、村の人たちには好意を持ってもらえたらしい。

広場には、村の特産である鶏の卵やチーズ、そして銅で出来た缶に入ったミルクも置いてあった。

未だに疑心暗鬼のようだが、ミルクは20リットルくらい入りそうな缶が20個ほどあった。チーズは山積みになっていたので、数量はよく分からない。前世でもそんな大量のチーズは見たことがない。卵も300個はある。

ヨーゼフさんが、おそるおそる、「村の特産品のチーズと卵です。あと言われたとおりミルクも用意しましたが、2日ともたんのです。あとそのまま飲むのはお腹が痛くなるので辞めた方がいいですだ。」

なるほど、ミルクは殺菌されてないままの生乳ということなのか。加熱殺菌を教えてあげたいけど、温度計のないこの村で正確に58度くらいでの殺菌は難しいだろう。

牛乳の主成分であるプロテイン(タンパク質)は焼く60度くらいから熱変形してしまい、触感が悪くなる。なので、その温度にならないように調整したお湯の中に容器ごと付けて、数十分殺菌する必要があるのだ、そうすれば2日ではなく7日間くらいは日持ちするようにもなる。生乳の中の雑菌が生きている状態だと腐敗するのも早くなるだけで、生で飲むとお腹を壊すというのも、間違いなくそれが原因だろう。

僕は、一応、生乳を飲んでお腹を壊す原因、日持ちしない原因が生乳の中の雑菌にあること、あまり熱すぎないお湯に容器ごと付けることで殺菌出来ることを教えてあげる。

僕自身は、医療魔法の「浄化」を使うことで、加熱せずに殺菌が出来るので、生乳の味を一切損なうことなく殺菌が出来る。本当に魔法って便利過ぎる。

卵はアンタレスの街で買うと1個大銅貨1枚するのに、ここでは銅貨2枚で買える。街の値段のほとんどが運送費だった。振動に弱いこともあり、運送途中で割れてしまうロスも見込んだ価格のため、街では卵が高級品になってしまうのだった。

これも運送用の容器を工夫したり、振動の対策に荷馬車にサスペンションを付けるなどの方法があるのだが、マジックバッグをカモフラージュにした異次元収納を持つ僕が何を言ったところで嫌みにしか聞こえなくなる。

マジックバッグがあるからと無理矢理村人には納得してもらい、卵500個、ミルクは1リットルで大銅貨2枚、容器は保証金を払って貸与する方式なのだそうだが、そのまま旅に出てしまうので、容器ごと買取にさせてもらった。

村でも容器はないと困るらしいので、容器に入れた状態で10缶購入し、その中身を、空いていた寸胴などに移し替える。10缶は缶のまま買い受ける。

ミルクそのものは一缶で銀貨4枚だが、容器は大銀貨2枚である。金貨2枚と大銀貨8枚支払ってミルクももらい受ける。チーズはフリスビーの大きさで、およそ1kg、1個あたり銀貨5枚で、ほとんど貴族向けにしか売れない商品らしかった。平民が食べる料理にチーズを使うのも贅沢に過ぎるらしい。昨日は遠方から来た客ということでもてなしの胃みっも会ってチーズをふんだんに使った料理を出してくれたらしい。

1kgが5000円くらいって、やはりナチュラルチーズの値段としては安いと思うのは、僕が異世界から来た人間だからだろう。チーズは不良在庫と化している村の在庫全部を買い占めることにして、金貨25枚を支払い、フリスビー状のチーズ500枚を受け取ったのだった。

村人たちは驚くやら喜ぶやらで、「これで今年の冬は心配しなくて済む」などの声が方々で上がった。

そして最大の目的であった荷馬車用の馬も、クララを引き取ることになったので、出来ればクララが寂しくないように、クララと同じ馬房で飼われていた馬二頭を相場の金貨5枚で購入し、全部一括で払った。

僕たちはこうして村に来た用事を全部果たすことが出来たので、一旦アンタレスの街に戻ることにした。

荷馬車に今朝買った馬二頭を付けて、荷台にはミルクの缶ではなく、クララを乗せるという端から見たら気が狂ったんじゃないかという光景であった。異次元ポケットには無生物を収納することが出来ても、生物の収納は不可能であるため、クララの脚に負担を掛けないよう、クララを引いて街に戻るのは、まだ万全ではない。

そして、朝突然突っ込んできたミニバは、村の人の誰にも心当たりはなかった。まあ、魔物なので当然なのだが、何故魔物が村の中に入り込めたのかも分からなかったが、人に危害を与える魔物ではないので、村の周囲に設置してある魔物避けが反応しなかったのだろうちう話でなんとなく収束した。知らんけど。

ミニバは後をついてくる気満々だったので、どうしようか真剣に悩んでいると、ミニバはその小さな体型を活かして、僕の前まで来るとくりくりとした済んだ瞳で上目遣いに見上げてくる。

ずっ、ずるい。そんなことをされたらダメとか言えないじゃん。

ギンにも、「ミニバは体に似合わず、力持ちだし、持久力も無尽蔵だぞ。臆病な性格だから、野盗や魔物の襲撃への応戦には向かないが、それは我らの役目だし、今建造中の馬車の牽き馬にちょうどいいんじゃないか。」

「いやいや、こんな小さな馬に大きな馬車を牽かせたら、虐待しているように見えるじゃん。」

「何を言って居るんだ。そのミニバ一頭で普通の馬10頭よりも力は上だぞ。持久力だけなら、我よりも上かもしれんぞ。我やムートは瞬発力頼みのところがあるからな。長旅のお供には最適だぞ。」

何故かギンが強力に推薦してくる。ミニバの上目遣いといい、一体何の共同戦線なんだ。

根負けしたので、ミニバも従魔に加えることにする。名前を「ミニホ」にした。なんとなくスマホの親戚みたいだが、ミニチュアホースの略ということで。

僕たちは一路アンタレスの街を目指した。まさか、僕たちの留守の間に修道院に再び魔の手が伸びようとしていたことを知る由もなかった。








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