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ドクトルテイマー 続き  作者: モフモフのモブ
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エピソード5

シリウスの町の門から続く大通りを進んですぐのところに冒険者ギルドはあった。

それほど豪奢な建築ではなかったが、入り口が非常に大きく、高さ3mくらいあるギンが不自由なく入ることが出来た。さすがに3階建ての家くらいの大きさもあるヴィルさんは入れなさそうだが、これだけ大きな扉がある建物は見たことがなかった。

建物の中には思ったより人は少なかった。

それでも何人かは「冒険者」と呼ばれている人たちが室内にいたのだが、一様に張りつめた緊張の面持ちでこちらを眺めていた。

一体何がと訝しげに思ったのだが、周囲の視線を辿っていくと、僕とは視線が合わず、いずれも僕の後ろに流れていた。

あ、そうか、ギンを見ているのか。そりゃそうだ。建物の中に巨大な狼が入っていったらそりゃ驚くよな。でも、ハンスさんは従魔の登録があるから、ギンもムートも一緒に建物に入る必要があると言ってたし。

物理的には入れなさそうなヴィルさんはともかく、入れる以上は、登録する従魔の確認があるらしい。

ハンスさんの説明では、朝早くと夕方は通常混雑しているとのことだった。

なので、この時間にギルドにたどり着いたのは僥倖だろう。混雑しているところへギンを連れ込んだらちょっとした騒動にはなりそうだ。

何でもその日に張り出される仕事の受注書クエストというらしいが早い者勝ちなんだそうで、誰もが割の良いクエストを受けようと、朝早くから掲示板の前に張り付いているそうだ。どうやら日雇い斡旋所みたいなところらしい。

夕方に混むのは、その日受けた仕事を終えて、仕事先から仕事完了のサインをもらって換金したり、狩猟チームは獲物の買取をしてもらいお金に換えるためだそうだ。

クエストの掲示板は入り口を入った右側の壁に張り出されていて、真正面にカウンターがあり、そこに制服を着た事務の人がいた。カウンターは依頼の受け付けと会計に分かれていて、蛭間近の今の時間はどちらもすいていた。

シリウスの町くらいの規模だと、冒険者登録のカウンターは依頼受注のカウンターと共通になるらしい。一般市民や領主や貴族などからの依頼の受付は、粗暴な冒険者とは場所を分けるために、2階に特別窓口があるんだそうだ。

そのほか2階には、お偉いさんの部屋や職員の更衣室や休憩室、ギルド会員が利用出来る資料室などがあるとのことだった。

そして、まだ朝と言ってもおかしくない時間なのに、1階の半分は食堂というより飲み屋になっていて、その時間から酒を飲んでいる人たちがいた。

母奥はハンスさんの後に続いてカウンターに向かい、ハンスさんはまず、カウンターの向かって右側つまり掲示板に近い方のカウンターで、僕を指さして、「こいつが冒険者として登録する。あと、後ろにいる狼と肩に乗っているドラゴン、そして頭に載っているスライムはこいつの従魔だから、その登録も併せてする。」と説明してくれた。

その後、ハンスさんは左にスライドし、買取のカウンターに村で解体した大きな猪の毛皮と牙を提出していた。

「あの、いいですか?」隣のカウンターを眺める僕に向かってふいに声が掛けられ、母校はあわてて真正面を向く。

僕と年がそれほど離れてはいなさそうな、それでも若い女性が目の前で僕を見ていた。

「あ、済みません」

「いえ、それで冒険者登録ですよね。これに必要事項の記入をして下さい。」

女性はそういって、僕に一枚の紙を渡す。

日本語で書かれているはずないのに、日本語以外英語さえ怪しい語学力しかない僕だったが、その紙に書いてある文字が読めた。

「読み書き出来ない人には代筆もしています。」と言われたけど、

「あ、なんとか理解できそうです。」と答えて書き込んでいく。


 名前  ケント

 年齢  25歳

 職業  テイマー

 スキル 秘匿


 必要記載事項は名前と年齢と職業だけで、スキルというのはこの世界では6歳になった子供は全員女神の神託によって特殊な技能を授かるその技能のことらしい。

 冒険者は手の内を明かすことが生死に直結するので、あくまでも開示してよいと自分で思うときだけの任意の回答事項であるが、ギルドに開示しておけば、技能に合った依頼がある場合には優先的に受注の便宜を図ってもらえるなどの利点があるらしい。もちろん、秘匿しておくことも問題ない。

 僕の場合は、前世の記憶により医術によって怪我や病気の治療をすることが出来るが、マリーおばさんやハンスとの事前の話し合いで、トラブルになる未来しか予想できないので、内緒にしておく方がよいということになった。


 回答を書き込むと、それを受け取った女性が一つ一つ読み上げながら確認していく。

 年齢のところで、成人になったばかりに見えますと言われる。この世界では15歳で成人になるらしいので、いくらなんでもお世辞にも聞こえないのだが、黒髪黒目の東洋人が幼く見えるという西洋あるあるなのだろう。職業のところでは、用紙と僕の顔、そして後ろのギンたちをなんども見比べてため息をつかれた。なぜだろう?

「職業テイマーなんですね。テイマーという職業はどうしても他の人とパーティーを組みにくいという不利があり、なかなかギルドのランクを上げるのも大変なんですが、うしろの巨大な狼や、またいくら幼体とはいえ竜もいるんですよね?いろいろと驚くことが多すぎて何から説明していいのか。」女性はそう言いながらも、冒険者登録自体は問題ないので、手続を進めてくれる。

「それでは、冒険者とギルドについて説明します。

 冒険者は全てギルドに登録し、ギルドを通じて冒険者として活動します。

 登録して最初は誰もが10級からスタートします。依頼を受けていくことで、実績を積み重ねて、その実力を示して頂くことで、ギルドが昇格の認定を行います。

 最初の10級というのは試用期間の等級といっても過言ではなく、1年以内に昇給しない場合には、冒険者の資格を失うことになります。逆に言えば1年以内に9級に昇格できない人は冒険者としての資質がなかったとお考え下さい。

 次に依頼の受け方ですが、あちらの壁に貼ってある依頼書を剥がして、このカウンターに持ってきて依頼を受ける旨お伝え頂きましたらここで受付をしている私たち職員が。依頼の受付処理を致します。依頼の受注と完了の情報は全て今からお渡しする会員証に記録されますので、会員証は必ず紛失しないようにお餅下さい。紛失されますと再発行に手数料がかかります。登録自体は無料ですが、先ほどお伝えした1年以内に昇格出来ずに会員資格剥奪の場合には、無駄な手続をさせられた賠償として銀貨5枚を申し受けます。お支払い頂けないと犯罪者として登録され、町への出入りが出来なくなるのでお気をつけ下さい。

 また、依頼を受けることが出来るのは、それぞれ等級にあった依頼までで、自身の等級より低い依頼を受けることが出来ますが、逆に高い依頼を受けることは出来ません。お金目当てに身の丈に合わない依頼を受けて死んでしまわないように規則で定められたものですので、違反すると会員資格の剥奪もあります。

一端ここまでで何か質問ありますか?」

「いえ、大丈夫です。」

「クエストには、個々の冒険者への依頼の他、パーティーでなければ受注出来ないというものがあります。

 また、難易度の高いクエストになると失敗することで賠償金が生じるものも出てきます。お気をつけ下さい。

あと、掲示板には張り出しませんが、何時どれだけ受けて頂いても構わない依頼、すなわち常設のクエストとして、薬草の採取、角ウサギの角、皮、肉の納品、ゴブリンの討伐などがあります。細かい説明はその都度依頼を受けられたときに説明しますが、これらの依頼はカウンターで受け付けしなくても、そのまま品物をお持ち頂ければ、依頼完了扱いとなります。

説明は以上です。最後に魔力測定をしますので、この水晶に手をあてて、魔力を流し込んで下さい。」

「えーと?魔力を流すというのほどういう風にするんですか?」

僕は全く意味が分からずに尋ねる。

「済みません。そこから説明する時間はありませんが、今までに魔法を使われたことなどは?」

「魔法って何ですか?」

僕が沿う尋ねると、ギンが頭の中に直接語りかけてくる。

「主は我やそこの竜より遙かに強大な魔力を持っている。その水晶に手をあてて、思い切り汗を体の外へ吹き出すイメージで力を入れてみたら?」

僕は疑問符が頭の中に浮かんだまま、ギンの言うとおりに水晶に手を当てて「ふん!」と力を込める。

「パリンッ」

一瞬水晶が激しく光ったかと思うと水晶が粉々に砕け散った。

「な、何をしたんですかっ!」女性が大声を出し、周囲の人間の視線が全て僕たちに向けられた。

「おい、今の見たか?」

「魔力測定の水晶を割ったぞあいつ。」

「ウソだろ?水晶を割るなんて聞いたこともないぞ。」

「あー、えーと、なんか済みません。こんなことになるなんて思わなくて。」

「い、いえ、こちらこそ水晶が誤作動したみたいで。」

(くっくくくっ)

ギンが笑いをこらえようとして失敗している。

『ほらみたことか主の魔力をそんなちっぽけな水晶で計ろうというのが無理なのだ。』

『分かっているなら止めてくれよ。なんでやれって言うんだ。』

ギンの言葉に乗せられて思い切り力を入れたことで、瞬間的に膨大な魔力の流れ込んだ水晶は罅が入るとか避けるとかですらなく、文字通り粉砕された。

受付の女性は動揺したままだったが、冒険者になる要件になっていないので会員証は問題なく作成されるそうだ。

会員証ができあがるまでの時間を利用して、従魔の登録をすることになった。

僕はスライムのプルン、フェンリルのギン、エンシャントドラゴンのムートと従魔登録用の用紙に記載する。

すると受付女性は僕から登録用紙を受け取ると、再び悲鳴を上げる。

「フェ、フェ、フェンリル!?エ、エンシャントドラゴン!!?」

女性はそのまま力なく崩れ落ち、そのまま気を失ってしまった。

何故だ?

騒ぎを聞きつけ、2階から初老の男性が降りてくる。

「騒がしいな。何があった。」

その男性は年配ながら節制を怠っていない強者の風格を漂わせていた。カウンター飲む甲側に受付嬢が気を失って倒れているのを見て。その男性の雰囲気が変わる。殺気をまとい階段を下りてくると、僕をにらみつけ「おまえ、うちの職員に何をした?」と低い声で尋ねる。

僕は動揺しながらも「分かりません。従魔の登録の手続をしていたら、急に叫び声を上げて倒れました。」と一応本当のことなので説明をする。

「ふーん、従魔・・・っ」

僕から視線を外し、後ろにいるギンたちに視線が向かったと思うとその男性の目が急に見開かれる。

「お、おまっ、それはもしやフェンリルとドラゴンか?」

「スライムもいますよ。仲間はずれはかわいそうです。」

僕は頭の上にいるプルンが無視されたことにちょっと反発して、沿う付け加える。

「あ、いや、そういうことじゃなくてな。」初老の男性は僕が何に怒っているのか意味が分からないと困惑しながら、フォローを始めた。

「フェンリルだけでなく幼体とはいえ竜もおまえの従魔だというのか。どちらか片方だけでも危険きわまりない魔獣だというのに。なぜそろってこんなところにいる?」

「そういわれても一緒に旅をする仲間なので。」

僕はムッとしながら答える。僕が「仲間」という言葉でギンとムートの説明をしたこと、プルンを仲間はずれにするなと怒ったことで、3匹とも嬉しそうだ。

「あ、なんかかみ合ってないのは分かったけど、本当にそいつらはおまえの従魔なのか。暴れることはないのか。」

緊迫した表情で1階まで降りて木ながらもおそるおそる僕に尋ねる。

「ギンもムートもプルンもみんなおとなしいんです。暴れることなんてないです。」

僕が反論すると、買取カウンターにいたハンスさんが、「ギルドマスター、その狼も竜も底にいるケントの従魔で、信じられないかもしれないが、ケントに懐いていておとなしいもんだ。俺らは村からここまで一緒に来たけど、そのフェンリルはケントを乗せて道中歩いてきたし、夜の見張りも手伝ってくれたんだぜ。」

その言葉を聞いて再び驚きで目を見張るギルドマスターと呼ばれた男性

「あの、従魔登録しておかないと、彼らに危害を加えようとする者が出るかもしれないと聞いてます。手続してもらっていいですか?」

「お、おう・・・」ギルドマスターは心ここにあらずといった感じで呟く。

そのとき気を失っていた受付嬢が目を覚まし、ギルドマスターが隣に立っているのに気付くと「ギルマス、何してるんですか?」と無邪気な声で尋ねる。

「いや、こっちの台詞だ。突然ギルド中に響く大声で叫んだから何があったと降りてきたんだ。」

ギルマスの説明で少しずつ目の焦点があってきた受付嬢は記憶を血戻すかのように目に光が蘇り、「そ。そうでした。ド、ドラゴンとフェンリルです。」

「あーわかったから、とりあえず従魔登録を進めてくれ。」ギルマスが受付嬢に指示する。

「え?だってフェンリルですよ?ドラゴンですよ?」

「フェンリルとドラゴンは従魔登録出来似合いという決まりもないしな。いや、おまえの言いたいことは分かる。俺だって目の前の光景な夢か何かだと思いたいんだが・・・」

「プルンだって大事な仲間なんです。さっきからどうしてプルンだけ仲間はずれなんですか。」

僕の見当違いな抗議があさっての方向へ投げかけられていた。

困惑の中、従魔登録はなんとか終わり、時を同じくして会員証もできあがった。最後に僕の血を一滴垂らすことで所有者登録となり、他人には使用できないようになるのだとうい。メカニズムが全く理解出来ないが、生体認証は僕の世界でもつい最近の技術右なのに。

登録した従魔には町中でもそれと分かるように、従魔の印を装備することが義務づけられている。ムートは体の大きさを自由に変えられるばかりか、その幅があまりにも広すぎて、無理だろうと思ったのだが、なぜか体似合わせて自由にサイズ調整出来る腕輪があるらしい。マジックアイテムとかいうもののため、そのお値段金貨1枚とのことだが、何の問題もない。それでムートに降りかかる面倒ごとが少しでも減るなら安い買い物でしかない。

ギンも前足につける腕輪、プルンは腕輪を冠のように頭に乗せる方法にした。やっぱりスライムは王冠でないとってどこかで声がしたような気がする。

僕は冒険者の会員証を受け取ると、買取カウンターにいるハンスさんと合流する。

村で解体出来ずにそのまま異次元ポケットに収まっているタイラントボアという猪の魔物の解体と買取をお願いするためだ。

僕はハンスさんの待つ買取カウンターに行くと、ハンスさんが受付の人に「さっき説明したこいつが買取の依頼をするんだが、ここでは場所が狭すぎて、物が出せないので、裏に回らせてもらっていいか?」

ハンスさんの言葉にその受付嬢は「何も持ってないじゃないですか。冗談につきあっているほどギルドは隙じゃないんです。」

「あんたも今そいつが魔力測定の水晶を粉々にしたところ見てただろ?それに、倒したのはそこの兄ちゃんじゃないうて後ろのドラゴンだから、それならなんとなく分かるだろ?」

ハンス産の言葉に不満ながらも頷いて、僕たちは裏手にある解体場へと案内される。

なぜかギルマスさんという人も後をついてきた。登録を担当した受付嬢も何気ない顔でついてこようとしたが、ギルマスさんに止められ、「おまえは仕事しろ。」と追い返されてブツブツ文句を言いながら戻っていった。




 


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