エピソード47
秋晴れの穏やかjな日、とうとう蒸留小屋が完成した。
小屋には防犯の最新設備を備え、僕と院長先生のいずれかが同伴でないと中に入れないようになっている。
どういう仕組みか分からないけど、全体的に技術が遅れたこの世界において、ところどころ、前世にもない技術が突然現れたりするのが不思議で仕方がない。
蒸留器は底に火属性の魔法陣が設置され、魔石から得た魔力で作動する。
魔石は特殊な上位の魔物のそれを除いて、純粋な魔力の集合体で、魔石そのものには属性はなく、どの属性の魔力に変換するかは魔法陣の方で担当することになる。
つまり魔石の価値はどれだけの魔力を包含しているかということに尽きる。もちろん、属性のついた珍しい魔石は、武具の属性付加に用いられることがほとんどで、その需要と供給のアンバランスから、極めて高額での取引がされている。
魔石は一度可動させてしまえば、途中で止めて次回続きから残りを使うということが出来ないので、用途にあったサイズの魔石を使うか、よりキャパの大きな魔石を無駄にするしかない。
つまり何が言いたいかというと、ミノタウロスの魔石しか持っていなかった僕は、ギルドで、フォレストボアの魔石をこの機械の作動のために購入したのだった。
あまり魔力が高すぎて、温度が高くなりすぎると、アルコールだけでなく水分まで気化してしまい、アルコールだけを集めることができなくなるからである。
目の前の大きな蒸留装置で試したことはないが、僕がもっている小さな方ではそうだったので、スケールが大きくなっても、考え方は変わらない。
一応、しばらくは試行錯誤になることは想定しているが、失敗なくして成功はない。
アルコールを抽出するためだけなので、ワインは高品質のものである必要がない。
この街ではワインは作っていないので、いずれワイナリーを見つけたら、その地に蒸留所を設置するのもありだろう。
ワインを絞った後の糟でもブランデーは製造できる。飲料にしないエタノールならなおさらのことである。
いずれ孤児院の子供と院長先生たちだけで、製造が出来るようになってもらうため、作業はシステム化する必要がある。
そこで、蒸留装置を作るとき、ワインを樽で業者から購入する場合に、納品してもらう、納入口を建物の外側に設置し、そこから樽が転がって配置され、一つずつ、蒸留装置の底にワインを注入できる口まで樽が自重で動く仕組みにして、樽の栓を抜けば、子供でも蒸留装置の底に人たる分のワインを注ぐことが出来るようにしてある。
魔石の取り扱いは危険なので、大人限定だが、魔石を設置し、魔力を魔法陣に注ぎ込むのも、蒸留装置が熱せられ、中の気体がそのまま管を通って、上部で冷やされ、そのまま細い管を通じて、アルコールだけが抽出されるところで、装置の作動が停止した後、蛇口をひねると、アルコールやブランデーが容器に溜まっていく仕組みである。
そうやって出来たブランデーっぽい何かはやはりとうか当然というか、酒精が強いだけで、味が安定しない飲み物ではあったが、これはもうワインの品質が安定しないのだから仕方がないというしかなかった。
しかも、街の近くにブドウ農家もワイン醸造所もないということは、ワインそのものを生産地から運んでこなければならないということになるが、この世界の運搬方法は荷車であり、何に引かせるかの違いはあれど、揺れが加わることは間違いない。
定期的に召還されるらしい異世界人、なぜか日本人だけらしいのだが、がサスペンションを持ち込んでいるものの、バネ加工の出来る鍛冶があまり多くないため、サスペンションを使った場所は価格の高いものとなり、田舎からワイン樽を運ぶ荷車に使われることはないため、産地が近くにあるか、特別な方法で少量を運ぶかでないかぎりワインの質も味も壊滅的になる。
それでも、僕には勝算があった。まあ医療用のアルコールを製造するときの副産物ぐらいにしかそもそも考えていないが、蒸留後に残るアルコールの抜けたワインの残骸すらも名物にしてしまおうというのだ。
そもそもワイン煮込みにアルコールは要らない。元々風味を足す程度の意味しかないのだ。煮込む途中でアルコールなど蒸発してしまうのだから。
であれば、始めからアルコールの抜けたワインの残りを使って煮込んでも、何の問題もない。むしろアルコール化せずに残った糖度の高い液体がより料理にコクを与えてくれる。
この試みは成功することは、トリッパの煮込みで確認済みである。
まあ、内臓は時間停止の収納持ちの僕だから仕えるので、実際には兎やボアの肉の部分の煮込みにはなるが、これにブランデーもどきをセットにして持ち帰り専用で販売すれば、修道院の経営に大きく貢献するはずである。
ブランデーは持ち帰りようの壺に量り売りで、125mlあたり、銀貨3枚、煮込みは煮込んだ肉だけ取り出し、煮込んだ野菜入りスープを200mlに肉を3きれずつ付けて、兎で大銅貨5枚、ボアで銀貨1枚とした。
酒の値段としては極めて高額であるが、世界に一つしかないという希少価値でいけるだろうという読みもあった。
料理も決して低額とは言えないが、ワインで煮込んでいるという高級感が後押ししてくれるのと、何よりブランデーと同じワインを使って作られている料理がブランデーに合わないはずがなく、高級なお酒を口にする高揚感が、ちょっとくらい高い料理の値段の高さを麻痺させてくれると考えたのだ。
まあ場所が貧民街への入り口である修道院の敷地というのがどうなのかという問題はあるが、これも幸いに貧民街の奥の無法地帯という訳でもないので、職人街や商業地域と隣接している場所にあるのは、まだアクセスとしては許容範囲であった。
まあ、最大の客層になりそうな富裕層の居住区域とは大分離れてはいるのだが、そのうちサテライトショップを始めることも検討すればいいだろう。
そして、ブランデーの人気はあっという間に広まり、爆発的に浸透していった。
何より数は多くないもののドワーフが熱狂的な信者として、リピーターになった。
ぬるいエールと激しい振動で一気に劣化してしまったワインの味しか知らない冒険者にも新しい酒は歓迎された。
ブランデーとの相性が悪いはずもない煮込みも合わせて売れ、酒が煮込みの売れ行きを支え、煮込みが酒の売れ行きを支える相乗効果で、原料のワインを余すところなく使えるこのアイデアは、修道院に多きな収益をもたらし、引き取ることの出来る孤児の数も増やすことが出来た。




