エピソード44
そして、場面は冒険者ギルドの応接室でのギルドマスターとの会話に戻る。
「すまなかった。領主はそれほど悪いやつじゃないんだ。まあ他聞に漏れず貴族なんで、その部下の騎士が、おまえさんは平民だからと侮ったのだろう。」
「で、結局何故なのですか。」
なぜ面倒ごとに巻き込まれたのかを率直に尋ねた。
「お前さんの存在が気になるらしいんだ。まあそりゃ半日そこらでダンジョンを制圧して、災害以外の何物とも形容しがたい、第2級危険度の魔物の大群を魔石にしちまったんだ。場所が場所なら今頃、王城に呼び出されてるぞ。まあ、そっちについても時間の問題なんだろうが。要するにだ。おまえさんに興味があって会いたいんだそうだ。」
「魔石をギルドに売り渡すときに、面倒ごとはごめんだとはっきり伝えたと思うのですが、この街を出て行ったほうがいいですか。僕としては修道院の改築中ですし、新しい産業も根付かせて、孤児院の経営にも追い風になればと思って始めたことがまだ終わってないのですが。領主に絡まれたとなればあきらめるしかないですかね。修道院に迷惑を掛ける訳にはいきませんので、先ほどのように。」
僕はいらだちを隠すこともなく、面倒な話にするなら、出て行くと告げた。
ギルドマスターは、慌てて「いや、それは困る。お前さんの意向は領主に伝えておく。領主も下手にお前さんを怒らせて、街から出て行かれるような状態は好まない。圧倒的な力をもった冒険者はどの国でも貴重なものだ。それが、怪我や病気を治す力を持ちながら街一つを壊滅させるような圧倒的な暴力さえも鎮圧出来るとなれば、神話の中の英雄とさえ評される。どの国にいっても、三つ指ついて迎えられ右存在だ。」
(三つ指ついてってどこの江戸時代の三歩下がって、夫の影すら踏まない武士の嫁なんだよ)
もはや言い回しも時代劇風ではなくなんとなくおかしくなっていることに突っ込むことにすら疲弊してきた。
「じゃあ、領主には、「断る」と回答しておいて下さい。それで面倒ごとになるようであれば、なるべく早めに知らせて下さい。出て行く準備もありますので。」
「だからどうしてそう、二言目には出て行くって言うんだ。少しはもっとこう、街に腰を据えて、じっくりクエストに取り組んでみようかなとか無いのか。」
「別に、お金には困ってないので。」
「そう言っちまったら身も蓋もないだろ。あ、そういえば魔石の買取代金とスタンピード制圧の報奨金な。まず、魔石が金貨3000枚、まあ第4級の魔物の魔石だから相場通りの金額だ。数は多いけど、グレードの高い魔石は慢性的に不足しているから、値崩れはしにくい。次に特別報奨金だが、金貨1000枚だ。功績からすればもう少し高くていいと思うんだが、最終的におまえさん一人だから、そんなにたくさん渡せないっていうのもあって、後は重傷を負った冒険者への生活保障とかもあってな。」
「僕はそれほどお金に執着している訳ではないので、むしろ、足を潰された冒険者や腕をちぎられた冒険者、内臓破裂の冒険者はいずれも命こそ取り留めたとはいえ、この先の生活は大変でしょうから、そちらへの保障を充実させて下さい。」
そう伝えると。「まあ、そうはいっても冒険者は所詮自己責任だ。適わないと思えば、引くという手も実際あの場面ではあった。強制出動とかであればまた話も違っただろうに。」
と残念そうにギルドマスターが話す。まあ悪い人ではないんだろうけど、与えられた既定の枠から一歩も出ないというのが惜しいところだ。
「それならば、特別報奨金とかいう金貨1000枚の中から、腕をちぎられた人に金貨200枚、左足を潰された人に金貨200枚、内臓破裂の人に金貨200枚を渡して下さい。残りの400枚でももらいすぎな気がします。魔石買取分だけでも十分ですので。」
僕は酒場でエール一杯奢りますみたいな感じにそう伝えると、再びギルドマスターは目を白黒させ、「おまえ本気で言っているのか。金貨600枚なんて、生涯掛けてそれだけの金が得られる人間すらそんなに居ないんだぞ。」
「別に良いです。本当に今はお金に困ってないんで。」
「あと重傷でないにしても、それなりに怪我をしている冒険者は居たはずです。そっちには領主がちゃんと見舞金出して下さい。あまりにも少ない保障の重傷冒険者の分は今のでなんとかなって欲しいですが。」
僕は、領主の件も片づいたものと決めつけ、ギルドを後にすることにした。
立ち上がり最後にもう一度「面倒ごとはお断りです。」
「あのな、あとおまえさんの冒険者のランクを第3級に引き上げるって話があ・・・」
「断ります。」
「ですよねー。いや、そうじゃなくて、一人で1000体のミノタウロスを瞬殺しましたって、第1級でもおかしくないんだぞ。たとえドラゴンとフェンリルがやったにしても、おまえさんの従魔である以上、おまえさんがやったことになるんだから。そんな奴第6級にしておけると思うか?」
「冒険者規定は登録したときに確認しているので、知ってます、本人の同意無しに昇格は出来ないですよね。」
「いや、だからなんで断ろうとするの?第3級なんてなりたくてもなれない冒険者がどれだけいると思っているの?報酬の高いクエストだって受けられるようになるんだぞ。」
「別にお金には困ってないって言いませんでしたか。やりたくもない依頼を強命令と称して強制されるのは嫌なんです。特に命を粗末にする話には荷担しません。」
「そうはいってもダンジョンでは1000体のミノタウロスを・・・」
「ギン・・・フェンリルが、このままだと街の人が襲われて危険だからというので。それにダンジョンの中の魔物は命を奪っているように見えないので、僕の中ではカウントしなくていいことになりました。」
「ということはダンジョンの依頼ならいいんだな。」
「強制が嫌だと言っているのです。もう話は終わりにしましょう。」
「じゃ、じゃあ、こうしよう。強制はなしで、依頼は拒否できるという条件で3級に」
「他の冒険者に示しがつかないでしょう。この話は終わりです。お断りします。」
僕は最後にそういって、ギルドを出た。




